「私はいつでも待っています」 ~ パワハラ管理職に私が寛大に接する理由

「私はいつでも待っています」 ~ パワハラ管理職に私が寛大に接する理由

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法律・税務・士業全般



はじめに

パワハラの相談を受けると、私は加害者とされている管理職の方とも面談をします。
そこで出会うのが、なかなか自分自身について話そうとしない人たちです。
私は、そういう人に対しても、いつも優しく、寛大に接することにしています。
「そんな甘い対応で、パワハラが改善するの?」
そう思われるかもしれません。
しかし、そこには私なりの理由があります。
今回は、私が外部カウンセラーとして、パワハラ気質が強めの管理職さんとどのように接しているのか、対話形式でお話ししてみましょう。

1.自分のことを話したがらない管理職たち

Q: パワハラの加害者とされている管理職と面談するとき、最初に何をするのですか?

私: まず健康状態を伺います。睡眠がとれているか、心理的に追い詰められていないか。命や健康に危険があるなら、そこを最優先に考えます。

多くの方が誤解しているようですが、ハラスメント対策で一番重要なことは命と健康を守ることです。それは加害者とされている人でも同じです。

Q: そこから、パワハラの原因を探るのですね。

私: 原因を探るというより、まず本人の心の中を理解するよう努めます。しかし、これはなかなか難しいことです。
パワハラ気質の強い管理職さんには、防御反応が非常に強い人がいます。
「あいつはこういう人間なんだ」
「部下の能力が低いから問題が起きる」
「今の若い人は甘えている」
「俺はすごいんだ」
そんな話は延々とするのですが、自分自身の言動や心の動きについては、なかなか話そうとしません。
そして最後には、
「こんな話をして何になるんですか?」
などと言い始めます。
要するに、自分を客観的に見つめることを避け、対話を早く終わらせようとする傾向があるのです。

Q: それではカウンセリングにならないのでは?

私: はい。でも、それも大事な情報なのです。
私の仕事は、理路整然としたカウンセリングを成功させることではありません。当事者との対話を通じて、トラブルが発生する仕組みを分析することです。

こういう場面で対話が成立しないという事実も、重要な情報なのです。
私はカウンセラーとして、たくさんの人たちと質の高い対話してきた経験を持っています。それでも、その人とは深い対話が成立しなかった。

だとすると、ほかの人との関係でも同じような問題が生じていないのかもしれませんので、そこが注目ポイントの一つとなります。
対話がうまくいかない背景には「防御反応」が関わっている可能性がありますが、なぜ防御しているのか、何を恐れているのかについて、私は勝手に想像しないように努めています。私の想像など当てになりませんから。

大切なのは、実際に起きていることを、できるだけ正確に把握することであり、会社が期待する結果を無理やり実現させることではありません。
それを目指した瞬間が、失敗の始まりなのです。

2.パワハラ管理職に多い「あわてものタイプ」

Q: そうした管理職には、何か共通点があるのでしょうか。

私: 私の経験では、いくつかのタイプがありますが、特に多いと感じるのが、私が勝手に使っている言葉ですが、「あわてものタイプ」です。

Q: あわてもの、ですか?

私: ええ。話をじっくり聞く前に、頭の中でいろいろなことを考えてしまう人です。
例えば、部下が話している最中にも、
「自分は間違っていない」
「この部下の考えをどう変えようか」
「上司としての威厳を守らなければ」
「もしこうなったらどうしよう」
といった余計なことを考えている。
人間の情報処理能力には限界があります。
余計なことを考えながら話を聞けば、相手の言葉を正確に理解するために使える注意力が低下し、その分、誤解が生じやすくなります。
厄介なのは、その誤解をもとに相手を評価し、その間違った評価をもとに次の判断をし、さらにその判断に別の情報を付け加えて、また新たな判断をしてしまうことです。
小さな誤解が積み重なり、いつの間にか大きな思い違いになってしまう。
私はこれを「対話における情報処理の悪循環」と考えています。

Q: でも、誰かが間違いを指摘すれば、気づくのではありませんか?

私: それが難しいのです。
人間には、今のままの自分でいたいという気持ちがあります。だからこそ、他人の声に耳を傾け、自分の考えを修正しようとする意識を持つことが大切なのです。
言葉のキャッチボールができている人は、相手から新しい情報を取り入れ、自分の認識を修正する機会を得られます。
しかし、それができていない人はどうなるでしょうか。
周囲の人は、次第に「この人には何を言っても無駄だ」と感じ、距離を置くようになります。
こうして、本人が自分の問題に気づく機会が、ますます減ってしまいます。
そんな上司のもとで働く部下は、誤解や批判を繰り返し受けることで心理的に消耗し、場合によっては心の健康を損なうこともあります。
ところが、原因をつくっている上司自身は、そのことに気づいていない。
これが非常に厄介なのです。

3.そもそも、言葉は簡単には伝わらない

Q: では、こうした管理職には、どのような指導が必要なのでしょうか。

私: 指導とは限りませんが、対話についての大きな誤解に気づいていただきたいのです。
それは、「言葉は簡単に相手に伝わり、理解されるものだ」 という誤解です。

Q: どういうことでしょうか。

私: 言葉のやりとりは、もともと不完全なものです。
自分が話したことは、相手に誤解されるかもしれない。納得されないかもしれない。
それが自然なのです。
ところが、ちょこっと説明すれば相手は理解するはずだと思っている人がいます。
そして、理解されなければ「相手の理解力が低い」と考えてしまう。
そこに深刻な問題があるのです。

Q: では、どうすればよいのでしょう。

私: 確認することです。
例えば部下に仕事の指示をしたら、そのあとで部下の考えや意見を聞いてみる。

Q: もし、部下から違う意見が返ってきたら?

私: 素晴らしいことではありませんか。
考えが違っていることに気づけたのですから。
なぜ違いが生じているのか。お互いの認識はどこで食い違っていたのか。
それを、さらに対話を重ねて理解してゆくのです。
対話とは、自分の考えを相手に押し付けることではありません。お互いの実情を理解するためのものなのです。
これができるだけでも、人間関係はずいぶん変わると思います。

4.私は、パワハラ管理職に厳しく接しません

Q: しかし、パワハラ管理職には厳しく問題点を指摘した方がよいのではありませんか?

私: そう思われますよね。
でも、考えてみてください。
その管理職さんは、これまでの人生で、誰からも厳しい指摘を受けたことがなかったのでしょうか。

Q: それはないでしょうね。

私: そうですよね。
厳しい指摘を受けても変わらなかった人に、私がもう一度厳しく指摘したところで、意味があるでしょうか。
私は、優しく穏やかな態度で問いかけます。
「あなたのお考えやお気持ちを聞かせてください」
それでも相手が話題をそらしたり、質問にケチをつけたり、面談を終わらせようとしたりすることがあります。
そんなとき、私は思うのです。
「この人の部下が同じ態度をとったら、この人はきっとイライラするだろうな」と。
そして、あの手この手で相手を威圧し、皮肉を言い、相手を意のままに変えようとする。
私は、そういう感情がパワハラ問題の根っこにあると考えています。
でも、私は怒りません。常に寛大に接します。

Q: それでは、本人が何も変わらないまま終わってしまうのでは?

私: それでいいのです。
私は外部のカウンセラーです。
本人を指導したり、人事評価をしたりする立場ではありません。
本人が助けを求めたときに、心のサポートをするのが私の役割です。
無理に心を開かせようとはしません。
相手を無理やり自分の思いどおりに変えようとする。そのために無理に心を開かせようとする。その発想もまた、パワハラと同質だと思うからです。

5.優しく接することと、厳しく評価することは矛盾しない


Q: では、管理職が何も話そうとしなかった場合、会社にはどう報告するのですか?

私: 面談の状況を説明し、会社には業務上必要な評価や指導を行っていただきます。
ここは明確に役割を分ける必要があります。
会社の上司には、部下を指導し、評価する権限と責任があります。
私はその役割に口出ししません。

Q: それでも本人が自分の問題を認めなかったら?

私: その場合は、本人の現実認識に問題がある可能性を考えてもらいます。
ただし、それを裏付ける情報が必要です。
必要に応じて周囲へのアンケート調査などを行い、管理職としてどのような問題があるのか、客観的な情報をもとに本人と対話しながら確認していただきたいのです。
もちろん、情報源となる回答者の保護や報復防止には十分な配慮が必要です。

Q: それでも改善しない場合は?

私: 会社が管理職としての適性を評価し、人事的な措置を検討することになるでしょう。
私は、会社の人事評価にまでカウンセラーが関わるべきだとは思いません。
会社には会社の目的があり、その目的を合理的に実現してゆく必要があります。
一人の管理職の個人的な事情によって、組織が損失を出し続けるわけにはいきません。
しかし、その人を一方的に悪者と決めつけ、排除するだけでは、大切な人材を無駄に失うことにもなります。
大事なのは適材適所です。
人を管理する仕事には向いていなくても、別の仕事で力を発揮できるかもしれません。
本人にとっても、必死に管理職の地位にしがみつくより、自分に合った別の仕事を探す方が幸せかもしれません。
そのことに思い至るための適正なプロセスがあるか、ないか。
この点が今後の人材戦略で重要なポイントとなるでしょう。

6.選手を評価する人と、選手を支えるコーチ

Q: 厳しく評価しながら、本人を優しく支える。少し矛盾しているようにも感じます。

私: 例えば、マラソン競技の選手を考えてみてください。
選手のタイムは厳正に計測され、比較されます。
これは当然のことです。
一方、選手にはコーチがいます。
コーチは選手が成長し、よりよい成果を出せるようにサポートします。
会社の人事評価とカウンセラーの役割も、これに似ています。
評価は公正に行う。
その一方で、本人が成長したいと思ったときには、サポートする人がいる。
それはとても贅沢なことかもしれませんが、これからの時代には重要な手法だと思います。
AI社会では、人間同士の質の高いコミュニケーションが、より一層重要になると考えるからです。

Q: 本人がサポートを拒否したら?
私: それは本人の選択です。
私は全ての管理職を救えるとは思っていませんし、その人の自主性を尊重します。
私たち人間は不完全なのですから、私たちが願うような結果に導けないこともあります。それはお互い様です。
会社もカウンセラーも、合理的に意味のある範囲で精いっぱいのことをすればよいのです。

Q: それでは、ハラスメントがなくならないのでは?

私: 嫌なものをゼロにできたら気持ちがいいですね。
しかし、ハラスメントはゼロにはできません。
人間関係のトラブルの多くには心理現象が関わっていますから、私たちはそうした問題と共存しながら生きてゆくしかないのです。
私は、そもそも「ハラスメントゼロ」を目指すという発想自体に危うさがあると考えています。
ハラスメントを絶対に発生させてはならないという目標が、過剰な監視や責任追及、言動の萎縮を招き、かえって職場の心理ストレスを増幅させてしまうからです。
私たちは、物事を単純化してスッキリしたいという欲求を持っています。そのため、ハラスメント対策においても、「悪者を罰して終わり」という単純な方向に向かいがちです。
しかし、適切な対話の手順を踏まず、トラブル発生の仕組みもわからないまま、責任を誰かに押し付けてしまえばどうなるでしょう。
職場の雰囲気が悪くなり、離職者が増え、命と健康が危うくなるかもしれません。
これではハラスメント対策の意味がありません。
加害者を追い詰めようとする、その発想自体がパワハラ的なのです。これでは人材育成にも悪影響が出るでしょう。
もちろん、これは企業が独自に判断することですが、私は特に中小企業においては、処罰を重視するハラスメント対策が実情に合わないと考えています。
人手不足が深刻な状況において、処罰的な対策を採用しせいで、職場環境が悪化してしまっている会社がいかに多いことか。
私が提唱するハラスメント対策は、対策本来の目的を、ごく「当たり前」の方法で着実に実現してゆくことです。
ところが、いざそれを実践しようとすると、さまざまな認知バイアスが影響します。
そのバイアスの多くは、根っこがパワハラ気質と同質のものだと考えています。
だからこそ、会社の立場や利害関係に左右されず、冷静に実情を把握し、適切な対話を続けることが重要なのです。
「当たり前」を貫かせること。それが私の役割だと思っています。

7.管理職が変わり始めると、言葉が変わる

Q: では、管理職が成長し始めたことは、どこでわかるのでしょうか。

私: まず、管理職が良い方向へ変化するときには、心にゆとりが生まれてくるものだと考えています。
防御反応が強いときには、何かにおびえている可能性があります。
その「おびえ」は、本人の悲観的な予測によって、衝動的に生まれてしまう感情なのかもしれません。
例えば、私から何らかの批判や否定、責任追及をされるものと予測しているのかもしれません。
もちろん、これはあくまで可能性であって、本人が実際に何を感じているのかはわかりません。
私はそのような批判や責任追及をするつもりはないのですが、そうではないと気づいていただくには時間がかかります。

Q: では、安心してもらうために、もっと積極的に働きかけた方がよいのではありませんか?

私: そうとも限りません。
人を信じられない人が、他人を信じられるようになるのは、とても難しいことだと思います。
例えば、人間からいじめられた猫と仲良くしようと思ったら、無理に触ろうとせず、適度な距離を保ちながら、穏やかな態度で接することが大切です。
少しずつ安心感を高めてゆくわけですが、何年かけても人間になつかない猫もいます。
ちなみに私は、子どものころから、そういう人間不信の猫たちと接して育ちました。
人間と猫を同じように考えるわけではありませんが、信頼関係を築くうえで似たところがあると思っています。
いつ、どのようなきっかけで関係が変化するのかは、簡単には予測できません。
私が積極的に何かをしようとしても、本人が心を閉ざしているのであれば、その人から役に立つ情報を得ることは難しいでしょう。
だから、私は「待つ」ということを、とても大事にしています。

Q: 待つことが、それほど重要なのですか?
私: 私は、多くの人間関係のトラブルには、「待てないこと」 が背景にあると考えています。

今すぐ答えを出したい。
今すぐ相手の本心を明らかにしたい。
今すぐ好かれたい。

そうした焦りから、威圧したり、駆け引きをしたりして、相手の心を動かそうとする人がいます。
ところが、それがかえって相手の不信感を強め、心を閉ざす原因になってしまう。
近道をしたつもりが、永遠とも思えるほどの遠回りになってしまうのです。
そんな人間関係の破綻が、世の中では日々無数に起きているように思います。
だからこそ、私は相手が自分から話し始めるのを待ちます。
そして、本人に心のゆとりが生まれてきたとき、言葉にも変化が表れることがあります。

Q: どのような変化でしょうか?

私: それまで他人の問題ばかり話していた人が、次第に自分の内面について話し始めるのです。

「自分には、こういう問題があったのかもしれない」
「この部分を改善するために、こんなことをしてみたい」
「自分は今の役職には向いていないかもしれない」

そんな言葉が出てくるようになれば、大きな変化です。

Q: でも、その場しのぎで言っているだけかもしれませんよね。

私: そうかもしれません。
だからこそ、相手を信じ、見守るのがカウンセラーの役割です。
同時に、必要な情報を集め、周囲の人がストレスを感じていれば、その情報を本人にフィードバックする。必要な指導やアドバイスもする。
それでも改善が進まなければ、人事的な措置を会社に考えていただく。
本人の成長を信じることと、組織を守ることは両立できるのです。

8.「私はいつでも待っています」

Q: それでも最後まで自分の問題に向き合わず、面談を終えてしまう管理職さんもいるのでしょうね。

私: もちろんです。むしろ、そういう人が少なくありません。
多くの管理職さんは、問題を一人で抱え込み、他人の助けを求めようとしません。
それを当然の生き方だと思い込んでいるのかもしれません。
そして、自分がそうしているから、部下にも同じことを求めてしまう。
それがパワハラにつながっている可能性もあります。

Q: では、どうすれば助けを求められるようになるのでしょう。

私: 助けを求めたときに、本当に助けてくれる人がいることです。
それがなければ、意味がありません。
だから私は、面談の最後にこう伝えることがあります。
「私はいつでも待っていますよ」
その人とは、二度と会うことがないかもしれません。
でも、何か月か、何年か経ったときに、その言葉の意味に気づくことがあるかもしれない。
そして、誰かに助けを求めてみようと思うかもしれない。
それだけでも、私には大きな意味があるのです。
私は本人を無理に変えようとはしません。
ただ、本人が自分自身に向き合おうとしたときに、そっと手を差し伸べられる存在でありたいと思っています。
そして、その人が再び私を訪ね、自分の気持ちを語ってくれたなら、私はきっと「ありがとう」と言うでしょう。

9.人生の風景が変わるかもしれない

Q: 最後に、この記事を読んでいる管理職の皆さんに、伝えたいことはありますか?

私: 現実を冷静に把握し、適切に判断する。
それができていれば、人間関係に多少の摩擦が生じても、円満に解決することができるでしょう。
もし、それがうまくできていないのなら、あなたには改善の余地があるということです。

私は、それを人生の「伸びしろ」だと思います。
自分の問題に気づくことは、決して不幸なことではありません。
むしろ、これからの人生をもっと素敵にするチャンスなのです。

まずは、身近な人との対話から始めてみませんか。
自分の考えを伝えることよりも、相手の考えや気持ちを理解することに、少しだけ意識を向けてみる。

相手が何を考え、どんな気持ちでいるのか。
自分の理解は間違っていないだろうか。

そんなことを考えながら、穏やかな言葉のキャッチボールを楽しんでみてください。

相手を理解しようとする努力は、やがて自分自身の考え方や心に良い変化をもたらすかもしれません。
それは、人生の風景が変わるほどの重大な変化になるかもしれないのです。

もし、そんな変化を実感できたら、今度はあなたが、周囲の人たちにその素晴らしさを伝えていただきたい。
私は、そう願っています。

おわり

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