「読書とコミュニケーションの関係」滋賀県立大学人間文化学部2024年後期

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学び

(1)問題




次の文章は齋藤孝著「読書力」の一部である。これを読んで,後の問い(問1,2)に答えよ。



①  読書は何のためにしなければいけないものなのか,読書をするとどんな力がつくのか。すでに述べたように,読書は自分をつくるのに力がある。それとともに強調しておきたいのは,読書をするとコミュニケーション力が格段にアップするということだ。



②  普通の会話をしていても,読書力のある人とない人とでは,会話の質が変わってくる。学生を相手に会話をしていると。本を読んでいる学生かそうでないかはすぐにわかる。読書をしているかどうかという質問をしなくても,コミュニケーションの質からわかるのだ。



③  では,読書をしているかしていないかの影響は、コミュニケーションにどのような影響を与えるのであろうか。はっきりと言えるのは,会話に脈絡があるかどうかという違いだ。中学生や高校生の友だち同士の会話を聞いていると,まったく脈絡のない話を次々にしていることがよくある。それはそれで友だち同士なので楽しい会話になっているのかもしれない。問題は,親しい友人以外と話す場合だ。脈絡のない話し方は通用しない。相手の言ったこととまったく無関係に「ていうか」という始まりで,まったく別の自分だけに関心のある話をしたならば,相手はうんざりしてきて人格さえも疑うようになる。脈絡のない話し方は,社会性がないと受け取られる。



④  では脈絡のある話し方は,どのようにしてできるのか。それは,相手の話の要点をつかみ,その要点を引き受けて自分の角度で切り返すことによってである。通常,人の話には幹と枝葉がある。しっかりと相手の言っていることの幹を押さえて,それをより伸ばすように話をするのが会話の王道だ。この幹をつかまえる力は,読書を通じて要約力を鍛えることによって格段に向上する。



⑤  会話は空中を流れていくイメージなので,つかまえどころがない。それに対して,本は文字が固定されているので,振り返って要点を探しやすい。読書で要旨をつかまえることのできない人は,質の高い会話のやりとりは難しい。会話で要点を外さずに捉え,うまく切り返す能が能力は,いわばどのコースに来るかわからない球を打つようなものだ。本の場合は文字として固定されているので,どのコースに球が来ているのかくらいはわかる。そこで要約力を鍛えることによって,ライブでの会話の要約は向上する。



⑥  会話は,自分の話したことがきちんと相手に受け止められると思うことによって,お互いに盛り上がる。きちんと受け止めたかどうかを示すのが、相手の言っていることを自分の言葉で言い換えるというレスポンス(応答)だ。「なるほど」,「そうですね」,「たしかに」といった相槌だけでも,会話は潤滑油を注がれたように滑らかになる。



⑦  この相槌をより高度にしたものが「自分の言葉で言い換える」ということだ。相手の言葉を鶏鵡返しにするだけでも,会話のリズムはよくなる。それをヴァージョンアップさせて,言葉を換えて同じ内容を言い換えることができれば,相手の言っている内容をしっかりと理解しつかまえていることが、相手側にもはっきりと伝わる。「同じ内容を自分の言葉で言い換えてみよ」という課題は、幼い頃から繰り返し練習する価値のあるものだ。この「言い換え力」は,コミュニケーションの中でもっとも基礎的なもののひとつだ。



⑧  自分の言葉で言い換えるためには,語彙が豊富である必要がある。それは読書によって効率よく鍛えられるものだ。言い換えにはコツがある。抽象的なものは,具体的なものに少し直し,具体的な発言に対しては,少し抽象度の高い言い方で言い換える。



⑨  新書系の本の場合は,論旨が具体例とセットになって書かれていることが多い。一般的な言い方の文章の後に,「たとえば」というように例が挙げられる。これを二人の会話で行うということだ。一般的な発言に対しては具体例を,具体例を相手が挙げれば,それを一般化する。こうしたやりとりによって,幹を失わない,しかも起伏のある会話ができる。



⑩  会話をしていて相手が喜ぶのは,自分のいった話が無駄に終わらずきちんと相手に届いて,しかも生かされていると感じる場合だ。それが具体的にはっきりするのは,相手の話の中に自分の言ったキーワードが入り込んでいるかどうかである。自分の発言の中でも,重要だと自分が感じていた言葉(キーワード)を相手が使ってくれれば,それだけでも会話に勢いが出てくる。



⑪  しかしこの程度のことならば,読書をしなくても何とかできるかもしれない。読書経験が生きてくるのは,5分前,10分前,20分前に話された相手の言葉を引用して会話に組み込める技においてだ。現在の文脈そのものには出てこない,いわば,すでに地下に潜ってしまった水脈を,もう一度掘り起こすのである。



⑫  その言葉を話した当人でさえも,今の時点では意識していない言葉を,もう一度舞台に上げる。すると,相手は自分の過去に話した話と現在の話とが結びつくのを感じ,自分の中に脈絡ができたことを喜ぶ。もっとも気が利いているのは,話している相手がつながっていないものをつなげてあげるということだ,こうしたことができるためには,相手の言葉をしっかりと押さえておく必要がある。この力をつけるためには,「メモをとる習慣」が必要だ。



⑬  私はちょっとした会話でも,簡単なメモを取る。図にすることもある。メモを取っておけば,相手の話の脈絡がつかみやすい。会話をクリエイテイブにするには,自分の思考と相手の思考とを混ぜ合わせることが必要だ。自分の言いたいことだけ言って終わりという人をしばしば見かける。これは思考のすり合わせができていないケースだ。メモをとる習慣のある人は,自分の脈絡だけで話をしないようになる。



⑭  メモをする力も,読書を通じて鍛えられる。離れた段落に脈絡を探す練習が,メモ力を鍛える。「今読んでいることは,確か前の方でも出てきたな」と思って探してみる。そして該当箇所があれば,そこに線を引いたり〇で囲んだりする。こうすることによって,前後関係に,読者である自分が積極的に脈絡をつけることになる。あるいは,読み進めながら「あ,ここは後で大事になりそうなところだな」という感性を働かせながら,チェックをしていく。全部が当たるわけでなくとも,後でそのチェック力が生きてくる。



⑮  肝心なのは,常に脈絡を考えながら読書をし,会話をするということだ。脈絡のない内容の本も世の中にないことはないが,通常本は脈絡を大事にしている。いわばストライクが常に来るバッティングセンターのようなものだ。一般の会話は,ストライクゾーンに来るとは限らない。相手の話自体に脈絡がないことも多いからだ。まったく脈絡のない話に脈絡をつけるのは,さすがに難しい。本のようにきちんとした主張があるもので脈絡をつける練習をする方が合理的だ。しかも本の場合は,内容は会話に比べて多く含まれているので,そこで練習をしておけば,実際の会話では要点をつかむのは一層容易になる。



⑯  本の著者は,それぞれ自分の主張やベースを持っている。そうした複数の著者と付き合うことで,聞く力が練れてくる。本によっては,非常にわがままな著者もいる。それに著者はたいてい個性的だ。様々なタイプの著者に数多く付き合うことで,いわば人間が練れてくる。人の話をきちんと聞き続けることができるだけでも,相当社会性は高いと言える。

(齋藤孝著『読書力』岩波書店,2002年。出題にあたり縦書きを横書きに改め,一部漢数字を算用数年に改めるなどの必要な改変を行っている。



問1     筆者は,読書によってコミュニケーションの性質がどのように変わると考えているかを,300~400字で説明しなさい。



問2     読書によってコミュニケーション力が格段に上がるとする筆者の意見に対して,あなたの考えを300~400字で述べなさい。




読書.png





(2)解答例






問1



相手の話を聞くときに話の脈絡をつかみ,自分が話すときにも脈絡のある話し方をする社会性を身に着けることができる。それには,相手の話の要点をつかみ,これを理解して自分の言葉で言い換えて応答する要約力を鍛えることができる。要約する際の豊富な語彙力また抽象的なものは具体的なものに直し,具体的な発言は抽象度の高い言い方で言い換えること,相手の話の中に自分の言ったキーワードを盛り込むことがコツとなる。また,前に話された相手の言葉を引用して会話に組み込む技もある。こうした技やキーワードを押さえて要約する力は,会話中にメモをすることでることで身に着く。相手の発言で重要だと相手が感じていたキーワードを自分が使えば,それだけでも会話に勢いが出てくるうえ要点を失わない,起伏のある会話ができる。それぞれ自分の主張やベースを持っている本の複数の著者と付き合うことで,聞く力が練れてくる。(385字)



問2



 筆者は読書によって培われた要約力で文脈重視のコミュニケーションができるとする。こうした会話の技術が読書で身に着くことはもちろんだが、もうひとつ読書には重要な効用がある。それは、様々な思想や価値観を持つ著者に触れ、思考の幅を広げることである。



 私たちが活動できる物理的空間には身体性という限界を持っている。人生で会える人の数には限りがある。歴史的な制約もある。既に亡くなっている過去の人物とは会うことができない。しかし、読書はこうした身体的・歴史的な縛りをなくして地球の裏側に住む著者や歴史上の偉大な人物にも接することができる。これは読書の賜物である。



 読書を通じて得たさまざまな考えや価値観はその人の畑に豊かな実りをもたらす。価値観の異なる他者との会話においても、読書経験は異質なものを受け入れる包容力と柔軟な思考力を養い、円滑な異文化交流を可能にすることができるのだ。(390字)



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