「もの(人・物・事)の名前」が名詞でしたが、あるものについて述べる時、常にその名前をそのまま呼ぶということは、実は意外に不便なことでもあるのです。それを示す典型が、落語に出て来る「寿限無(じゅげむ)」の小話でしょう。これは八五郎さんに子供が生まれて、和尚さんに長生きができそうで、食いっぱぐれのない名前をつけてほしいと頼み、和尚さんが「これはどうじゃ、これはどうじゃ」と出してきた名前の全てをつけてしまって、大騒動が起きるというものです。ちなみにその子の名前は、「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚、水行末、雲来末、風来末、食う寝る所に住む所、薮ら柑子のぶら柑子、パイポ、パイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」でありました。
◎寿限無=『無量寿経』より。「無量寿」とは「量り知れない寿命」という意味で、「鶴は千年」「亀は万年」というところから、和尚さんが「鶴」「亀」を入れようとすると、八五郎さんが「無期限の名前」がいいと言ったので。
◎五劫の擦り切れ=ある所に十里四方もある大岩があって、そこへ三千年に一度、天人が天下りして、着ている「羽衣」という薄い着物がその岩をサラリとすると言いますが、こうして三千年に一度サラリとやられた岩が擦り切れてなくなってしまうまでの時間を「一劫」と言い、それが五つで「五劫」ですから、果てがないのも同然です。
◎海砂利、水魚=海の砂利、水に棲む魚ということで、数えても数え尽くせないものです。
◎水行末、雲来末、風来末=水の行く末、雲の来る末、風の来る末、これらはみな果てしないものです。
◎食う寝る所に住む所=人として生まれてきて、生きていく上で大切なもので、これが備わるということはまことにありがたいということです。
◎薮ら柑子のぶら柑子=薮柑子(やぶこうじ)という植物がありますが、これは昔から百両金を表わす印として用いられており、たいそうめでたいとされています。
◎パイポ、パイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナー=昔、唐土(もろこし)に「パイポ」という国があり、そこに「シューリンガン」という王様と「グーリンダイ」というお后がいて、その間に生まれたのが「ポンポコピー」と「ポンポコナー」という二人の姫君で、この二人がたいそう長生きをしたのじゃ、と和尚さんは説明しています。
◎長久命=長く久しい命。これは分かりやすいですね。
◎長助=最後に一つ、あっさりしています。
さて、友達が学校に行こうと誘いに来た時も、「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚、水行末、雲来末、風来末、食う寝る所に住む所、薮ら柑子のぶら柑子、パイポ、パイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」と呼びかけ、それを聞いたおかみさんも、うちの「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚、水行末、雲来末、風来末、食う寝る所に住む所、薮ら柑子のぶら柑子、パイポ、パイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」はまだ寝ているんだよと言い、ごめんね、いま起こしてくるから、ちょっと待っててね、と言って、これ!「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚、水行末、雲来末、風来末、食う寝る所に住む所、薮ら柑子のぶら柑子、パイポ、パイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」!起きなさい!と呼んでいるのです。こうして落語は続いていくわけですが、ここで気づくのが、「ものには名前がある」ということは確かに便利なことですが、「ものの名前を常にそのまま呼ばなければならない」としたら、実は相当不便だということです。
これは名前がもっと短くても一緒です。例えば、「山田太郎」さんという人がいたとして、いちいち、「山田太郎はりんごが大好きです」「山田太郎は本屋に行ってきます」「山田太郎はもう寝ます」といった簡単なことを言うだけでも、まどろっこしいことが分かります。ここで「ぼく」「私」「オレ」といった言葉があれば、どれほどスッキリするでしょう。これが「代名詞」というものです。すなわち、「あるものの名前の代わりをする名詞」ということになります。「山田太郎は部屋の中のテーブルの上にあるタイムを、9時15分から読みます」といった表現も、「私はそこにあるタイムをこれから読みます」となるわけです。
こうして見ると簡単そうですが、ここで注意しなければならないのが「人称」「性」「数」「格」の概念です。「人称」には1人称(私)・2人称(あなた)・3人称(その他)の3つがあり、「性」では男性・女性・中性の3つ、「数」は単数・複数の2つ、「格」は主格(~は、~が)・所有格(~の)・目的格(~に、~を)の3つがあります。これらは代名詞の中でも人称代名詞の理解に欠かせない概念です。代名詞には他にも所有代名詞、再帰代名詞、指示代名詞、不定代名詞、疑問代名詞、関係代名詞などがあります。
(1)人称代名詞
①人称代名詞の順序
Peter and I のように、1人称の代名詞は他の人称の(代)名詞の後に置きます。また、you and your sisterのように、2人称の代名詞は他の人称の(代)名詞の前に置きます。
②「一般の人々」を表わすwe, you, they(総称用法)
weは話者自身も含めて一般の人々を表わし、youは漠然と相手に話して聞かせる気持ちで用いられ、最も口語的です。theyは話者と相手を除いた第三者としての一般の人々を表わし、文語ではoneを一般の人々を表わすのに用いることもあります。
③時間・天候・距離などを表わすit
itは時間・天候・距離・明暗・寒暖や漠然とした状況を表わす文で、主語として用いられます。
(2)所有代名詞
「代名詞の所有格+名詞」の代わりをするものが所有代名詞です。mine(私のもの、=my+名詞), ours(私達のもの、=our+名詞), yours(あなたのもの・あなた達のもの、=your+名詞), his(彼のもの、=his+名詞), hers(彼女のもの、=her+名詞), theirs(彼らのもの、=their+名詞)があり、イコールになっている名詞の部分は単数の場合も複数の場合もあります。人称代名詞の所有格はa, an, the, this, that, some, anyなどと並べて用いることはできないので、例えば「私の友人」と言う場合にa friend of mineとして、「of+所有代名詞」の形を取ります。
my friend=たった1人しかいない友人、その時の状況から決まってくる特定の友人
a friend of mine=漠然と何人かいる中の不特定の友人
(3)再帰代名詞
人称代名詞の所有格または目的格に-self(単数), -selves(複数)をつけたものを再帰代名詞と言い、「~自身」の意味を表わします。myself(私自身), ourselves(私達自身), yourself(あなた自身、あなた達自身), himself(彼自身), herself(彼女自身), itself(それ自身), themselves(彼ら自身、彼女ら自身、それら自身)があります。主格と目的格は同形で、所有格はありません。「~自身の」という意味は、my own(私自身の)のように「所有格+own」の形で表わします。再帰代名詞の用法としては、再帰用法(動作が自身に向けられていることを表わす)・強意用法(名詞・代名詞に添えて、その意味を強める)・慣用表現などがあります。
(4)指示代名詞
this(これ), these(これら), that(あれ), those(あれら)などがあります。