おはようございます。2級キャリアコンサルティング技能士|合同会社たお代表の工藤でございます。今日のテーマは、「キャリアのかかりつけ医のような存在でありたい」についてです。
私が、キャリアコンサルタントを目指した理由
私は、採用担当者として15年以上、経験者採用の面接に携わってきました。その中で、ずっと心に残り続けていた疑問があります。「この方は、キャリアを変えようとする中で、どうして転職という手段を選んだのだろう」――もちろん、転職という選択も、キャリアを変えるための大切な手段の一つです。ただ、面接をしていると、「ほかに道はなかったのだろうか」「ほかに選べる手立てはなかったのだろうか」「そもそも、どうして転職したいと思うようになったのだろう」と、そんなことを考えることが、何度もありました。質問をして、その方のお話を伺っても、私には十分に理解できないこともありました。今振り返ると、それは候補者の方に問題があったわけでも、私の理解力が足りなかったという単純な話でもなかったのだと思います。「転職したい」という言葉の奥には、その人自身もまだ十分に言葉にできていない経験や感情、価値観、これからどう生きたいのかという自分自身への疑問が、重なっていたのかもしれません。採用担当者である私は、その「転職」という選択を受容することはできても、その選択に至るまでの過程を、一緒にたどることまではできていませんでした。
だから私は、もっと人のキャリアについて学びたいと思うようになりました。目の前にいる人が、なぜその選択をしようとしているのか。その人自身も、まだうまく説明できない思いを、どうすれば一緒に整理していけるのか。そして、転職という一つの選択肢だけを見るのではなく、その人にとってほかにどんな道があるのかを、一緒に考えられるようになりたい。それが、私がキャリアコンサルタントを目指した原点の一つです。採用担当者として「人を採る」側にいた私が、今度は「その人自身のキャリアを一緒に考える」側に立ってみたい。そう思ったことが、私のキャリアコンサルタントとしての出発点になりました。だから私は、キャリアのかかりつけ医のような存在でありたいと思っています。
転職するかどうかを決める前に。今の仕事を辞めるかどうかを決める前に。「そもそも、私は何に悩んでいるのだろう」と立ち止まって、自分自身を眺める。その人がまだ言葉にできていない思いも、一緒に紐解いていく。そして、目の前にある一つの選択肢だけではなく、その人にとってのさまざまな道を、一緒に眺めてみる。そんなふうに、人生の大きな決断をする前から、気軽に相談できる存在になりたい。それが、私の考える「キャリアのかかりつけ医」です。
キャリアの悩みを、誰に相談していますか
これは、私一人の疑問というより、社会全体にも見えてくる構造なのかもしれません。株式会社ジェイックが20代・30代の正社員を対象に行った調査によると、約70%が、将来のキャリアについて悩みや不安を抱えていると回答している一方で、直近1年間で本気で誰かに相談した経験がある人は、24%にとどまっているようです。また、Job総研の調査では、キャリアの相談相手が「いない」(探しているが見つからない、を含む)と答えた人が、59.7%にのぼるという結果もあるようです。
悩みはある。でも、相談できていない。この差は、どこから生まれているのでしょうか。
「自分のキャリアを相談する」という選択肢が、そもそも見えていない
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会の実態調査(2023年)によると、「キャリアコンサルタント」という仕事を知っている人は34.6%にとどまり、そのうち仕事内容まで理解している人は7.2%だったそうです。
私はこの数字を見て、こう感じました。もしかすると、多くの方にとって、キャリアに迷ったときに見えている選択肢は、「今の仕事を続ける」か、「転職サイトに登録してみる」か。そのあたりに、限られているのかもしれません。もちろん、この調査結果だけで、そう断定することはできませんが、「キャリアコンサルタント」という存在そのものが、まだ十分に知られていないのだとしたら、キャリアに悩んだときに見える「道」そのものが、少なくなってしまうこともあるのではないかと、私は感じています。
キャリアのかかりつけ医、という発想
ここで、改めてこの例えに立ち戻りたいと思います。もちろん、医療行為をするという意味ではありません。かかりつけ医が、体調に大きな変化がないときにも、日頃から健康について相談できる存在であるように、キャリアコンサルタントも、転職を決めてから訪れるのではなく、なんとなくのモヤモヤの段階から、気軽に立ち寄れる存在になれたらと思っています。
余談ですが、私が運営している「くみキャリ学院」の「院」という字は、病院の「院」と同じ字です。もともとは、垣根に囲まれた、安心して身を置ける場所という意味を持つ字だと知りました。学院も、病院と同じように、大きな決断をする前に、まず安心して立ち寄れる場所でありたいと思っています。
自己理解は、副産物ではなく、出発点
キャリアコンサルティングでは、相談者が自分自身について理解を深めていくことも、大切な支援の一つとして位置づけられています。自分が何を得意としているのか。何に興味があるのか。何を大切にしているのか。今、自分がどんな環境に置かれているのか。つまり、自己理解は、キャリアコンサルティングのおまけではなく、出発点そのものなのだと思います。
厚生労働省の「能力開発基本調査」でも、キャリアについて相談した労働者のうち、約9割が「役に立った」と回答しているようです。「仕事に対する意識が高まった」「自分の目指すべきキャリアが明確になった」という声が多く挙がっているとのことです。
おわりに
キャリアコンサルタントは、悩みが大きくなってから頼る存在ではないのだと思います。キャリアコンサルタントは、あなたの代わりに答えを決める人ではありません。あなた自身が、自分の答えを見つけていくために、一緒に考える人です。もし、まだ誰にも相談できずに、一人でモヤモヤを抱えていらっしゃるとしたら。その段階から、頼っていただいて大丈夫です。
転職するかどうかを決める前に。何かを変えると決める前に。まずは、一緒に今の自分を眺めてみる、というのはいかがでしょうか。自分自身の人生だからこそ、大切に扱ってほしい。そのために、一緒に考える人がいてもいい。自分で決める。けれど、自分だけで決めない。――あなたにも、あれ、いつもとちょっと様子が違うなと感じた時の、キャリアのかかりつけ医がいてもいいのだと思います。