なぜ日本の英語教育は成果が出ないのか?——データと脳科学が示す「崩壊の理由」と「最強の処方箋」

なぜ日本の英語教育は成果が出ないのか?——データと脳科学が示す「崩壊の理由」と「最強の処方箋」

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序章:現場で起きている「悲劇」——データが突きつける日本の英語教育の現実

「早期から始めれば、自然と英語が話せるようになる」
「コミュニケーションを重視したアクティブな授業にすれば、グローバル社会で世界に追いつける」

そう信じられ、国策として小学校での英語教科化や導入年齢の引き下げ、さらには会話偏重へのシフトが進められてきた日本の英語教育。

しかし、いま私たちの目の前に突きつけられているのは、そうした理想論やイメージとは正反対の「日本の英語学力の急激な低下傾向」という冷酷なデータです。

令和5年度 全国学力・学習状況調査(中学校 英語)の衝撃
文部科学省および国立教育政策研究所(NIER)が公表した、最新の「全国学力・学習状況調査」の中学校英語のデータは、日本の英語教育の構造的な崩壊を直視せざるを得ない内容となっています[1][2]。

・「話すこと(Speaking)」平均正答率はわずか 12.4%
全5問中、平均して0.6問しか正解できていません。それどころか、全受験生徒の約6割が「0点(正答数0問)」という極めて深刻な事態に陥っています[1]。

・3技能(聞く・読む・書く)平均正答率が 10.4ポイント急落
前回の平成31年度(2019年度)調査における3技能の平均正答率は「56.5%」でしたが、令和5年度(2023年度)は「46.1%」へと急落しました[1]。

「使える英語」を目指してスピーキングやコミュニケーションに授業時間を割いた結果、読み書き(リーディング・ライティング)の基礎学力が著しく低下しただけでなく、肝心のスピーキングすら壊滅状態という、最悪のバランス崩壊が起きているのです。

焦りが生んだ「英語嫌い」の加速

さらに深刻なのは、早期化や教科化の焦りが、子どもたちの心に深い「ひずみ」を生んでいる点です。同調査の学習意識調査(アンケート)では、以下のデータが示されています[2]。

・「英語の勉強が好きですか」への肯定的回答の推移
小学校:69.2%
中学校:52.3%(小学生より16.9ポイント低下

小学校では「楽しかった」はずの英語が、中学校に進学して教科として本格化した途端、約半数の生徒が「わからない」「嫌い」という強い苦手意識を抱くようになります。早期化は子どもたちに英語を授けるどころか、「早期に英語嫌いを固定化する装置」として機能してしまっているのが現実です。

なぜ、国を挙げた改革を進めているにもかかわらず、日本の英語力はこれほど逆方向に向かっているのでしょうか?

第1章:なぜ日本の英語教育は成果が出ないのか——ガラパゴス化と科学的根拠の欠如

日本の英語教育がこれほど迷走し、成果を出せない理由は、イメージ先行のブームに踊らされ、言語習得の科学的根拠(第二言語習得論:SLA)や、日本の置かれた環境の現実を完全に無視しているからです。

そこには、大きく分けて4つの構造的問題があります。

構造的問題①:「早期化」という幻想

日本の英語教育で最も蔓延している誤解が「早期英語=有利」という刷り込みです。しかし、応用言語学や教育現場の実証データは、これを明確に否定しています。

日本は日常の99%以上が日本語だけで完結する EFL(English as a Foreign Language:外国語としての英語)環境 です。生活のすべてが英語になる移住や留学とは根本的に条件が異なります[3]。

・琉球大学の縦断追跡研究
公立小学校で週2時間の早期英語指導を受けた児童と、一切受けずに中学校に入学した生徒を追跡したところ、中学校入学後わずか1学期末(7月)の時点で、両者の英語力や習熟度の差は完全に消失しました[4]。週1〜2時間×数年間の投資効果は、本格的な学習が始まればわずか数ヶ月で帳消しになります。

・「早期開始=有利」のエビデンスは存在しない
応用言語学者の寺沢拓敬氏は、世界各国で外国語教育の開始年齢を引き下げてきた数十年のあいだ、「開始年齢を下げること自体が語学力を高める」という科学的エビデンスはいまも実証されていないと指摘しています[3]。大切なのは開始年齢ではなく、圧倒的なインプットの総量です。

構造的問題②:「翻訳前提」の学習

日本は明治以降、西洋の学問を「日本語へ完璧に翻訳する」ことで、母国語だけで高等教育を受けられる稀有な国を築きました[5]。これは誇るべき歴史ですが、その副産物として、英語学習の現場に「英語を必ず日本語に和訳して理解する」という強固な翻訳文化が定着してしまいました。

・単語の和訳暗記(Apple=りんご)
単語帳の訳語をそのまま1対1で丸暗記する方法は、Craik & Lockhart (1972) の処理レベル説において「最も浅い処理(記号としての記憶)」に分類されます[6]。テストの直前には覚えられても数日後には急速に消失します[7]。
また、単語の意味が日本語の訳語を介してのみ呼び出される段階(Jiang の発達3段階モデルにおける2段目の階段)で固まってしまい(化石化)、長文や会話のスピードの中で意味を自動的に想起できなくなります[8]。

・諸外国との決定的な違い(ガラパゴス化)
「目標言語のみを使う(Target-Language-Only)指導」は、20世紀後半の欧州(特に英国等のTEFL/英語教授法業界)において「実際の英語環境に近い没入状態を教室内に作り出す理想的なアプローチ」として体系化された伝統的な教授法です[9]。
タイ、ベトナム、カンボジアなどの東南アジア諸国は、この欧州発の「目標言語のみ」で構成された原書教材(『Headway』や『English File』など)や指導方針(English Only Policy)を国策や語学学校で積極的に輸入・採用しています[10]。母国語の解説を一切挟まず、英語の文脈や対話のみで理解・発話させることで、最初から「英語 → 意味(概念媒介)」の直通ルートを鍛えているのです[11]。
これに対して日本の英語教材や単語帳の85%以上は、常に日本語訳が併記されています。スピーキングという限られたワーキングメモリ(脳の作業スペース)を酷使する場面において、頭の中で「英語 → 日本語 → 英語」と毎回翻訳を挟んでいる日本の学習者は、その処理スピードの遅さから言葉が詰まってしまうのです。

構造的問題③:「聴覚偏重」のリスニング練習

日本のリスニング指導や個人の学習法において、最も深刻な誤解が「耳(聴覚情報)だけに頼って英語を聞き取ろうとする」姿勢です。

・言語構造の違い:日本語の「聴覚依存」と英語の「視覚依存」
日本語は母音が極めて明瞭な音響構造を持っており、耳から入る聴覚情報だけで100%内容を理解できます。そのため、日本人はリスニング時に「聴覚情報だけに過度に依存する癖」がついています。
一方、英語は子音が極めて不鮮明で、音の連結や脱落が頻繁に起こる言語です。学術的な研究でも、日本語話者は英語話者に比べて「マガーク効果(視覚情報が音声知覚に影響を与える現象)」が発生しにくく、物理的な聴覚音だけに固執して処理が破綻しやすいことが示されています[12]。

・ネイティブですら「完璧に聞き取っている」わけではない
そもそも英語のネイティブスピーカーですら、高速な会話の音を物理的に100%クリアに聞き取っているわけではありません。彼らは目で見える口の動きや文脈などの「視覚情報・トップダウン情報」を総動員し、脳の音素修復機能(モザイク音声処理)によって、欠落した音を脳内で「自動補完」しながら聞いています[13]。聴覚だけに頼り、物理音をすべて拾おうとすること自体が、英語の言語構造と矛盾しています。

・ディクテーションの罪:単語の境界を「強制切断」する不自然な癖
日本で「精聴の王道」とされてきたディクテーション(書き取り)は、この聴覚偏重の最悪の例です。
実際の英語の自然な発話(Connected Speech)では、音がつながり(リンキング)、消え(リダクション)、単語間の境界線はあいまいに溶け合っています。にもかかわらず、一字一句を正確に書き起こさせようとするディクテーションは、「単語の境界を物理的に無理やり切り離して聞き取る」という極めて不自然な知覚の癖を強要します[14]。

構造的問題④:結局「テスト重視」の受験英語

日本の英語教育におけるもう一つの深刻な病理は、政策上の目標と、進路選抜(入試・テスト)の間で相反する価値観が衝突する構造的ジレンマです。

・「授業で会話せよ、入試はペーパーで測る」という矛盾
学習指導要領や文部科学省の方針では「英語を使って何ができるか」を軸に、中学では文法訳読に偏らず意見を伝え合い、高校では発表や討論を行うことが掲げられています。しかし、全国で数十万人規模が一斉に受ける大学入学共通テストでは、現在も「リーディング」と「リスニング」のみで構成され、「話す・書く」というアウトプット技能の全国共通テストは存在しません[15]。
授業時間が有限である以上、教師も生徒も、進路を大きく左右する全国共通テストの配点が高い領域(読解・文法・リスニング)へ学習努力を傾斜させるのは、制度上きわめて合理的な行動です。

・評価技術の難しさと説明型授業への回帰
ベネッセ教育総合研究所の「中高の英語指導に関する実態調査」によれば、中学校教員の約5割、高校教員の6割以上で「生徒が活動している時間」より「教師が説明している時間(和訳・文法)」のほうが上回っています[16]。
プレゼンや自由な会話のパフォーマンス評価は時間・採点基準・客観性の確保が極めて難しいという評価技術上の悩みを抱えているため、結果として短時間で全員を公正に採点・記録できる「紙のテスト(文法・和訳)」へ授業全体が引き戻されてしまうのです[16]。

・「入試を4技能化すれば解決する」という安易な幻想
2019年に大学共通テストへ民間の4技能資格・検定試験(英検等)を導入しようとしましたが、異なる試験間の比較不可能性、公平性の担保といった問題が露呈し、見送りに追い込まれました。
言語学者の寺沢拓敬氏が指摘するように、「スピーキング試験を入試に入れれば日本人の英語力が伸びる」という全国規模での政策効果は実証されていません[17]。大学共通テストのような人生を左右する試験にスピーキングを組み込んでも、今度は「実用英会話」ではなく「試験で点を取るための型にはまったスピーキング対策」へ置き換わるだけに終わる危険性(新たな受験勉強化)があるのです[17]。

公平・客観的に順位を付けなければならない受験制度が、現場の英語教育を歪め続けています。

第2章:脳科学が教える「本当の英語力(英語脳)」のメカニズム

世間でよく耳にする『英語脳』とは、特別な脳の器官が生まれることでも、日本語の領域が消え去ることでもありません。

『英語脳』は科学的に言えば、「日本語への翻訳プロセスをバイパスし、英語から直接イメージや意味(概念)へアクセスする『直通ルート(概念媒介)』を、脳内に物理的に構築・強化した状態」を指します(Kroll & Stewart, 1994)[11]。

諸外国の英語教育では、母国語の解説を一切挟まず、英語の文脈や対話のみで理解・発話させることで、この『英語脳』を育成しています。

脳は「低負荷で、意味の通った大量のインプット」でしか書き換わらない

大人の脳であっても、学習によって脳の物理的な配線は書き換わります。これを脳の可塑性(かそせい)と呼びます。

・大人の脳の変化
文字が読めない成人が読字を習得すると、脳の神経細胞(灰白質)の密度が物理的に増加し、脳を結ぶ神経のケーブル(白質)が強化されることが判明しています(Carreiras et al., 2009)[18]。「大人の脳は変わらない」は完全な嘘です。成人が第二言語を学んでも、習熟度が上がれば母国語と同じ脳領域(左下前頭回・ブローカ野)で処理されるようになります(Perani et al., 1998)[19]。

・「けもの道」を「高速道路」に変える:長期増強(LTP)
脳の神経細胞は、「一緒に発火した細胞同士は、結びつきを強める」という性質を持っています。多読や意味を理解したリスニングによって、同じ単語や表現に何度も出会うと、関係する細胞同士のつながりが繰り返し活動し、電気信号が通りやすくなります。
これが学習における「長期増強(LTP)」です[20]。最初は草をかき分けて歩く「けもの道」のようだった頼りない神経回路が、やがて舗装され、意識して頑張らなくても電気信号が瞬時に流れる「高速道路」へと進化します。

この脳の配線替え(高速道路の整備)を、脳に過度なストレスを与えず、最も効率的に行うためのアプローチが、次に紹介する4つの処方箋です。

第3章:これが科学的に正しい「最強トレーニング法」——日本の環境で「話せる」を作る処方箋

日本の日常(EFL環境)にいながらにして、脳の可塑性を最大限に引き出し、最速・最小の努力で「英語のまま処理する回路」を作る、科学的かつロジカルに裏付けられた4つの具体的処方箋を提示します。

処方箋①:発音練習と音声変化の理解

多くの人が「英語を学ぶ時は、まず単語から」と思っていますが、これが英語学習で挫折する最大の原因です。

後で説明しますが、日本人が一般に行っている「和訳暗記」は忘れやすく、時間と労力をかけた割には成果が感じられず、「自分は才能がない」と英語学習を諦めてしまいます。

実は数ある英語のスキルの中で、発音こそが最も短期間で目に見えて成果を感じる分野であり、最初に直すことで「自分は成長している」という成功体験が得られ、学習の挫折を防ぐことができます。

さらに、「知らない音は聞き取れない」ため、正しい発音のメカニズムを理解することは、そのままリスニング力の向上に直結します。

1. アクセント重視の発音練習

文字だけ追って英語を勉強していると、どの単語を強調するか(アクセント)や、話す時の抑揚(イントネーション)が、英語にとっていかに重要かを知ることなく何年も経過してしまいます。

実は英語は、アクセントの置き方で伝えたいニュアンスが変化します。たとえば「Thank you.」と言われた際、日本人は「You're welcome.(あなたを歓迎します)」と答えがちですが、相手に「こちらこそ感謝しています」と伝えたい時は、"Thank yóu." と you にアクセントを置いて言い返します。アクセントに伝えたい意味が含まれています。

また"Oh my God."は、嬉しい時にも悲しい時にも使われ、話す時の抑揚でまったく逆の意味になる事さえあります。

それに比べると日本語は、あまり抑揚をつけずに話す言語なので、アクセントの重要性に気づかないと、いつまでたってもカタカナ英語から卒業できません。

2. 「音声変化ルール」の体系的理解

ネイティブが "I want to" を「アイ・ワナ」、"I'm going to" を「アイム・ゴナ」と発音するのを聞いた事があると思います。

そのような単語単独での発音と実際に話す時の発音が変わる事を「音声変化」と言います。

フランス語を習うと、リエゾンやアンシェヌマンという「音声変化」を真っ先に教わるのですが、日本の英語教育では「音声変化」は無視されます。

「知らない物は聞き取れない」ので、「音声変化」を知らないと、ネイティブの発音はいつまで経っても聞き取れません。

「音声変化」を扱った書籍も無くはないのですが、ページ数をかせぐためか、ただ例を羅列するだけだったり、意識せずとも変化する細かい例まで取り上げた読みにくい本ばかりです。

僕の『3日でネイティブ発音になる!』では、ネイティブの発音を聞き取ったり日本人が英語を話すうえで必要な「音声変化」を厳選し、覚えやすいように簡素なルールにまとめて紹介しています。

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その他、日本人が苦手な「R」や「TH」を簡単に矯正する方法も紹介しているので、参考にしてください。

処方箋②:会話文の理解と伝えるためのマインドセット

実は英語は、「書き言葉」と「話し言葉」で大きな違いがあります。

そのため、せっかく大量のインプットで脳に情報を蓄えても、それを自然な話し言葉としてアウトプットするのに時間がかかってしまいます。

また、日本語で上手にスピーチやプレゼンテーションをする時には、入念な準備をすると思いますが、英語でも流暢に話せるようになるには、事前のイメージトレーニングや伝えるためのマインドセットを身につけるのが、早く上達するうえで欠かせません。

僕の『英語マスタープログラム・思考編』では、会話文の特徴や伝えるためのマインドセット、さらに、効果的な練習方法等を詳しく説明しているので参考にしてください。

処方箋③:錯聴を利用したリスニング練習

従来型のシャドーイング(高負荷・お経化)、ディクテーション(時間コスト過多)、聞き流し(脳がノイズ処理)という「リスニング三大宗教」の課題を完全にクリアする第4の道が、心理音響学の知見を応用した「錯聴トレーニング」です。

この練習法のポイントは、「英語動画」に「英語字幕」を表示させることです。

・音素修復(モザイク音声)とモンデグリーン現象のハック
プリンスの曲『バットダンス』の「Don't stop dancing!」という歌詞が「農・協・牛・乳」と聞こえる「モンデグリーン現象」のように、曖昧な音に対して脳は知っている言語情報を勝手に当てはめます。
英語字幕という視覚情報(トップダウン)を先行入力すると、脳の中で「文字」と「物理音声」が強力に強制マッピングされます。聞き取れなかった音に対して脳の「音素修復システム」が作動し、ノイズだった音が瞬時に「意味のある言語情報」へと復元されます。

・低負荷・高効果の実現
手で書き留めるストレスや、口を動かす負荷を完全に排除し、100%意味と文字が確定した状態で音声処理を行うため、ワーキングメモリがパンクしません。精聴の集中効果と多聴の継続しやすさを1つのメソッドに統合した、最も脳の仕組みにかなったリスニング練習法です。

具体的な方法は、過去のブログ記事を参照してください。

処方箋④:英語脳を身につけ語彙力UP

単語がハッキリ聞こえても、その単語の意味が分からなければ、文章として内容を捉えることができません。

語彙力とリスニングは車の両輪の関係にあり、英語学習者がもっとも苦労する語彙力の増加には、いわゆる『英語脳(英語の直接理解)』が有効である事が科学的に裏付けられています。

・単語帳の暗記では記憶に定着しない
日本人が良くやる「Apple=りんご」という1対1のシール貼りのような訳語暗記(浅い処理)では、テスト直前には覚えられても数日後には急速に消失します[7]。
さらに、脳内で「英語 → 日本語 → 意味」という迂回ルート(語彙媒介)を辿るため、長文や会話のスピードの中で意味を瞬時に取り出せなくなります[8]。

・「遅い道」から「速い道(視覚ルート)」への切り替え
簡単な本を大量に読むことで、脳は一文字ずつ音に直して和訳する「遅い道(音韻ルート)」を使わなくなり、文字の形を見た瞬間に意味を取り出す「速い道(視覚・語彙ルート)」の回路をフル活用し始めます[21]。
多読という体験によって脳の神経回路が強化(長期増強)され、英語のままスラスラ理解できる高速道路(英語脳)が完成するのです[20]。

・「推測 → 確認 → また出会う(生成効果)」が記憶を定着させる

語彙を定着させる本質は、単語を単なる文字ではなく、イメージや場面と結びつけた「2枚の看板(文字+映像・ストーリー)」にすることです(Paivioの二重符号化理論)[22]。
文章を読みながら「この単語はどういう意味だろう?」と自分で推測し、辞書等で確認し、後日別の文章で「また出会う(再会)」というサイクルを繰り返すことで、感情と体験が動き、脳に深く染み込んでいきます(Slamecka & Grafの生成効果)[23]。

日本の英語教育を受けた人は、訳語暗記が効果的だと信じていますが、まずは翻訳癖をなくし英語の直接理解(英語脳)に慣れた方が、あとの英語学習が楽になります。

終章:今からでも遅くない——大人も子供も「正しく学べば」英語は伸びる

日本の現状の英語教育の迷走や、「話すこと平均12.4%」という破滅的なデータ、あるいは世間の「早く始めなきゃ」という焦燥感に、あなたが不安を感じる必要はまったくありません。

なぜなら、それらの焦りや失敗はすべて、「日本の環境(EFL)を無視した根拠のない早期化」や「商業主義で教える側に都合の良い指導方法」が引き起こした人工的な悲劇にすぎないからです。

始めるなら、脳の思考力が成熟した「大人」の方が圧倒的に有利

「語学は子どもにしか身につかない」という言説は、第二言語(外国語)習得の科学(BAFプロジェクト等の大規模比較)によって完全に否定されています[24]。

同じ学習時間を投入する場合、第一言語(母国語)で培った高度な認知能力や概念の棚を持っている14歳以上の年長者や大人の方が、幼児よりもはるかに速く、論理的に、効率的に新しい言語のシステムを体系化できます。

子どもに月数万円の英会話教室を強いて「英語嫌い」を早期固定化させるよりも、まずは日本語で豊かな絵本の読み聞かせをし、自然体験をさせ、論理的に「考える土台」を作ること。それこそが、将来子どもが英語を学ぶ際の最強の基礎力になります。

日本の英語教育は、簡単に説明できる「音声変化のルール」を後回しにしたり、教える側に都合の良いリスニング練習法を流布し、暴利をむさぼっている側面があります。

そんな商業主義の喧騒から一度離れ、

1.「発音と音声変化のルール」を理解して口と耳を作り、
2.「会話文の特徴とマインドセット」を脳にインストールし、
3.「錯聴トレーニング(英語字幕ON)」で音素修復システムを起動し、
4.「多読」を通じて英語の直接理解(英語脳)を身につけ、語彙を爆増させる。

この正しいアプローチと順番を守れば、あなたの脳は物理的に書き換わり、英語学習で迷走することなく、学んだ英語を実践で使えるようになります。

正しい理屈を理解して学べば、大人になってからでも英語は必ず伸びます。今日から、新しい一歩を踏み出してみませんか。

参考文献

[1] 文部科学省・国立教育政策研究所(2023)『令和5年度 全国学力・学習状況調査 報告書 中学校 英語』2023年7月31日公表・8月21日追加公表.

[2] 教育課程研究センター(2023)『令和5年度 全国学力・学習状況調査 質問紙調査集計結果(中学校)』国立教育政策研究所.


[3] 寺沢拓敬(2021)「『早期の学習が語学力を高める』は幻想だった? 言語政策を通じて考える、外国語教育のあるべき姿」関学ウェブマガジン『月と窓』.

[4] 琉球大学教育学部外国語教育研究室(2015)「日本における(超)早期英語教育の是非: 英語学習の『入口』と『出口』」『琉球大学教育学部紀要』, 87, 73-88.

[5] 東京外国語大学(2017)『日本における英語教育の歴史と現状の課題』Personal Lecture Materials.

[6] Craik, F. I. M., & Lockhart, R. S. (1972). Levels of processing: A framework for memory research. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 671–684.

[7] Wang, A. Y., Thomas, M. H., & Ouellette, J. A. (1992). Keyword mnemonic and retention of second-language vocabulary words. Journal of Educational Psychology, 84(4), 520–528.

[8] Jiang, N. (2000). Lexical representation and development in a second language. Applied Linguistics, 21(1), 47–77.

[9] Howatt, A. P. R., & Widdowson, H. G. (2004). A History of English Language Teaching (2nd ed.). Oxford University Press.

[10] ELEC(2022)「タイと日本の英語教育の比較と指導法、会話重視や文法重視の違いについて」一般財団法人英語教育協議会.

[11] Kroll, J. F., & Stewart, E. (1994). Category interference in translation and picture naming: Evidence for asymmetric connections between bilingual memory representations. Journal of Memory and Language, 33(2), 149-174.

[12] 日産科学振興財団(1991)「音声言語コミュニケーションに果す読唇情報の役割 - Role of lip-read information in verbal communication」『日産科学振興財団研究報告書』, 14, 1-12.

[13] Warren, R. M. (1970). Perceptual restoration of missing speech sounds. Science, 167(3917), 392-393.

[14] Baddeley, A. D. (1986). Working Memory. Oxford University Press. / Sweller, J. (1988). Cognitive load during problem solving: Effects on learning. Cognitive Science, 12(2), 257-285.

[15] 独立行政法人大学入試センター(2026)『令和8年度 本試験の問題・配点(英語)』大学入試センター.

[16] 福本優美子/ベネッセ教育総合研究所(2016)「英語4技能の育成を実現するために求められていることとは―『中高の英語指導に関する実態調査2015』の結果から」ベネッセ教育総合研究所.

[17] 寺沢拓敬(2019)「『入試が変わらないから英語教育に成果が出ない』に根拠はない:政策効果の観点から見た『外部試験』論議」ひつじ書房『これからの英語教育の話を続けよう』第15回.

[18] Carreiras, M., et al. (2009). An anatomical signature for literacy. Nature, 461(7266), 983–986.

[19] Perani, D., et al. (1998). The bilingual brain: Proficiency and age of acquisition of the second language. Brain, 121(10), 1841–1852.

[20] JALT Publications (2012). Neuroplasticity in the SLA Classroom: Connecting Brain Research and Language Teaching. JALT2012 Conference Proceedings.

[21] Dual-Route Model of Reading in Bilinguals. PMC, NIH National Library of Medicine.

[22] Paivio, A. (1986). Mental Representations: A Dual Coding Approach. Oxford University Press.

[23] Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592–604.

[24] Muñoz, C. (Ed.). (2006). Age and the Rate of Foreign Language Learning. Multilingual Matters. (BAF Project)













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