あの夏のこと、今でもふと思い出します。
16歳の私は、生きているのが本当に苦しくて、もう全部やめてしまいたいと、そんな気持ちばかりを抱えて歩いていました。
蝉の声すら、私には遠く響いて、世界はただ暑く、重たく、寂しいものでしかなかったんです。
そんなある日の午後、ふと足元に目をやると、弱ったミミズがアスファルトの上でうごめいていました。
正直、虫は苦手。でもそのままじゃ、きっと焼けてしまう。
何かしてあげなきゃって気持ちが勝って、私は近くの枝と葉っぱで、必死に土の方へ運ぼうとしていました。
うまくいかなくて、手も震えて、心もぐちゃぐちゃで、どうしてこんなことしてるんだろうって、そんなことまで思いながら。
そのときです。
通りがかった中年の男性が、私を見て足を止めて、こう言ったんです。
「具合悪いのかい?……あぁ、虫を助けようとしてるんだね。」
そう言って、彼は何のためらいもなく、素手でそのミミズを優しく掴み、日陰の柔らかな土の上にそっと置いてくれました。
そして笑って言ったんです。
「君、優しいね。偉いよ。」
その言葉が、私の心にすっと染み込んできました。
見てくれてた。気づいてくれてた。
ほんの一瞬でも、誰かが私を「優しい」と言ってくれた。
それだけで、私はなぜか、
もう少しだけ、生きてみようって、そう思えたんです。
あの日のあの人に、名前も知らないけれど、今も心から感謝しています。
私が“人の想い”に耳を澄ませるようになったのは、
あの瞬間に「命の温度」を感じたからかもしれません。
──遥(ハルカ)