第6回 「見えているのに、見つけられない」ってどういうこと?

第6回 「見えているのに、見つけられない」ってどういうこと?

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「あれ、メガネがない」

そう言いながら、テーブルの上を何度も探している。

でも、メガネは目の前に置いてある。


家族からすれば、

「そこにあるじゃない」

「目の前にあるよ」

と思うような場面です。

あるいは、「鍵がない」と言って家の中を何度も探している。

でも、鍵はいつもの場所に置いてある。

こうした場面に出会うと、周囲の人はつい、

「ちゃんと見て」

「さっきからそこにあるよ」

「どうして分からないの?」


と言いたくなるかもしれません。

でも、ここで少しだけ立ち止まって考えてみたいのです。


本人には、本当に私たちと同じように見えているのでしょうか?

「目に入っている」と「見つけられる」は同じではない

私たちは普段、「見えているのだから、分かるはず」と思っています。

けれども、物を見るという行為は、単に目に映すだけではありません。

たくさんの情報の中から必要なものに気づき、

「これはメガネだ」

「これは自分の鍵だ」

と認識し、目的のものとして見つける。

私たちは、こうしたことをほとんど意識せずに行っています。

認知症のある方の場合、このような情報の整理や認識が難しくなることがあります。

つまり、「目には入っているのに、探しているものとして気づけない。」

そんなことが起こる場合があるのです。

もし、自分だったらどう感じるでしょうか?
想像してみてください。

あなたは確かにここに置いたはずの鍵を探しています。

テーブルを見る。

棚を見る。

バッグの中を見る。

でも見つからない。

家族からは、「目の前にあるじゃない」と言われます。

もう一度見る。

それでも分からない。

さらに、「どうして分からないの?」と言われる。

もし自分だったら、どんな気持ちになるでしょうか?

「自分がおかしくなってしまったのだろうか?」

「どうして見つけられないんだろう...。」

「ちゃんと探しているのに...。」

そんな不安や焦りを感じるかもしれません。

場合によっては、恥ずかしさや苛立ちにつながることもあるでしょう。

周囲から見れば、「探し方が悪い人」に見える。

でも本人側から見れば、「見つけられずに困っている人」なのかもしれません。

これは、これまでこの連載で繰り返し考えてきた視点でもあります。

「もっとよく見て」では解決しないこともある

家族としては、「ほら、ここ」と教えてあげたくなります。

もちろん、それで本人が気づけることもあります。

でも、「ちゃんと見れば分かるでしょう」と繰り返すだけでは、うまくいかない場合もあります。

なぜなら、本人は「見ようとしていないのではなく、見つけにくい状態にある」可能性があるからです。

例えば、

テーブルの上にたくさんの物が置いてある。

模様の多いクロスの上に鍵が置いてある。

周囲にいろいろな色や形がある。

そんな状況では、探している物が周囲の情報に紛れてしまうことがあります。

私たちにとっては簡単な状況でも、本人にとっては、「どれを見ればいいのか分からない世界」になっているのかもしれません。

「探す力」を試すより、「見つけやすくする」

そこで、発想を少し変えてみます。

「本人が見つけられるかどうか?」を試すのではなく、「どうすれば見つけやすくなるだろう?」と考えてみるのです。

例えば、

いつも使う物の置き場所を決める。

テーブルの上をできるだけ整理する。

周囲とはっきり区別できる場所に置く。

一度にたくさんのことを伝えず、「ここにありますよ」とゆっくり示す。

本人と一緒に探す。

ほんの少し環境や伝え方を変えるだけで、本人自身が見つけられることもあります。

大切なのは、

「できないから代わりに全部やってしまう」ことでも、「できるまで何度もやらせる」ことでもありません。

本人ができる形を一緒に探していくことではないでしょうか?

私たちの「当たり前」が、本人にも当たり前とは限らない

今回のテーマは、「見えているのに、見つけられない」でした。

これは少し不思議に感じるかもしれません。

でも、「認知症世界の歩き方」を考えていくときに、とても大切なのは、

「私たちの当たり前を、そのまま本人の当たり前だと思わないこと」だと私は感じています。

「見えているんだから分かるはず」

「ここにあるんだから見つかるはず」

「さっき説明したんだから覚えているはず」

私たちは無意識のうちに、自分の世界を基準にして相手を見ています。

でも、本人が生きている世界から考えてみると、「なるほど、だから困っていたのか」と見え方が変わることがあります。

「どうして分からないの?」から「どう見えているんだろう?」へ

認知症のある方への関わりには、一つの正解があるわけではありません。

認知症の症状や困りごとの現れ方も、人によって違います。

だからこそ、「認知症だからこうだ」と決めつけるのではなく、「この人には、今この場面がどう見えているんだろう?」と想像してみる。

その問いを持つだけでも、私たちの言葉や関わり方は少し変わってくるのではないでしょうか?

「どうして見つけられないの?」ではなく、「どうすれば見つけやすくなるだろう?」へ。

相手を変えようとする前に、私たちの見方を少し変えてみる。

それも、認知症のある方とともに暮らしていくための大切な一歩なのだと思います。

次回は「時間が分からない世界」を旅してみます

私たちは毎日、


「あとで」

「さっき」

「明日」

「10時になったら」

と、時間を当たり前のように使っています。

でも、もしその「時間の感覚」が分かりにくくなったとしたら?

次回は、「時間が分からない世界」で暮らすということを一緒に考えてみたいと思います。

認知症世界の旅は、まだ続きます。

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