青の教室 俊雄 第7話/4月4日 ――俊雄のノート――

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青の教室 俊雄 第7話/4月4日
――俊雄のノート――

青かった。

それは、
 空の青ではない。
 海の青でもない。

もっと静かで、もっとずっと深くて、
 触れる人に、
 何とも言えない広さを感じさせる青。

窓から差し込む光は、
 そんな青だった。

俊雄は、
 その青に導かれるように教室のドアを開け、
 そっと席に着いた。

そして、カバンの中を探り、
 すぐに何かを取り出した。

友彦は、用意していた積み木と紙をわきへ寄せ、
 俊雄の方に目を向ける。

俊雄は、
 はにかんだような、
 少し苦しい笑みを浮かべていた。
 胸の前に抱えたノートを、
 どう扱えばいいのか迷っているような表情。

そのまま、
 ゆっくりと友彦に差し出した。


***

驚いた。

ノートの最初のページには、
 丁寧な文字でこう書かれていた。

  静かな声
  花の声

ページをめくる。
 また驚く。
 次のページにも、
 その次のページにも、
 俊雄の文字が続いている。

どの文字も、
 息をひそめて書かれたように静かで、
 それでいて深い。

「俊雄。これ、きみが書いた、ん……だよね」

俊雄は、ひきつった笑みのまま答えた。

「家で……気が向くと、
 自分の部屋で……書いてるんです」

その声は、
 “見せてはいけないものを見せてしまった”
 そんな戸惑いを含んでいた。

ノートの裏表紙の手前には、
 二つ折りになった風景画のプリントが挟まれていた。
 しわがたくさん寄っている。
 何度も、何度も触れた跡。

友彦は、しばらく声が出なかった。

俊雄は、
 これまで“自分”を持つことを許されてこなかった子だ。
 自分のままでいてはいけないと、
 どこかで思わされてきた子だ。

だから、
 このノートは――
 俊雄が自分の内側から生まれたものを
 初めて外に出した証だった。

本人はまだ気づいていない。
 ただ、青の教室に触れ、
 友彦の青に触れ、
 砂に水がしみこむように、
 静かに何かが動き始めただけ。

けれど、その“わずかな動き”は、
 確かにそこにあった。

そして、
 震える俊雄もまだそこにいる。
 それがはっきりと見て取れる。


***

沈黙のあと、俊雄がぽつりと言った。

「先生……。
 今日は、勉強がしたいです。
 先週の数学、おもしろかったから……」


***

青の教室の夕刻は、
 ゆっくり静かに深まっていった。

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