狩猟をしてみよう。
そう思った理由は、正直何となくだった。
田舎で育った私の家はそれなりに広い畑があり、家庭菜園として野菜や果樹など、様々な作物が年がら年中育っていた。
春にはイチゴ、芽キャベツ。夏にはトマト、キュウリ、ナス、ピーマン、スモモ。秋にはサツマイモ、カキ。冬には柑橘類(下の写真は夏みかん)、大根、白菜。
ザッと挙げられるだけでこれくらい。試しに作ってみた作物を加えればもっとある。
余談だが、年中果物が無料で手に入る環境にいたせいで、実家を離れた今でも一日一種は果物を食べないと気が済まない。
まぁそれはともかくとして。
そんな風にたくさん作物があれば、それなりに害虫害獣被害は遭ったわけで。
ブドウが実ればハクビシンに食べられ、トウモロコシはことごとくアワノメイガにやられ、ミカンは名も知らぬ鳥に食べられる。
幸い山に近いわけではなかったので、自家消費するだけの作物は確保出来た。
それもあって対策といえばネットを張るくらいで、外部に駆除を頼むことも、自分達で捕獲することもしなかった。
そんなわけで野生動物とは縁があっても、狩猟とは縁がなかった子供時代。
都会から赴任してきた中学の担任が、ある朝アカテガニを見せてくれた。心底ウキウキしていたのを覚えている。
前日の夜中に帰ろうとした時、僅かに開いていた扉から校内に侵入していたのだろう。
咄嗟にカニを捕まえた先生は、理科室にあるプラスチックの桶に水を張り、朝まで入れておいたらしい。
都会暮らしの先生からすれば、アカテガニなんて生で見たことなかったのだろう。
桶ごと教卓に置かれたアカテガニを、まるで宝物のように愛でる先生。
僕達は、そんな先生を冷めた目で見ることしか出来なかった。
「何をそんなにはしゃいでるの?」
みんなの意見をまとめるとそんな感じだ。
アカテガニなんて、道の端見てればいくらでも見つけられる。何ならその日の通学路でも見かけた。
僕の学生人生。あそこまで生徒と先生の間で温度差が生まれたのは、後にも先にもあの一回だけとなった。
そんな僕でも、見かけて驚いた野生動物もいる。
その中でも特に覚えているのは、小学生5年生の時の夏だ。
小学生の夏の朝と言えば、ラジオ体操。
私も例に漏れず、歩いて15分ほどの広場で毎年やっていた。インドアな私としては、朝っぱらから運動なんて勘弁して欲しかった。
その日も紐を通したラジオ体操カードを首に下げて、のんびりと広場に向かっていた。
小さなお寺の前を通ろうとしたその時、少し離れた民家の塀から何かが飛び出してきた。
塀を飛び越える身のこなし、塀の影で体の色は分からないが、大きさ的に小動物。私は野良猫だと思った。
私の住んでいた地域では、野良猫なんて珍しくも何ともない。一日で見かけない日はないのではないかと思うほどに。
だから特に思うこともなく歩こうとした私は、そこでふと違和感に気がついた。
猫にしてはやけにゴツい。しかも猫特有の長い尻尾が無く、お尻が赤い。
「あっ、猿じゃない?」
僕の言葉を肯定するように、その生き物がこちらを向く。
予想通りのニホンザル。生まれて初めて野生の猿を見た僕は、しばらくの間睨み合った。
野良猫ならば、大抵の場合こっちに気がつけば逃げてくれる。それは経験則で分かっていた。
しかしサルの場合どうなるかなんて、子供の頃の僕には分からなかった。
関わりといえば、度々町でサルが目撃されて、学校が注意喚起をしてくれる程度。刺激はするなと教わった。
それならば近づかない方が良いと判断し、立ち止まって睨み合う。
すぐに逃げると思った僕の予想に反して、猿はなかなか動かない。
嫌な想像が頭を巡り、飛びかかられて襲われる姿を思い浮かべたところで、猿はあっさりと逃げていった。
初めて野生動物相手に緊張した、そんな思い出だ。
そんな特に可もなく不可もない人生を送っていた私も大学生になり、実家を出て都会にやってきた。
一時間に何本も通るバス、片側二車線の道路、歩いて行ける距離には映画館やカラオケ。
双方一長一短な面はあるものの、都会と田舎の差って残酷だなぁと感じた。
平日は学業に勤しみ、休みの日は趣味の料理を活かして、居酒屋のキッチンでアルバイト。
忙しくも自由な日々を過ごしていた。
そんな大学二年生の夏休み。
大学生生活にも慣れた僕は、漠然と何か新しいことを始めたかった。もう少し具体的に言うと、出来れば何か技術を身につけたい。
ベッドの上でゴロゴロ寝っ転がりながら考える。
そんな時、ふと浮かび上がったものが狩猟だった。
色んな動物と触れ合い、珍しい食材として食べることができる。そう思うと、思ったよりも楽しそうだ。
興味本位で調べてみると、情報は思ったより楽に出た。
講習は林務事務所に電話一本で受付番号を取得。応募用紙は大学のプリンターで印刷可能、送る封筒も持っていた。免許取得に必要な費用も、アルバイトで稼いだお金で全然払える。
特にめんどくさがる理由もなく、むしろこれからするであろう経験にワクワクした。
「狩猟やってみるか」
林務事務所のサイトをスクロールし、記載されてた電話をかける。
こうして僕の狩猟活動は、ベッドの上で始