青の教室 陽子 第24話/4月13日 ――ひらく声――
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学び
第24話/4月13日
――ひらく声――
午後の光が少し傾き、
青の教室の空気が
ゆっくりと落ち着いていく時間だった。
陽子は、
先週よりも少しだけ軽い足取りで入ってきた。
表情はいつもと変わらない。
でも、その胸の奥で
小さなものがそっと動いている気配があった。
授業が終わりかけたころ、
陽子が友彦のそばへ歩いてきた。
その歩みは、
ためらいと、
小さな決意が混じったような歩みだった。
「先生……」
声は小さかった。
けれど、その小ささの奥に
細い芯のようなものがあった。
「英語の……イラストプリント、
またほしいです」
その言葉は、
陽子の内側から
そっと殻を押しひらいて伸びてきた芽
のようだった。
友彦は、
その芽を見逃さなかった。
「陽子。
ユイのイラストでプリントを作ってあげる」
「えっ!?」
陽子の目が、
ぱっと開いた。
「スケッチブックのユイを
先生のLINEへ写メしてごらん。
嫌かな?」
「え……
ユイで作ってくれるんですか?」
声が、
ほんの少し震えていた。
でも、その震えは“嬉しさ”の震えだった。
陽子は、
スケッチブックをそっと開き、
ユイのページを写して送った。
***
友彦は、
送られてきたユイをコピーして
AIへ貼り付けた。
10分もかからないうちに、
ユイの英語イラストプリントが出来上がった。
"Hello, Yoko.
I want to talk with you in my mind again!"
「わあーーーっっっ!
ユイ!」
陽子の声が、
青の教室にふわっと広がった。
その声は、
これまでの陽子にはなかった
明るいひらき方をしていた。
ストックしてあったのと合わせて、
陽子は10枚の英語イラストプリントを受け取った。
その束の一番上には、
ユイが笑っていた。
陽子は、
その束を胸に抱えるようにして席へ戻った。
背中は、先週よりもずっと軽かった。
***
友彦は、
ふと思い出したように声をかけた。
「ほのか。
似顔絵じょうずだったよなあ。
さとるの似顔絵かいて
LINEでおくってみてよ」
「え???
オレ?」
さとるが目を丸くする。
ほのかが笑い、
すみれが吹き出す。
ひかりが笑い、
陽斗が「見たい見たい!」と騒ぎ出す。
青の教室は、
わっと明るく笑った。
その笑いの中に、
陽子の“ひらいた声”も
そっと混じっていた。
***
春の夕焼け空も
教室の青い光も
みんなの笑顔に染まっていた。