九州各県や山口県に事業所を構え、パート・アルバイトや月給制従業員を雇用する企業において、今回の最低賃金改定への対応は急務です。単に「下限額を下回る従業員の時給引き上げ」にとどまらず、「最低賃金の引き上げに伴い、近傍水準にある中堅層との賃金差が縮小・逆転してしまう」といった賃金体系の歪み(賃金圧縮)への対策が求められる現場に直結する実務情報を整理します。
厚生労働省は2026年9月3日、全都道府県の地方最低賃金審議会による令和8年度地域別最低賃金の改定額(答申)を取りまとめ公表しました。全国加重平均額は昨年度の1,121円から56円引き上げられ、1,177円となりました。この引き上げ幅は昭和53年度の目安制度導入以降で2番目に高い水準です。
九州各県および山口県の答申額と発効予定年月日は以下の通りです。佐賀県では全国最大の引き上げ幅(+65円)となるなど、地方部での大幅な改定が顕著です。
都道府県名 改定額(答申) 前年からの引上げ額 発効予定日
山口県 1,101円 +58円 令和8年10月8日
福岡県 1,114円 +57円 令和8年10月4日
佐賀県 1,095円 +65円 令和8年11月15日
長崎県 1,087円 +56円 令和8年11月2日
熊本県 1,092円 +58円 令和8年12月1日
大分県 1,096円 +61円 令和8年11月1日
宮崎県 1,085円 +62円 令和8年10月24日
鹿児島県 1,090円 +64円 令和8年10月25日
沖縄県 1,086円 +63円 令和8年12月2日
※現時点では地方最低賃金審議会の答申段階であり、関係労使の異議申出手続等を経て、各都道府県労働局長の決定により正式発効します。
実務上の第一歩は、新基準に「直接抵触する従業員」の抽出です。時給制のスタッフはもちろん、月給制社員も「(基本給+算定対象手当)÷1年間の1ヶ月平均所定労働時間」で時間換算額を算出し、下限額を下回っていないか確認する必要があります。なお、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、時間外割増賃金、賞与などは最低賃金の算定対象から除外されます。
さらに重要なのが、「最低賃金近傍に位置する従業員とのバランス調整」です。今回の引き上げ幅は56円〜65円と大きいため、最低賃金に抵触する層のみを引き上げた場合、従前から1,100円〜1,200円程度で勤務していた勤続年数の長い中堅スタッフとの待遇差が極端に縮小し、責任と処遇の不均衡から不満を招く原因となります。最低賃金の引き上げに合わせて、近傍層の昇給や賃金テーブル全体の改定(ベースアップ)を視野に入れたバランス設計が不可欠です。
発効日以降に最低賃金を下回る賃金で労働させた場合、最低賃金法第4条違反となり、最低賃金額との差額支払義務が発生するだけでなく、50万円以下の罰金(同法第40条)が科されるリスクがあります。また、公共職業安定所(ハローワーク)等で募集中の求人票が最低賃金を下回っている場合は不受理や指導の対象となります。さらに、社内の賃金バランス崩壊を放置すると、中核を担う既存社員の不満や離職を招き、組織の競争力低下につながる恐れがあります。
都道府県ごとに発効予定日が異なるため、給与計算の締め日・支払日を踏まえた移行スケジュールの立案が欠かせません。全体の賃金テーブル再設計や、事業場内最低賃金を引き上げて設備投資等を行う事業主を支援する厚生労働省の「業務改善助成金」などの活用計画を含め、自社に最適な対応方法はぜひ当事務所へご相談ください。