【サンプル短編小説】雨の土曜日/紫陽花と蕎麦と海老のスープと

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小説



3日前、私たちの住む地域も梅雨入りが発表された。

発表される前日から毎日雨だ。

しとしとと降る雨は割と好き。

今日は、そんな雨。

そして、梅雨入りをして初めての週末。



夫のまこちゃんが昨日雨の中買ってきてくれた新しい珈琲豆を丁寧に煎っている。
土曜日の朝のこの時間がとんでもなく愛おしい。

私たちは結婚してもうすぐ10年。
子供はいない。
2人で望まず、2人で暮らすことを選んだ。

週末はまこちゃんが料理担当だ。
朝は丁寧に入れてくれた珈琲と、今日はホットサンドのようだ。

男っぽさもあり、どことなく繊細さもある、彼の料理はそのバランスが絶妙で、とても美味しい。
週末が楽しみな一番の理由だ。




できたよ。
今日はゆりが好きなチェダーチーズで作ってみた。


にやりと口元が緩み、エプロン姿のまこちゃんのことを見上げた。


ありがと。
いただきます。

いただきます。



ほとんど青に近い薄紫の一輪の紫陽花と、ホットサンドと温かい珈琲。
その先にゆっくり珈琲をすする夫。
今日も幸せだ。



ねぇ、今日少し雨マシそうだから紫陽花園行かない?
去年行った、あのお寺の。

あ、いいね。
行きたいと思ってた。


にっとまこちゃんの笑顔が咲いた。

朝ご飯をゆっくりと味わい、一緒に後片付けをしようかと提案したが、支度してていいよといつもの返事が返ってきて、私は心を躍らせながらお化粧をし、髪を整えた。

鏡の前であれやこれやと洋服を選んでいると、お皿洗いを終えたまこちゃんがひょっこりと鏡に映った。



どっちがいいかな。

うーん、こっちかな?
これ、好き。


ふんわりと緩んだ口元を隠すようにハンガーにぶら下がったワンピースを体に合わせた。




どことなくリンクするファッションに身を包み、色違いの傘を持ってバス停に向かった。
時間より5分遅れてきたバスには意外とたくさんの人が乗っている。



みんな結構アクティブだね。

土曜日の、まだ10時前なのにね。
しかも雨降りの。

俺たちもだけどね。



ふふっと笑みが漏れ、窓の外を眺めた。
つゆで霞んだ薄暗い景色は一段とぼやけていた。
外の世界を眺めるのを諦め、まこちゃんの方を向き直しておもむろに手を繋いだ。




バスは駅に着いた。
そこから電車でお寺の最寄駅に向かい、さらにバスに乗る。
車があれば半分くらいの時間で着くのだろうけれど、私たちは車も持っていない。
この遠回りの2人の時間がいつだって大好きで、むしろそのために出かけているようなところもある。

それにしてもなかなかの道のりだった。
紫陽花園の最寄りのバス停から少し坂道を登るときには、2人とも少し…いや、結構疲れていた。
それでも、ここにもう一度来てみたかった。



お寺に一歩入ると、そこはまるで異世界のように幻想的な風景が広がっている。
霞とともに淡く漂う紫陽花がたわわに咲き誇る。
静かに、しっとりと。


きれいに整備された入り口付近を抜けると、小脇にある階段を境にまた世界が変わる。
土が剥き出しになった自然のままの遊歩道を少し進むと、またたくさんの紫陽花が現れる。
薄紫や薄水色、薄ピンクに白。
たくさんの紫陽花たちに囲まれるその世界は、なんともアンニュイで、少し冷たくも優しい世界だ。

ぼんやりとしたこの空間に私たちが溶け込んでいる。
不思議なその感覚がとても心地よかった。

頑張って来た甲斐があったと、今年も感じた。
いつしかその達成感がここに来る目的になってしまったとしても、それはそれで愛おしい。



まこちゃんはもう何年使っているかわからないフィルムカメラで何度かその世界を切り取った。


ゆり、ちょっとここに立って。


実に嬉しそうに真っ直ぐとカメラを覗き込むまこちゃんは、本当に40歳近い大人なんだろうかと思うことが度々ある。
まこちゃんの切り取る世界は、男っぽさもあり、繊細さもある。
冷たさもあり、温かさもある。
私は写真のことはよくわからないけれど、そんな対(つい)の世界を表現することができるまこちゃんという人間が、私は好きだ。



お寺を一周した頃には、もうお昼近くなっていた。

ご飯何食べよっか?

まこちゃんはいつも絶妙なタイミングで聞いてくれる。



去年も行った近くのお蕎麦屋さんどう?

それ、私も考えてた。


2人の頬が緩んだ。





いらっしゃい。


おそらくこれからも通うであろうこのお蕎麦屋さんは老夫婦が営む小さなお店だ。
おばあさんが優しい笑顔を向けてくれた。



懐かしいね。

うん。
私、前と同じのにしようかな。

あ、俺も。思ってた。



まこちゃんはお蕎麦の上に乗った牛蒡天をじゅっとお汁に浸して美味しそうに頬張った。


いる?


羨ましそうに眺めていた私に優しく器を差し出してくれた。


あ、じゃあ、交換しよ。


焼いた鴨肉とネギがごろごろとトッピングされている鴨出汁のお蕎麦を一口食べてまこちゃんに渡した。
一口目は譲れない。
目の前にきたまこちゃんの牛蒡天そばを啜る。
これも、堪らなく美味しい。
ちょこんと添えられたお稲荷さんも2人の楽しみだった。



お汁までしっかりと飲み干し、お会計を済ませた。
優しく微笑む老夫婦に見送られ、外に出るとすっかり雨は止んでいた。

私たちはまたバス停を目指して歩き始めた。

ほっこりとお腹も心も満たされ、帰りのバス寝ちゃいそうだねと話していた通り、2人でうたた寝をしている間に最寄り駅に着いた。


スーパーでも寄って帰ろうか。
夜、何食べよう。

そうだな…。

スーパー行って決めようか。

うん。



買い物袋と閉じた傘を揺らしながら、私たちはゆっくりと自宅まで手を繋いで歩いた。




まこちゃんがキッチンにいる間、私は小説を読んで過ごした。
手伝おうかと聞いても、今日は疲れてるだろうしいいよ。と2回も言われてしまい、仕方なくぼーっと文庫本を眺めて時間を潰した。


できたよ。
あちちち…


エプロン姿のまこちゃんがオーバル鍋を抱えていそいそとダイニングに来た。
新鮮な魚介類がたっぷり入ったブイヤベースだ。
スーパーで目が合ったエビを見て、これだね。と顔を見合わせたほど、2人の今の気分にぴったりだった。
手作りのドレッシングをかけたグリーンサラダとバケットにチーズ、前に友達夫婦からもらった白ワインも開けて、ちょっと贅沢な夕食の完成だ。

窓の外はまだ明るい。
まこちゃんの作ってくれたブイヤベースを啜りながら飲む白ワインは格別に美味しかった。



そういえばさ、紫陽花の花言葉ってなんだっけ?

ダイニングテーブルの紫陽花を見てふと思った。


あ、去年調べたよね。
なんだったっけ?

まこちゃんはすかさずスマホを取り出し、調べ始め、あ…。と少し苦い表情をした。


え?何なに?

冷淡・無常・浮気・辛抱強い愛…

あ、そうだそうだ。
去年もさ、ワクワクしながら調べたのにすごくネガティブな言葉ばっかりでこんな感じになったの覚えてる気がする。

これ、来年も同じことやりそうだね。


そう言ってまこちゃんはくしゃっと笑った。


だね。やっちゃう。

私も同じ顔をして笑って、取り皿に残った海老の頭を避けながらスープをすくい上げてすすった。











*******


afterward

普段はノンフィクションをベースに、フィクションとの狭間を彷徨う物語を描くことが多いのですが、完全にフィクションで書き上げました。

というのも、この物語を書き上げた2日前、私の夢の中に高橋一生さんが出て来ました。彼と、ただただ普通の毎日を送っている、そんな夢でした。
最高に幸せでした。笑

高橋一生さんって、ちょっと役に癖があったり、なんか問題起こったりする役が多いイメージがあって。なんっにも起こらないごくごく普通の日常を描いているドラマや映画でごくごく普通の人を演じておられることってあまりなくて、だからこそ描いてみたかった。この夢に出て来ためちゃくちゃ普通の高橋一生が届けてくれる最高に幸せな日常を、描きたかった。

というわけで、何にも起こらない、何の癖もない、ただただ普通の日常を過ごす普通の人"まこちゃん"を高橋一生さん、そしてまこちゃんと暮らすゆりという女性を主人公に、ストーリーを走らせました。

ゆりのことはあまりはっきり書いていませんが、ゆりはとっても幸せそうですね。私もこの物語を書いていてとても幸せな気分になりました。自分の暮らしも、こんなに素敵な暮らしは送れないかもしれないけど、一つ一つの小さなシーンを大切にしたいなぁって感じました。

読んでくださった方にも小さな幸せやちょっとした日々の彩りになっていたら嬉しいです。


主題歌はなんとなく大橋トリオさんのイメージ。
うまい具合に歌詞とマッチする曲が見つからず、雰囲気で選びました。
BGMにしてもう一度読み返していただいてもほっこり具合がましましになるかも?

最後に、この物語にででくる高橋一生さんのイメージを…。
(お借りしている画像です)

n-images-twitter-1647-68075370762.jpg


メガネにパーマに、落ち着いた優しい表情。
まこちゃん…!!!


是非みなさんのご感想もお聞かせください♪
この俳優さん女優さんのこんなストーリーを見てみたい!などリクエストもお待ちしてます。


**


好きな俳優さんと空想の世界で自由に遊びませんか?
あなたのどんな願望も、妄想も、小説にして実現にします。
イメージは曖昧でOKです。
すべて受け取り、私の中でクリアにして言葉で紡がせていただきます♪

その他、密かに抱いている夢や叶えたい想いなども小説のテーマにすることができます。
まずは小説の中でひっそりと想いを叶えましょう。
実現の後押しをしてくれるはずです…!



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