廉清生織のブログの部屋へようこそ
時計広告や時計のショップへ足を運んだ際に目にする時刻について今回はお話していきますね
最近の腕時計写真全般で最も顕著な特徴のひとつが時・分針の位置が全てに共通しているのですが・・ご存知ですか?10時10分の法則があるのです
針は例外なく10時10分・もしくはそれに近い位置にセットされています。それが手ごろなスウォッチであろうと最高級のパテック フィリップであろうと関係ないのです
そこで何故か?という疑問が生じませんか?ついつい追求したくなる私は調べてみたくなります
探求心と好奇心が旺盛だからですね
この隠されたメッセージの背後にあるのが“パレイドリア(pareidolia)”という現象 です
これはギリシャ語に由来する言葉 です。パラ(para)は“近しい”や“代わりに” という意味がありエイドロン(eidolon)は ”イメージ” や “形” を指す。 この言葉は人間の心(おそらくその他の動物の心も)が視覚的なイメージのなかに意味のあるパターンを見出そうとする傾向を表しているからなのです
そうやって認識したパターンには実際に意味がある場合もあれば・・特になく思い過ごしである場合もあります
具体例を挙げるなら・・雲を見つめているうちに顔や動物の形が見えてくるというようなものと例えると分かりやすいでしょう
月の模様から人や兎の姿が見えてきたり、録音した音楽を逆再生したり速く/遅く再生して隠されたメッセージが聞こえてきたりというものもパレイドリア
現象です
視覚刺激や聴覚刺激を受けとり普段からよく知ったパターンを本来そこに存在しないにもかかわらず心に思い浮かべる現象 を指しています。パレイドリア現象・パレイドリア効果 とも言います
話を戻しまして腕時計広告における針の設定が“10時10分”と関係する理由は一体何なのでしょうか?
2008年、ニューヨーク・タイムズでアダム・アンドリュー・ニューマン(Adam Andrew Newman)氏が同テーマについて執筆した記事で、この慣習が普及している実態について触れています
当時ユリス・ナルダンのマーケティング責任者であったスザンヌ・ハーニー(Suzanne Hurney)氏は、この記事のなかで「10時10分の針の配置はスマイリーフェイス(顔文字の笑顔)のような印象を与えてくれるので、可能な限りその配置を採用するようにしている」とコメント しています。ここでも再びパレイドリア(視覚的錯覚)が登場しています
また当時タイメックスの社長だったアダム・グリアン(Adam Gurian)氏はニューヨーク・タイムズに対して「弊社では常に針を10時9分36秒に設定して撮影している。たとえその配置によって、時計の一部の機能や特徴を隠してしまったとしてもだ」と語っています
しかしながら・・認知科学的な根拠が明確に示されたのは2017年のことでした。心理学の専門誌『Frontiers In Psychology』が「なぜ時計広告の針は10時10分に設定されているのかという心理学的実験(Why Is 10 Past 10 the Default Setting for Clocks and Watches in Advertisements? A Psychological Experiment)」と題した研究を発表 したのです
この研究では「10時10分に設定された時計は、観察者の感情や購入意欲に対し顕著にポジティブな効果をもたらした。しかし8時20分に設定された時計は、感情や購入意欲に何の影響も与えなかった。また10時10分に設定された時計は、男性よりも女性において、より強い“喜び”の感情を引き出した 」との結果が示されたのです
検証の方法はシンプルです。研究者たちは20種類の時計をそれぞれ10時10分・11時30分・8時20分に設定して撮影し・・計60枚の写真を作成した のです。この写真を最初の実験では男性20人・女性26人・2回目の実験で男性11人・女性12人に見せました。その結果10時10分の配置がほかのふたつの設定よりも最も高い“喜び”の感情を引き起こすことがわかったのです。また10時10分は唯一笑顔に見える配置として認識されたというわけです
正確を期すために補足すると・・ジェームズ・ステイシーが指摘していた興味深い事実があるのです。それは時計の針を“10時10分”に設定すると口では言うものの・・実際には針が“10時8分”から“10時10分”のあいだに設定されていることが多いという点でした。これは分針の先端がちょうどインデックスの上に来ると分針の先端が見えにくくなるうえ・・微妙な非対称性が生じてスマイリーフェイス効果を損なう可能性があるためなのです
10時10分の配置は時計を購入する際の抵抗感を減らす効果があるものの・・ この小規模な実験ではその配置だけで実際に購入を決断させるほどの強い効果は見られなかったのです
ただし競争の激しいアナログウォッチの販売市場では・・どんな小さな優位性も活用する価値があるでしょう。研究論文にはこう記されています。「この研究は・・10時10分のようなスマイリーフェイスに見える時刻設定を用いることで観察者の感情的な反応や時計の評価にポジティブな影響を与えられるという事実を初めて実証的に証明しました。ただし観察者は・・時刻設定がこの効果を引き起こしていることに気付いていない」というものでした
時計広告で針を10時10分に設定する習慣が一般的になり始めたのは・・1950年代以降のことです
また“8時20分”という配置も人気の選択肢だったのです
これは少し不機嫌そうな顔に見えるものの・・時計が贅沢品ではなく必需品だった時代には “時を刻むことは真剣な行為である” という印象を与えるのに役立っていたのかもしれないからでしょう。 さらにこの位置では、針がブランドロゴを隠さないという実用的な利点もあったのでしょう
アメリカの広告表現である「シズル感」に感化されたことによります 。当時のセイコー宣伝部担当者は、見ているだけでおいしそうなビーフステーキの広告を見て、「時計の広告も見ているだけで動きを感じる表現はないか?」と検討を重ねました。(1)時・分・秒の針が重ならないこと(2)美しく・引き締まって見えること(3)ブランドロゴが隠れないこと の3つの理由が隠れていると広報担当者は言います。そこから以上の3つの理由を踏まえた上で・・躍動感のある「10時8分42秒」に決めたと言われているそうです
またカタログ上で「10時9分35秒」を指すシチズン時計の広報にも聞きましたが・・その理由はセイコーと同様のものでした。シチズンは比較画像も用意しており「10時9分35秒の方がより素敵に見えませんか?」と問いかけています。確かに比較してみると「10時9分35秒」の方が魅力的に見えるような気がします
ちなみにセイコーのデジタル時計は・・アナログ時計と17秒違いの「10時08分59秒」を示しています。これについて広報担当者は「数字で画面に表記されるデジタル時計だと『42=死に』と縁起の良くない数字になってしまう」・「さまざまな数字の形が見られて『動き』を感じることができる」とその理由について説明しています
時計の見せ方の裏側はいかがでしたでしょうか?
何気なくカタログや店頭・ネット販売されている時計一つ取っても売り手側の仕掛けがあるんです
こういう小さな工夫や拘りが私たちのビジネスにも活かしたいアイデアであり視点なのではないでしょうか?
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