青の教室 俊雄 第9話/4月11日 ――静かに進む――
記事
学び
青の教室 俊雄 第9話/4月11日
――静かに進む――
夕方の青の教室は、
窓から入る光が少しだけ傾いていた。
俊雄は、
その青い光に包まれて、
いつものように
静かに入ってきた。
表情は変わらなかった。
でも、前回よりも
ほんの少しだけ足取りが軽いように見える。
友彦は、
机の上に2つの束をそっと置いた。
「俊雄、今日はこれをやってみようか」
「式の計算」と書かれた束。
「平方根」と書かれた束。
どちらも eプリント。
説明が簡潔で、
問題の並びがきれいな教材。
友彦は、
俊雄の横顔を見ながら思う。
(子どもは、自分のことなら
たいていのことは進められる。
大事なのは“歩幅”を合わせることだ)
静かで、まっすぐだから、
俊雄には、
余計な言葉が必要とされない。
友彦には、
これを渡しても大丈夫だという確信があった。
***
俊雄は、
まず「式の計算」の束を手に取った。
ページを開く。
説明を読む。
目が止まる。
また読む。
そのまま、
自然に問題へ進んでいった。
鉛筆の先が、
紙の上をすっと走る。
(……できる)
そう思ったわけではない。
ただ、
説明と問題の並びが
自分の歩幅に合っている。
それだけだった。
俊雄は、
自分で説明を読み、
自分で解き、
自分で答え合わせをする。
その動きは、
生卵のトッピングや、
黄色い帽子の男の子の歩き方のように、
誰にも合わせない
俊雄自身のペースだった。
数学では、
俊雄の歴史はうずかない。
胸の奥の重さも、ざわつきも、
ここでは顔を出さない。
ただ、
目の前に並んだ問題を
一つずつ進んでいくだけ。
***
「式の計算」を終えると、
俊雄は自然に「平方根」の束へ手を伸ばした。
その指先の動きは、
“次へも進むことができる”という
静かな確かさのようにも見えた。
友彦は、
その様子をそっと見守る。
(思った通りだ)
俊雄は、
まだページを開かない。
ただ、束に触れたまま、
少しだけ呼吸を整えているように見えた。
***
プリントを机に置いたころ、
友彦はふと思い出したように声をかけた。
「俊雄」
俊雄が顔を上げる。
「お家でノート、また書いているの?」
俊雄は小さくうなずいた。