🌛 夕月 - ねえ、わたし、まだあなたを好きなの。みっともないくらい。

🌛 夕月 - ねえ、わたし、まだあなたを好きなの。みっともないくらい。

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学び

\ 夕月 \



夕方になると、わたしは彼を探してしまう。

 駅の改札で、彼によく似た背中を見かけては、人ごみを押しのけて追いかける。

 コートの色、肩のかしぎ方、少し前のめりに急ぐ歩きかた。

 もう少しで「ねえ」と声が出かかって、振り返った男は決まって知らない顔をしている。

 眉をひそめて、わたしの脇をすり抜けていく。

 彼はもうわたしの生活のどこにもいないのに、夕方の街のあちこちに彼の断片がばらまかれていて、それがふいに集まって、彼の形になる。

 横断歩道で、本屋のレジで、電車の向かいの席で。



 あの人は、わたしのどこが嫌になったんだろう。

 別れてからずっと考えているのに、いまも答えは出ない。

 喧嘩をしたわけじゃない。誰かに取られたわけでもない。

 ただ、ある時期から彼の返事が一拍遅くなって、その一拍がだんだん長くなって、最後にはわたしの言葉が彼に届く前に、空中で消えるようになった。



 最後に会ったのも、こんな夕方だった。

 喫茶店の窓ぎわで、わたしたちはもう恋人ではない二人として、向かいあって座っていた。

 彼のうしろの窓に、いまと同じ白い月が浮いていた。

 わたしはそのとき、自分が何をしたのかまだわかっていなくて、ただ「元気でね」とだけ言った。

 彼は「うん」と言った。

 それだけだった。



 冬の夕方は色が早い。

 まだ西に昼の名残があるのに、東の空にはもう月が出ている。

 日の落ちきる前にあらわれる、白くて頼りない月。



 ねえ、わたし、まだあなたを好きなの。

 みっともないくらい。

 あなたがもうわたしを思い出しもしないのは知っているのに、わたしの中ではまだ、夕方になるたび、あなたが改札を出てくる。

 肩のかしぎ方も、急ぐ歩きかたも、何ひとつ変わらないまま。



 このごろ、気づいてしまった。

 わたしは彼を、手のひらで蝶を包むみたいに握っていた。

 息を殺して、こわさないように、逃がさないように。

 そうしているうちに、彼は手の中で身動きできなくなって、にぎった手をひらいたときには、もう、もとのようには飛べなくなっていた。

 だから、謝りたい。

 あのころのわたしに気づいていたら、あんなに強く握らなかったのに。

 けれど謝る相手は、もうどこにもいない。



 その言葉を、月に話す。

 彼にはもう届かないそれを、空に浮かぶこの月になら、こぼせる気がして。

 月は何も言わない。

 聞かなかったふりをして、それでもどこへも行かず、わたしの右の空に寄りそっている。



 わたしは立ち止まって、しばらくそれを見ている。

 空は暮れかけて、それでもなかなか暗くなりきらない。

 彼の名前を呼ぼうとした。

 けれど声にしようとすると、それは喉のところでつかえて、声にならずに涙が出る。



 月は、まだついてくる。
 白いまま、昼でも夜でもない場所に、わたしと並んで。












/ ♪ 夕月 /








\ ♪ 夕月 \



改札を抜ける その背中に
似てるだけの人を 追いかけてた
呼びかけた声は 宙でほどけて
振り向く知らない 横顔


昼の名残に 溶けたまま
白い月が ひとつ


夕月 まだ夜になれない
わたしも あなたを置けない
強く握りすぎて こわした手のひら
ひらいても もう飛べないの


喧嘩もなくて 理由もなくて
返事の間が 伸びていっただけ
気づいたときには 手の中の羽
粉になって 指に残った


謝りたいのに その人は
どこにも いない


夕月 まだ夜になれない
わたしも あなたを置けない
名前を呼ぼうと 喉がつかえて
こぼれたのは 言葉じゃなく


空はずっと 暮れかけたまま
暗くなりきれず 明るくもなれず
昼でも夜でも ない場所で
月だけが ついてくる



夕月 まだ消えないでいて
わたしと並んで そのまま










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🌛 彼女の心の在り様を映しながら、ずっとついてくる夕月に、今も彼を好きでいる気持ちを託しました。










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