本人の世界を知ることが、理解の第一歩
認知症と聞くと、多くの人がまず不安を感じるのではないでしょうか?
「家族のことが分からなくなるのではないか?」
「何もできなくなってしまうのではないか?」
「介護が大変になり、家族の生活が壊れてしまうのではないか?」
そのように感じるのは、とても自然なことだと思います。
実際、認知症は本人にとっても、家族にとっても、決して軽い問題ではありません。
生活の中で困りごとが増えたり、今まで普通にできていたことが難しくなったり、家族の関わり方にも戸惑いが生まれます。
ただ、ここで一つ大切にしたいことがあります。
それは、認知症を「怖いもの」「困ったもの」「どうしようもないもの」としてだけ見てしまうと、本人の本当の困りごとや、まだ残っている力が見えにくくなってしまうということです。
認知症の方は、何も分からなくなっているわけではない
認知症になると、記憶や判断、時間や場所の認識などに変化が起きることがあります。
同じことを何度も聞く
約束を忘れてしまう
財布や通帳をなくしたと言う
道に迷う
急に怒ったように見える
家族から見ると、「どうしてこんなことをするのだろう」と感じる場面が増えるかもしれません。
しかし、本人はわざと困らせているわけではありません。
本人の中では、思い出せない不安、状況がつかめない混乱、自分でもうまく説明できない戸惑いが起きていることがあります。
つまり、家族から見ると「問題行動」に見えることも、本人の側から見ると「困っているサイン」かもしれないのです。
ここに気づけるかどうかで、認知症の方への関わり方は大きく変わります。
「正す」よりも、まず「安心」を届ける
認知症の方と接するとき、家族はつい正そうとしてしまいます。
「さっきも言ったでしょ」
「それは違うよ」
「何度同じことを聞くの」
「ちゃんとして」
もちろん、家族にも余裕がない時があります。
仕事や家事をしながら、親の変化に向き合うのは簡単なことではありません。
ただ、本人が混乱している時に強く正されると、内容を理解する前に「責められた」「否定された」という感情だけが残ってしまうことがあります。
認知症の方への対応で大切なのは、まず安心してもらうことです。
「大丈夫ですよ」
「一緒に確認しましょう」
「心配だったんですね」
「困っていたんですね」
このような言葉が、本人の不安を少し和らげることがあります。
正しい説明をする前に、本人の不安を受け止める。
それが、認知症理解の大切な第一歩です。
認知症になっても、すべてが失われるわけではない
認知症という言葉には、どうしても重い印象があります。
しかし、認知症になったからといって、その人の人生や人格がすべて失われるわけではありません。
好きだったこと
大切にしてきた習慣
安心できる場所
うれしいと感じる瞬間
人とのつながり
その人らしさ
それらは、認知症になっても残っていることがあります。
だからこそ、周囲が「もう分からないだろう」「何もできないだろう」と決めつけてしまうと、本人の力や希望を奪ってしまうことにもなります。
認知症への理解とは、単に症状を知ることだけではありません。
本人がどのような世界を生きているのかを想像し、その人らしさを大切にしながら関わることだと思います。
家族だけで抱え込まなくていい
もう一つ、最初にお伝えしたいことがあります。
認知症のことは、家族だけで抱え込まなくてよいということです。
「まだ介護認定を受けるほどではない」
「こんなことで相談していいのだろうか」
「家族の問題だから、自分たちで何とかしなければ」
そう考えて、相談が遅れてしまうことがあります。
しかし、認知症の不安は、早い段階で相談するほど選択肢が広がります。
地域包括支援センター、かかりつけ医、認知症疾患医療センター、認知症カフェ、家族会、介護サービスなど、本人と家族を支える仕組みは地域の中にあります。
大切なのは、困りきってから動くことではなく、「少し気になる」の段階で相談してみることです。
認知症を怖がるだけでなく、理解し、備える
認知症は、確かに不安なテーマです。
でも、怖がるだけでは、本人も家族も動けなくなってしまいます。
認知症を知ること
本人の世界を想像すること
責める前に、困りごととして見ること
できることを残すこと
地域とつながること
家族だけで抱え込まないこと
こうした一つひとつの積み重ねが、認知症になっても安心して暮らせる地域づくりにつながります。
この連載では、『認知症世界の歩き方』の考え方を手がかりにしながら、認知症の方が見ている世界、家族ができる対応、地域で支えるための視点を、50回に分けて考えていきます。
認知症を『怖いもの』だけで終わらせない。
本人の世界を知ることから、理解の旅を始めていきたいと思います。
今日の小さな一歩
身近な親や高齢の方に対して、
「最近、少し変わったな」
「同じことを何度も聞くようになったな」
と感じた時、すぐに責めたり否定したりするのではなく、
「何に困っているのだろう」
「どんな不安があるのだろう」
と、一度立ち止まって考えてみてください。
その視点の変化が、認知症理解の第一歩になります。
ご相談はお気軽に!!