私は本業でハラスメント対策のアドバイスをしていますが、ハラスメント相談窓口の設置はほぼ法的義務とされています。
これに対する経営者の本音は大雑把に二つ。
A どうせなら相談窓口を活用して職場改善に役立てよう。
B 相談窓口なんてカタチだけでいい。従業員の本音なんて聞きたくない。
この違いはどこからくるのか。
経営方針が明確な会社であれば、人材活用を重視する以上は「A」を選択するでしょう。
ところが、「人手が足りない」「人材が育たない」という悩みを抱えているのに、相談窓口なんてムダだと思っている経営者さんがいかに多いことか。
困ったことに、大企業よりも中小企業でそうなっています。
優秀な人材が確保しにくい現状のなかで、なぜ従業員の声を知りたくないのか。
それは経営判断ではなく、その経営者の対話に対する「好き嫌い」が影響していることが多いです。
対話を重視している経営者なら相談窓口を重視し、人材の育成と活用に生かすでしょう。
ところが、組織階層の上位にいる人ほど対話を軽視する人の割合が多くなります。
これには文化的な要素が強く影響する「仕組み」があるのですが、表に出しにくい話を含むので、この記事では触れません。
ともあれ、経営者が対話を嫌うのなら相談窓口は形骸化します。
では、なぜ対話を嫌うのか。
これはカウンセリングの経験から、私にとっては、ある程度はっきりしていることです。
幼児期から青年期にかけて、つまり家庭において。
「心地よい穏やかな対話体験がある人」は、対話を重視しています。
一方で、「不愉快な対話しか経験していない人」は対話を嫌います。
それは多くの場合、その人の過去の親子関係に起因しています。
親が子供との間で不愉快な対話をしていれば、その子どもは対話を軽視し、嫌います。
これまでの人類の多くは、特にこの日本では、対話を軽視してきましたから、誰もが「心地よい対話」を経験していませんし、この私もそうでした。
心地よい対話とは、言葉のキャッチボールが双方穏やかな気持ちで続いている状態です。
これができている人はこの世でほとんどいません。
自分の考えを一方的に伝えてスッキリする。
これは相手にとっては「不愉快な対話」となりえます(相手がカウンセラーなら構いません)。
つまりこれは、「心地よい対話」ではありません。
上手にペラペラ話せること。
これも対話の善し悪しとは無関係ですが、よく誤解されるポイントです。
対話が苦手な人ほど、流ちょうにしゃべる人に嫉妬心を持ちやすいですが、深刻な勘違いです。
私が「心地よい対話の価値」に気が付いたのは、心理カウンセラーになって経験を積んだからです。
心地の良い対話のできる人とできない人で、こんなにも人生が違うのか。
この現実に気が付いて私は愕然としました。
心地よい対話のできない人は、なにかとつまづき、ストレスを生み、人が離れていきます。
この世のありとあらゆる問題がここに繋がっています。
逆に、心地よい対話ができている人は、人生に納得しやすくなるし、人と適切に付き合えるようになります。
たったこれだけ。でもこれが実に難しいのです。
私たちの心がこの実現を自ら拒否しているのですから。
対話を嫌う人は、さしさわりの無い日常会話ならできるのですが、内容に深みが出てくると、突然会話を中断したりします。
会話の途中で恐怖心やイライラが沸き起こって来てしまい、無意識に会話を中断するケースが多いです。
コンプライアンス問題、事故、人間関係トラブル。
こういった問題の背景には多くの場合「対話がうまくいっていない」という問題がありますが、対話の価値を知らない人は、本当は自分の対話に問題があるのに、自分の対話に問題があることに気が付きません。
対話の価値を知らない人は、対話不全によってトラブルが発生するメカニズムを理解していませんから、問題発生の原因を、他人や社会のせいにするか、とりあえず自分が悪いのではないかと思うことになります。
この不毛な責任者探しが、周囲を巻き込んで様々なストレスを生み出します。
それをなんとかしようと周囲が対話を試みても、対話の価値を知らない人は「対話」を途中で中断するので、相互理解が成立せず、さらに余計な誤解や不信感を生んでしまい、問題をさらに複雑化させます。
この世のストレスはおおよそこのようにして生まれています。
だとしたら、「対話の価値を知らない人」が「対話の価値」に気が付き、心地よい対話をできる人になれば、その人も、その周囲も、明るい未来が開けてきます。
では、それを実現するにはどうしたらいいか。
それは単純ですが難しいことです。
「心地よい対話」を体験してもらえばいいのです。
しかし、そういった場合の対話の相手として充分な能力を持っている人は少ないし、利害関係のある人を相手に「心地よい対話」を実現するのはかなり無理があります。
心地よい対話は、二人の波長が一致して初めて成立するからです。
利害関係がある相手に対して、人はどうしても、あらかじめ着色をしてしまいます。「色眼鏡で人を見る」という現象です。
つまり、「対話の価値を知らない人」は対話の途中で余計な想像をして、恐怖心で対話を打ち切ち切ってしまう可能性が高くなります。
ですので、心理カウンセラーとの対話経験を増やし、「心地よい対話」の価値を少しずつ理解し、本音を話すことに慣れてもらえると、改善できる可能性が高まります。
私はこのような手法でパワハラ管理職の改善指導を行っています。
対話の価値に気が付けば、日々の思考が根本から変わります。
もちろん思考のクセは簡単には抜けませんが、日々、心地よい対話を実感できれば徐々に変容する確率が高まります。
いま対話ができなくて困っている方には、多少の時間と手間をかけてでも、ここに注力することをお勧めします。
人生の風景を根本から変えるほどの重大なことだからです。