萌の願いは智史に届くことはなく
ある寒い日に人生の幕が降りた。
『雅子、ちょっと来てくれない?』
『はい、すぐ参ります』
『あんたね、昨日のお座敷で何したか分かってるの。
大事なお客様の接待だというのに急に気持ちが悪いとかで
席を立ってそのはずみで熱燗こぼして
そのお客様にやけどさせたって女将さんもうあなたは出入り禁止だって言ってたわよ』
『すみません。急に気持ち悪くなってそのはずみで』
『言い訳なんて聞きたくないわ。うちの信用ってもんがあるのよ。
あんたお酒飲みすぎたんじゃないの?
飲んでいただくのが私達の仕事よ。
飲まれてどうすんの』
『本当にすみません』
『まあ今回は火傷と言ってもたいしたことがなかったみたいだから
謝っただけで済んだけど悪くすれば慰謝料を請求されて大変なことになったかもしれないのよ。気をつけてちょうだい』
『はい、気をつけます。すみませんでした』
雅子はこのタイミングでおかあさんに言っていいものなのか躊躇したが
今言わなければ大変なことになると勇気を出して言った。
『あの、それでちょっと』
『また何なの、私これから見番で集まりがあって行かなきゃいけないのよ、
話ならまた後にしてくれない?』
『いや、あの、それが』
『もうわかったわ、何なの?何があったの』
『私、お腹に赤ちゃんが出来たみたいで』