ブログをご覧の皆様はじめまして。
朝摘みと申します。よろしくお願いいたします。
coconalaへの初出品から約三ヶ月経過しました。
出品中のサービス「あなたの小説・エッセイに感想をお書きします」では
私がどんな感想を書くのか短い文例しか記載していませんので、こちらに読書感想文を投稿してみようと思います。
今回は「もし『またの名をグレイス』の感想を書いてほしいという依頼が来たら」というていで感想を作成しました。
感想約1000字+予備知識・あらすじ合わせて1000字です。
お時間のあるときにお読みいただけますと幸いです。
以下、岩波書店より出版された文庫本「またの名をグレイス(上)(下)
2018年初版 マーガレット・アトウッド著 佐藤アヤ子訳」のネタバレを含みます。
※2025年6月現在、NHK Eテレ「100分de名著」にてアトウッドの著書が紹介されています。
アトウッド作品の読者数増加の気配を感じたため、「またの名を~」未読の方向けに一部を伏せ字にしています。ご承知おきくださいませ。
予備知識
舞台は十九世紀半ばのカナダ。
主な登場人物は女囚グレイス・マークスと精神科医サイモン・ジョーダン。
二人が対話するシーンが書籍の半分近くを占めています。
ミステリー仕立てのこの物語の肝は「既に終身刑を言い渡されているグレイスは殺人事件を主導したのか、そうではなく減刑・無罪放免の余地があるのか」という点です。また、この物語は実在の事件を元に作られたそうです。
感想
全編一人称視点で書かれているので、いわゆる「信頼できない語り手」が
地の文で嘘をつきまくっていると思い読み進めました。グレイスの語る過去のうち、犯行に関わらない部分は嘘ではない気がします。グレイスがメアリーと楽しく過ごしている描写があったからこそ、のちにメアリーが死んでしまう場面が劇的に演出されています。
キニアとナンシーが交際しており職場の雰囲気が最悪、なんて部分はちょっと生々しくて苦笑い。こんなところからは出て行くしかない。マクダーモットも彼なりに必死なのでしょうがグレイス視点では恐怖の対象でしかない。二人がもっと早く退職していれば悲劇は避けられたのに、と思わずにはいられません。
グレイスが家族と別れるくだりもすごく苦しいです。
彼女の苦労話は全編にわたって緻密に描写されているので、元気のないときに読むと感情移入しすぎて落ち込むかも知れません。「これが19世紀か」と冷静な視点では思いつつも「不衛生描写は苦手~!」と顔をしかめながら読み進めました。
結局グレイスは多重人格だと証明されたことで無罪を勝ち取りキャラクタAと結婚しますが、その過程で彼女がキャラクタBと共謀していた可能性もあり。
グレイスとキャラクタB結婚していたなら共謀説の可能性がグンと上がっていたはず。私には、キャラクタBがグレイスを助ける旨味が感じられなかったのです。「サイモン先生の喜びそうなことを証言した」とグレイス視点の記載がありますので、そこも「多重人格を演じていた説」を後押ししてしまう気がします。
ですが、個人的にはこの物語においては 本当の多重人格7:演技3 くらいに見ています。
……と、ここまで書いた辺りで他の方がどう解釈されたかを数件見て回りました。
「グレイスは病んで多重人格になったはず」という意見もあれば
「グレイスが多重人格のフリをしている」と書かれた感想もあり、結末は多少、読み手に委ねられるのかなと感じました。
サイモンがあのように物語から退場するとは思っておらず、面食らってしまいました。グレイス(内在するメアリー)に「私のことをいやらしい目で見てたでしょ!」と指摘され気まずくなったという部分もなくはなさそう。
その後サイモン母の書いた手紙の内容「息子は病気を患い、妻を『グレイス』と思い込んでいる」も、どこまで信じて良いものか曖昧です。本当にサイモンがおかしくなってしまった場合と、キャラクタCにサイモンを諦めさせる方便の場合があると考えました。
多様な解釈が許されている(それを作者が意図している)ものなのか、私の誤読混じりなのか、はっきり分からないのでこのお話を読み終わった方と議論したい心持ちです。
「またの名を~」の解釈討論をしたい方も、そうではない方も、
私の出品サービスに興味を持っていただけますと幸いです。
おまけ・簡易あらすじ
十三歳のグレイスは父母とたくさんの弟妹とともにアイルランドからカナダへと移住します。移住先で女中として働く最中、グレイスは先輩女中メアリーという年の近しい友人を作ります。しかしとある理由からメアリーが亡くなり、傷心のグレイスは屋敷を離れることに。
雇い主を何度か変えたのち、グレイスはナンシーという女中と出会います。
グレイスはナンシーに誘われ、キニア邸で仕事を開始。同僚の男性マクダーモットや近所に住むジェレミー少年など、彼女を取り巻く人間関係も大きく変化します。
様々な出来事からグレイスらはナンシーと主人キニアに対し不信感を募らせます。ある日鬱憤が溜まったマクダーモットはナンシーとキニアを殺害。
グレイスは彼に巻き込まれるようにアメリカへ逃げますが、二人揃ってすぐ逮捕されます。このときグレイスは十六歳。
裁判の結果、マクダーモットは絞首刑に、ナンシーは終身刑を言い渡されます。ナンシーは収監されながらも看守長の自宅の女中として針仕事などを行います。当時は終身刑の囚人に対し、そのような対応がなされる場合もあった様子。
やがて十数年が経過し、若きサイモン医師がグレイスの担当医となります。
それはサイモンがグレイスの無実を証明するよう、後援者から依頼されたため。サイモンはこの事業を成功させ、精神科の開業医としての生活をスタートしたいと考えていました。
グレイスはサイモンに対し前述の過去を語り、サイモンはそれを聞き事件の真相や彼女の心理を探り始めます。しかし犯行に関わるであろう肝心なところで「記憶がない」と証言するグレイス。サイモンは彼女が何かを思い出したり素直になったりするよう画策します。
ある日催眠術の有識者デュポン博士がそれを試すとグレイスは意識を失い、
代わりに内在するメアリーが事件を起こしたのだと発言。
のちにこれが多重人格であるという証拠となりました。四十五歳となった彼女は無罪放免に。とある男性と結婚し、慎ましやかな生活を始めました。
※上記を読むと「えん罪で苦しんだ女性の半生の物語」に見えますが、主旨は【予備知識】に書いた件をご参照ください。