英単語が覚えられないあなたへ──脳科学で分かる訳語暗記では覚えられない理由

英単語が覚えられないあなたへ──脳科学で分かる訳語暗記では覚えられない理由

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語彙力とリスニングは車の両輪

これまでリスニングについて説明してきました。
せっかく単語がハッキリ聞こえるようになっても、聞き取れた単語の意味が分からなければ、文章として内容を捉えることができません。

実は語彙力とリスニングは車の両輪の関係にあり、英検やTOEICのリスニング問題で高得点をとるためには、リスニングの練習と並行して語彙を増やす必要があります。

こんな経験ありませんか?

単語帳や英語アプリを使って一生懸命に単語を暗記した。

なんとかテスト当日は答えられるのに、1〜2週間後には忘れている。

長文を読むと、「この単語、知ってるはずなのに……」と意味がつながらない。

もし心当たりがあるなら、あなたがサボっているからではありません。

記憶の仕組みを知れば、今までの勉強が間違っていた事に気づくはずです。

単語帳を何周しても忘れていた自分

僕も語彙を増やすのに苦労しました。

大学受験をする時は予備校の先生に勧められて、一生懸命『赤尾の豆単』を丸暗記しようとしていたのを覚えています。

アメリカに渡ってから、英語を話せるようになるには、できるだけ翻訳するのはやめて英語の語順で理解すること(いわゆる『英語脳』)の重要性に気づきました。

そして意識して練習して容易に英語モードにスイッチできるようになると、語彙を増やすのも苦労しなくなりました。

『英語脳』が英語学習の鍵であることを理解してから日本に戻って来て、電車の中で学生が単語帳を開いて一生懸命に英単語を覚えているのを見ると「そんな方法では単語は覚えられない」と心を痛めていました。

「自分が経験した苦労と金銭的な負担を、将来の日本人には繰り返して欲しくない」という思いが、僕がネットで英語学習法の情報発信をするモチベーションです。

今回ネットで「記憶の仕組み」を調べることで、なぜ『英語脳』が語彙の増強にも効果的なのかを説明できないようになりました。

あなたの英語学習を見直すきっかけになればと思っています。

英語教育の「Apple=りんご」が、語彙の定着を妨げる

子どもの覚え方と、学校英語の違い

小さいころ、「りんご」を覚えたとき、別の言語に変換していましたか?

たぶん、していないはずです。
「赤い丸い果物」というイメージと一緒に覚えます。

ところが学校教育では、こう教わります。

Apple = りんご

どうして学校でこのように教えるかというと、テストしやすいからです。

『単語を理解しているか』を『訳語を覚えているか』に置き換えることで、容易に〇✕で判定するテストを作成することができます。

英単語の意味をイメージできてるかどうかを紙の上に表現することは容易ではありません。

学校教育で行われている翻訳暗記は、脳の中ではこう動いています。

Apple → りんご → 意味(イメージ)

英語から意味へ行くのに、日本語という「中継地点」を必ず通ります。バトンリレーで言うと渡す人が一人多いイメージです。

渡す回数が増えるほど、記憶に時間がかかり、忘れやすくなります[1]。

カチカチの土壌に、種を蒔く
僕がずっと感じていた違和感は、次のような物です。

英語を、日本語に訳してから理解する——いわゆる翻訳の癖——がある状態で単語を覚えようとすると、耕されていないカチカチの土壌に種を蒔くようなものだ、と。

土壌(単語を受け入れる脳)が硬いので、雨が降ったり風が吹いたりすると、すぐ飛んでいってしまう。

「覚えた直後は思い出せるのに、すぐ忘れる」——あのモヤモヤは、努力不足というより、記憶への定着のさせ方の問題だったのです。

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なぜ「訳して覚える」では定着しないのか

ここからは脳科学における記憶の研究が示す事例を、比喩を用いて説明します。
比喩①:表面にシールを貼る vs 中まで染み込ませる
記憶の研究によると、覚え方には「浅い」と「深い」があります[1][2]。

            覚え方                               たとえ
浅い(Apple=りんご)       :ノートの表にシールを貼る
深い(前後の文脈から理解):インクが紙に染み込む

シールは貼った直後は目立ちます。でも、擦れたり、風で剥がれたりしやすい。

英単語の訳語を覚えるという方法は、この浅い覚え方になります。

それに比べ、文の中で「この単語は何を伝えているか」を考えることで深い覚え方になり記憶の定着に役立ちます。

比喩②:答えをもらう vs 自分で考える

「生成効果」という研究があります[3]。

簡単に言うと、自分で考えて答えを出した情報は、単純に与えられた情報より覚えやすい、というものです。

単語帳などで「Apple=りんご」と訳語を示されるより、文を読んで「ここ、たぶんこういう意味だな」と自分で推測するほうが記憶に残ります。

比喩③:看板が1枚 vs 看板が2枚

Paivio という研究者は、人の脳は「言葉」と「イメージ(絵・場面)」の2系統で物事を覚える、と説明しました[4]。

・看板が1枚だけ:Apple=りんご(文字だけ)
・看板が2枚:apple + 🍎の映像、物語の場面

看板が2枚あると、思い出す入口が2つになるので、忘れにくくなります。

英語初心者が出会う dog, run, happy など、イメージしやすい単語は、この恩恵を受けやすいです。

比喩④:テスト直前は得意、2日後に消える

Wang らの研究では、母国語を媒介とした連想暗記と、繰り返し読むなどの非記憶術的学習とを比較した実験があります[5]。

テスト直後:連想暗記のほうが得意
2日後:連想暗記のほうが、約2倍忘れていた

つまり、訳語暗記は「すぐのテスト」には向いているけれど、長く残すのには向いていません。

「模試では取れたのに、本番の1週間前には忘れていた」——あなたのせいではなく、方法と記憶のクセが合っていないだけなのです。

語彙の内部構造:なぜ「英語→日本語→意味」だと語彙が増えにくいのか

さらに、脳の中に英単語がどう保存されているかも見ていきます。

比喩⑤:日本語の棚 vs 英語の世界

Kroll & Stewart(1994)の研究は、英語学習者の脳の中を、こんなふうに説明しています[6]。

初心者のルート(遠回り)
英語 → 日本語の訳 → 意味

上達した人のルート(直通)
英語 → 意味

上達した人は、英単語が日本語の棚に並んでいるのではなく、英語の世界の中に直接置かれています。

これを「概念媒介」と呼びますが、イメージとしては直通ルートと覚えてください。

僕も英語のまま英単語を覚えるようになってから、単語の意味は理解できているのに、日本語に訳せない単語がいくつもあります。

比喩⑥:3段階の階段で、2段目で止まる

Jiang(2000)は、英単語の成長を3段階の階段に例えています[7]。

1段目:スペルと音だけ覚える
2段目:日本語の訳を使って意味を思い出す ← 多くの人がここで止まる
3段目:英語そのものに意味がくっつく

大切なのは、2段目で止まったまま固まってしまう(化石化)語が、とても多いということです。

「訳は知っている。でも、英文の中では意味がすっと浮かばない」——その単語は、2段目の階段にいるサインです。

英検等で「単語問題は取れるのに、長文が読めない」とき、単語数が足りないだけでなく、2段目で止まっている単語が多いことが原因のひとつです。

比喩⑦:自転車の「なんとか乗れる」vs「考えなくても漕げる」

DeKeyser(1997)の研究結果から、語学習得を自転車が乗れるようになる段階に例えることができます[8]。

知識段階:「ハンドルはこっち、ペダルはこう」と頭で理解している(apple=りんご)
練習段階:よろよろ乗れるようになる
自動段階:考えなくても、自然に漕げる

訳語暗記は、1の「頭で理解」の状態です。

でも、英文を読んでいる最中に、意味がパッと浮かぶ状態——3の自動段階——には、訳の変換を通さない練習が必要です。

「知っている」と「読んでいる最中に意味が浮かぶ」は、別の段階にいる、ということです。

翻訳の癖をやめると、語彙が「増えやすく・忘れにくく」なる理由

ここまでの説明で、語彙を増やす秘訣が努力の量より記憶の定着のさせ方だということが分かると思います。

英語を読むたびに、頭の中で日本語に変換する翻訳のクセをやめ、英単語を場面・イメージと直接つなげる方向に変えると、語彙は増えやすく、忘れにくくなります。

『英語脳』とは何か

ここで少し『英語脳』について説明します。

『英語脳』は、特別な器官の名前ではありません。
脳に「英語専用スイッチ」がポンとできるわけでもありません。

SNSや教材でよく聞く『英語脳』は、
英語を日本語に訳してから理解するのではなく、英語のまま意味・場面・イメージにつなげて処理する状態のこと。
科学的には「非翻訳型の言語処理」や、先ほどの直通ルートに近い状態です[6]。

なぜ語彙が増えやすく・忘れにくくなるのか

① 直通ルートができる

訳を1段挟むたび、理解は遅くなり、記憶も弱くなります[6]。

翻訳の癖をやめるとは、新しい単語を「日本語の棚」に並べるのではなく、英語の世界の中に置いていくことです。

② 言葉とイメージの2枚看板になる

物語や場面の中で出会った apple は、🍎の映像やストーリーと一緒に覚えられます[4]。

シール1枚より、看板2枚のほうが忘れにくい。

③ 推測→確認→また出会う

Hulstijn & Laufer(2001)の研究は、単語学習で「ちゃんと考えて関わる」ほど定着しやすいことを示しています[9]。

Nagy ら[14]、Webb らの研究も、同じ単語に何度も出会うと、少しずつ定着していく、と示しています[15]。

1回見ただけでは、土壌に根が張るほど深くは入りません。

④ 「あ、そういう意味だった!」が記憶を強くする

辞書ですべて調べるより、まず推測して読み、あとで「そうだったのか!」と気づいたほうが、感情が入って覚えやすい——これは僕自身の体感でもあります。

Van den Broek らの研究も、推測しっぱなしより、推測→確認→後で思い出すサイクルが大切だ、と示唆しています[13]。

土壌(脳)がフワフワになる

翻訳の癖をやめ、英語を英語のまま処理するクセ——英語脳——が育つと、脳内の土壌がフワフワになったように、新しい語を受け入れやすくなります。

僕自身、TOEICが600点台後半から885点(200点アップ)まで上がったのは、テストのコツより、英語を英語のまま処理する力ができあがったからだと実感しています。

単語が頭の中で場面と結びついているから、問題もリスニングも、結果として楽になったのです。

よくある誤解と、科学が示す落としどころ

❌「語学の習得に母国語を一切使わない」 → ⭕ 効率化に母国語は有効。ただ、それだけでは成長しない

Nation(2013)の研究では、訳語による意図学習は、高頻度な単語の習得は有効だとしています[12]。

またWangらの研究は、訳語暗記がテスト対策には向いていることを示しています[5]。

僕も、無理して英英辞典を使うのは時間の無駄だと思っています。

すでに備わっている母国語の能力も活用して、英語学習を効率化すべきです。

訳語暗記か文脈学習かの一択ではなく、学習目的に合わせて組み合わせるのが正解です。

❌「推測すれば全部OK」 → ⭕ 推測→確認→思い出す、が大事

推測だけだと、間違った意味を覚えてしまうこともあります[13]。

「なんとなくこうかな」と推測したあと、確認して、後で思い出す——この3ステップが欠かせません。

大切なのは、あとで英語の文や場面の中で、もう一度出会うことです。

❌「英語脳=日本語がゼロになる」 → ⭕ 直通ルートが強くなる、が正確

Thierry & Wu(2007)の研究は、英語が上手な人でも、無意識のうちに日本語が動くことがある、と示しています[11]。

日本語が完全に消えるわけではありません。

英語から意味への直通ルートが強くなる——これが正確なイメージです[6]。

❌「単語数を増やせば解決」 → ⭕ 結びつけ方と段階が問題

2段目の階段で止まった単語を1000個増やしても、長文をスラスラ読めるようにはなりません[7]。

Nakanishi(2015)の研究が示すように、意味がわかる文の中で出会うことが、語彙の覚え方の質を変えます[10]。

まとめ:語彙は「覚える量」より「結びつけ方」

英単語を覚えたのにすぐ忘れる——その背景を、比喩で整理するとこうなります。

1. 訳語暗記は、表面にシールを貼るような浅い覚え方になりやすく、長くは残りにくい[1][5]

2. 多くの単語が「英語→日本語→意味」の遠回りルートで止まり、直通ルートや3段目の階段に進まない[6][7]

3. 「知っている」と「読みながら理解できる」は別の段階で、自動段階には翻訳を通さない処理が必要[8]

『英語脳』とは、魔法の能力ではありません。

英語の単語を、日本語の棚ではなく、英語の世界の中に置いていく習慣のことです。

翻訳のクセをやめると、新しい語は増えやすく、忘れにくくなります。

カチカチだった土壌(脳)が耕され、種(単語)が根を張れる——僕にとって、いちばんしっくりくる説明は、いまだにこの比喩です。

訳語暗記を完全にやめる必要はありません。

抽象的な言葉は、訳語を覚えた方が手っ取り早いです[12]。

ただし、それだけでは語彙は「覚えたつもり」で「使えない」状態のままになりやすい。

努力の量より定着のさせ方。

ここを変えることが、語彙学習の転換点になります。

次回は、英語と早期教育の関係について説明します。

参考文献

[1] Craik, F. I. M., & Lockhart, R. S. (1972). Levels of processing: A framework for memory research. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 11(6), 671–684.

[2] Craik, F. I. M., & Tulving, E. (1975). Depth of processing and the retention of words in episodic memory. Journal of Experimental Psychology: General, 104(3), 268–294.

[3] Slamecka, N. J., & Graf, P. (1978). The generation effect: Delineation of a phenomenon. Journal of Experimental Psychology: Human Learning and Memory, 4(6), 592–604.

[4] Paivio, A. (1971). Imagery and Verbal Processes. Holt, Rinehart and Winston. / Paivio, A. (1986). Mental Representations: A Dual Coding Approach. Oxford University Press.

[5] Wang, A. Y., Thomas, M. H., & Ouellette, J. A. (1992). Keyword mnemonic and retention of second-language vocabulary words. Journal of Educational Psychology, 84(4), 520–528.

[6] Kroll, J. F., & Stewart, E. (1994). Category interference in translation and picture naming: Evidence for asymmetric connections between bilingual memory representations. Journal of Memory and Language, 33(2), 149–174.

[7] Jiang, N. (2000). Lexical representation and development in a second language. Applied Linguistics, 21(1), 47–77.

[8] DeKeyser, R. M. (1997). Beyond explicit rule learning: Automatizing second language morphosyntax. Studies in Second Language Acquisition, 19(2), 195–221.

[9] Hulstijn, J. H., & Laufer, B. (2001). Some empirical evidence for the involvement load hypothesis in vocabulary acquisition. Language Learning, 51(3), 539–558.

[10] Nakanishi, H. (2015). A meta-analysis of extensive reading research. TESOL Quarterly, 49(1), 6–37.

[11] Thierry, G., & Wu, Y. J. (2007). Brain potentials reveal unconscious translation during foreign-language comprehension. Proceedings of the National Academy of Sciences, 104(30), 12530–12535.

[12] Nation, I. S. P. (2013). Learning Vocabulary in Another Language (2nd ed.). Cambridge University Press.

[13] van den Broek, G., Takashima, A., Segers, E., & Verhoeven, L. (2018). Contextualizing foreign language word learning: Involvement load and word learning trajectories. Language Learning, 68(2), 546–585. / van den Broek, G., et al. (2022). Revisiting the involvement load hypothesis in incidental word learning. Cognitive Science, 46(3), e13135.

[14] Nagy, W. E., Herman, P. A., & Anderson, R. C. (1985). Learning words from context. Reading Research Quarterly, 20(2), 233–253.

[15] Webb, S., Uchihara, T., & Yanagisawa, A. (2023). How effective is incidental vocabulary learning? A meta-analysis. Language Teaching, 56(2), 161–180.
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