遺産分割協議書で、相続手続きはここまで楽になります

遺産分割協議書で、相続手続きはここまで楽になります

記事
法律・税務・士業全般
「遺産分割協議書は、必ず作らないといけないのでしょうか」

ご相談でよくいただく質問です。作成を義務づけた条文はありませんので、答えは「法律上は、なくても構いません」。

それでも私が「作ってください」と申し上げるのは、この1枚があるかないかで、そのあとにかかる手間と日数がまるで変わるからです。

──────────────────

【1】遺産分割協議書とは何か

相続人全員で話し合い、誰が何を取得するかを決めた結論を、書面にしたものです。

共同相続人は、いつでも、その協議で遺産の全部または一部を分割することができます(民法907条1項)。この協議の結果を記録したものが遺産分割協議書です。

守るべき点は2つです。相続人全員が参加していること。全員が実印を押し、印鑑登録証明書を添えること。

一人でも欠けた協議は無効です。「連絡がつかないから」「関係が薄いから」という理由で外すことはできません。

──────────────────

【2】作らないと、何が起きるか

□ 窓口ごとに、相続人全員の署名と押印が必要になります

遺産分割協議書がない場合、多くの金融機関では、その手続きごとに用意した所定の用紙に相続人全員の署名と実印を求めます。

相続人が5人、銀行が2行、証券会社が1社であれば、書類を3回まわすことになります。遠方の方やご多忙な方がいれば、そのたびに郵送と待ち時間が積み上がります。

□ 不動産を単独名義にできません

遺産分割をしないまま相続登記をすると、法定相続分による共有になります。その後の売却も担保設定も、共有者全員の関与が必要です。

□ 相続税の特例が使えません

相続税の申告と納付の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月です(相続税法27条1項、33条)。分割が終わっていないことは、期限の延長理由になりません。

期限までに分割が決まらない場合、配偶者の税額の軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4)を適用しないまま申告し、いったん納税することになります。

このとき申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えておけば、3年以内に分割できた時点で更正の請求により特例を適用できます。添え忘れると、この道も閉じます。

──────────────────

【3】1枚あると、ここまで楽になります

遺産分割協議書が1通あれば、次の窓口では原則としてこの1通と印鑑登録証明書で足ります。

・銀行
・証券会社
・法務局(相続登記)
・税務署(相続税申告)

窓口ごとに相続人全員の署名と押印をもらう必要がなくなります。ここがいちばん大きい効果です。

原本は1通で構いません。多くの窓口は原本を確認したうえで返してくれます(原本還付)。ただし扱いは窓口ごとに異なりますので、提出前にご確認ください。

□ 遺産分割協議書を使わない手続きもあります

受取人が指定されている死亡保険金は、受取人ご自身の財産です。遺産分割の対象ではありませんので、生命保険会社の手続きに遺産分割協議書は使いません。

未支給年金も同じです。一定の範囲のご遺族が「自己の名で」請求する権利とされています(国民年金法19条1項)。年金事務所の手続きは、遺産分割とは別に進めてください。

──────────────────

【4】法定相続情報一覧図と組み合わせる

遺産分割協議書は「誰が何を取得するか」を示す書面です。「相続人が誰か」は示しません。

そこで法定相続情報一覧図の写しと組み合わせます。

・法定相続情報一覧図の写し = 相続人が誰かの証明
・遺産分割協議書+印鑑登録証明書 = 分け方の証明

この2点で、戸籍謄本等の束を持ち歩かずに済みます。法定相続情報一覧図の写しを複数通交付してもらえば、銀行と法務局を同時に動かすこともできます。

──────────────────

【5】期限は3つあります

① 相続税の申告と納付 10か月(相続税法27条1項、33条)
② 相続登記の申請 3年(不動産登記法76条の2第1項)
③ 遺産分割 10年(民法904条の3)

②は令和6年4月1日施行で、施行前に開始した相続も対象です。法定相続分での登記をした後に遺産分割が成立したときは、その分割の日から3年以内に所有権移転登記を申請します(同条2項)。

③は、相続開始から10年を過ぎると、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなり、法定相続分による分割になるという規定です。

「話がまとまらないから、そのままにしておく」がいちばん高くつきます。

──────────────────

【6】作るときに気をつける点

□ 未成年のお子さまがいる場合

親権者もその相続の相続人であるときは利益が相反しますので、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求します(民法826条1項)。未成年のお子さまが複数いるときは、それぞれについて必要です(同条2項)。

□ 相続放棄をした方がいる場合

相続放棄をした方は、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。協議には加わりません。加えて作成すると、その協議書は使えません。

□ 不動産の書き方

登記事項証明書のとおりに書きます。所在、地番、家屋番号、地目、地積。郵便のあて先である住居表示で書くと、登記の際に通りません。

□ 「その他一切の財産」の条項

あとから預金や株式が見つかることがあります。記載のない財産を誰が取得するかを定めた条項を入れておくと、作り直しを避けられます。

□ 印鑑登録証明書の期限

相続登記に添付する場合、期限の定めはないとされています。一方、金融機関は独自に3か月・6か月などの期限を設けていることがあります。扱いは提出先ごとに異なりますので、事前にご確認ください。

□ 相続が重なっている場合(数次相続)

遺産分割が終わらないうちに相続人の方が亡くなると、その方の相続人が協議に加わります。遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じますので(民法909条)、先に分割を済ませておけば、あとの相続でやり直す必要はありません。

──────────────────

【7】協議がまとまる前でも、預金は一部使えます

葬儀費用や当面の生活費のために、相続人の方が単独で払戻しを受けられる制度があります(民法909条の2)。

金額は、相続開始時の預貯金債権額の3分の1に、その方の法定相続分を掛けた額です。金融機関ごとの上限額も定められています。

払戻しを受けた分は、その方が遺産の一部の分割により取得したものとみなされます。あとの協議で精算しますので、いくら引き出したかを記録しておいてください。

──────────────────

遺産分割協議書の作成を承ります

当事務所では、お手元の資料をもとに遺産分割協議書を作成し、データでお届けしています。法定相続情報一覧図の作成、戸籍謄本等の収集もあわせて承ります。

「相続人が遠方に散らばっている」「不動産の書き方が分からない」「先に亡くなった方の分から整理したい」といったご相談も歓迎です。

ことぶき行政書士事務所
行政書士 堀部 晶子
東京都行政書士会所属/登録番号 第18081890号

※登記については司法書士に、税金については税理士にご確認ください。相続人の間で争いがある場合は、弁護士へのご相談をおすすめします。

※取扱いは法改正や提出先の運用により変わることがあります。手続きの際は提出先にご確認ください。

▼ サービスの詳細はこちら

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す