7、現代社会論に関する本➀
➀『老人力全一冊』(赤瀬川源平、ちくま文庫)
筆者は、「老人力=物忘れ、繰り言、ため息等、従来、ぼけ、ヨイヨイ、耄碌(もうろく)として忌避されてきた現象に潜むとされる未知の力」なる概念を提唱し、話題を呼びました。「老人力」の特色は、物を忘れる、体力を弱めるといったもので、物を覚えたい、体力をつけたいというプラス志向の時代には忌避された「力」だと言います。若い者は自然には力が抜けないが、老人になると自然に力が抜ける。また、若い頃は自分の実力が分からないから、何にでも手を出し、失敗したりするが、老人になれば自分の実力も見えてくる。そこで無駄な力を使わず、かえって小さな事柄でも奥行きの深いことができるようになるというのです。まさに「老人力をばかにしてはいけない」(赤瀬川)のであって、こうした「有効資源の有効利用」(東海林さだお)が老人力だというのです。
②『夫のかわりはおりまへん 前高槻市長の介護奮戦記』(江村利雄、徳間書店)
高槻市の現役市長であった著者が、任期満了の前に公職を捨てて、寝たきりの妻の介護を選び取り、その奮戦ぶりを記したものです。その決断はテレビ、新聞などで紹介されて大反響を呼び、深い共感を呼びました。
③『「寝たきり老人」のいる国いない国 真の豊かさへの挑戦』(大熊由紀子、ぶどう社)
朝日新聞論説委員の著者によるもので、「高齢者福祉のバイブル」と定評を得ています。
④『傍らにあること 老いと介護の倫理学の永遠の争い』(池上哲司、ナカニシヤ出版)
老いを「死へ向かう生の下降(衰退・喪失・不安・理不尽)」と定義し、現代的課題である介護を倫理学的な観点から深く考察しています。単なるケアの技術論ではなく、他者と共に生きる「傍らにある」関係性を再考しています。
⑤『交わらないリズム 出会いとすれ違いの現象学』(村上靖彦、青土社)
看取りに「だんだん」向かう患者の衰弱、無目的に存在が肯定される大阪・西成の子どもたちの居場所、芥川龍之介「藪の中」に描き出される身体の余白、「まだあったかい」母親の遺体に触れる3人の娘。長年、医療・福祉の現場で人の語りに耳を傾け続けてきた現象学者が人間のうつろいゆく生を素描しています。
⑥『共生保障<支え合い>の戦略』(宮本太郎、岩波新書)
いかにして雇用の間口を広げ、多様な住まい方を作りだせるのか。自治体やNPOの実践を盛り込みながら、生活保障の新しいビジョンとしての「共生保障」を提示しています。
⑦『「利他」とは何か』(伊藤亜紗・中島岳志・若松英輔・國分功一郎・磯崎憲一郎著、集英社新書)
コロナ禍によって世界が危機に直面するなか、いかに他者と関わるのかが問題になっており、「利他」というキーワードが浮上しています。なぜなら他者のために生きるという側面なしに、この危機は解決しないからです。しかし、道徳的な基準で自己犠牲を強い、合理的・設計的に他者に介入していくことが果たしてよりよい社会の契機になるのか、この問題に日本の論壇を牽引する執筆陣が根源的に迫っています。
⑧『手の倫理』(伊藤亜紗、講談社メチエ)
介助、子育て、教育、性愛、看取りなど、様々な関わりの場面で、コミュニケーションは単なる情報伝達の領域を超えて相互的に豊かに深まります。時に侵襲的、一方向的な「さわる」から、意志や衝動の確認、共鳴・信頼を生み出す沃野の通路となる「ふれる」へ。相手を知るために伸ばされる手は、表面から内部へと浸透しつつ、相手との境界、自分の体の輪郭を曖昧にし、新たな関係を呼び覚まします。本書は目ではなく、触覚が生み出す、人間同士の関係の創造的可能性を探っています。
⑨『悩む力』(姜尚中、集英社新書)
姜尚中は在日韓国人二世の政治学者で、格差は広がり、自殺者も増加の一途を辿る中、自己肯定もできず、楽観的にもなれず、スピリチュアルな世界にも逃げ込めない苦しみを、百年前に直視した夏目漱石とマックス・ウェーバーをヒントに、最後まで「悩み」を手放すことなく、真の強さを掴み取る生き方を提唱しています。
⑩『語りきれないこと 危機と傷みの哲学』(鷲田清一、角川oneテーマ21新書)
鷲田清一は阪神大震災を機に当事者の声を聴く臨床哲学を提唱した哲学者で、東日本大震災から1年を経て、心を復興し、命を支える「人生の語りなおし」の重要性を説いています。