親の介護が進み、施設を考え始めると、多くの家族がまず見るのは、
「自宅から近いか?」
「月額はいくらか?」
「部屋はきれいか?」
「食事はおいしそうか?」
といったところではないでしょうか?
もちろん、どれも大切です。
しかし、施設選びで本当に難しいのは、「入居した時に良さそうかではなく、親の状態が変わった後も安心して暮らせるか?」を見極めることです。
入居時には歩けていた。
自分で食事もできた。
認知症もそれほど進んでいなかった。
ところが数年後、
歩けなくなった。
排泄介助が必要になった。
認知症が進んだ。
インスリンや服薬管理が必要になった。
入退院を繰り返すようになった。
この時に、「この状態では対応できません。」と言われて初めて、施設によってできることが大きく違うと気づくことがあります。
だから施設選びでは、「今の親に合っているかだけではなく、これからの親の介護状態にも対応できるか?」という視点が必要です。
今回は、施設選びで家族が見落としやすい7つの比較ポイントを整理していきます。
1.「24時間安心」ではなく、夜間に誰がいるのかを見る
施設のパンフレットを見ると、
「24時間安心」
「24時間見守り」
といった言葉を目にすることがあります。
しかし、大切なのはその言葉だけではありません。
確認したいのは、「夜間に実際にどのような体制になっているか?」です。
夜間に介護職員は何人いるのか?
看護職員は夜間もいるのか、それとも日中だけなのか?
夜間に転倒した場合はどう対応するのか?
発熱や呼吸状態の変化があった場合、誰が判断するのか?
夜間の排泄介助はどのように行われているのか?
一つの施設でも、昼間と夜間では職員体制が違います。
見学は昼間に行うことが多いため、家族は日中の雰囲気だけで判断しがちです。
しかし、高齢者の体調変化や転倒、排泄などは夜間にも起こります。
だから、「夜はどうなっていますか?」という質問は、施設見学でぜひ聞いておきたい質問です。
2.医療対応は「今」ではなく「将来」で考える
二つ目は、医療対応です。
親が入居する時には元気でも、高齢になれば医療的な支援が必要になる可能性があります。
たとえば、
インスリン注射。
服薬管理。
胃ろう。
在宅酸素。
吸引。
褥瘡の処置。
頻繁な通院。
こうした対応が必要になった時に、どこまで施設で対応できるのかを確認しておくことが大切です。
特に注意したいのは、「看護師がいる」=すべての医療行為に対応できるとは限らないことです。
看護職員がいる時間帯。
対応可能な医療行為。
協力医療機関。
夜間・休日の急変時対応。
通院が必要になった場合の付き添い。
入院した場合の居室の扱い。
なども確認しておく必要があります。
施設選びでは、「今の親なら入れるか?」だけでなく、「親の医療ニーズが増えた時に、どこまで暮らし続けられるか?」という質問をしてみてください。
3.認知症対応は「受入れ可能」だけで判断しない
三つ目は、認知症への対応です。
パンフレットに、「認知症対応可」と書いてあっても、それだけでは十分ではありません。
認知症といっても状態はさまざまです。
物忘れが中心の人。
何度も同じ質問をする人。
夜間に落ち着かなくなる人。
帰宅願望が強い人。
介護を拒否する人。
大きな声を出す人。
外へ出ようとする人。
症状や行動によって、施設側に求められる対応も変わります。
そこで確認したいのは、「認知症の人は入れますか?」だけではなく、
「認知症が進んだ場合、どのように対応していますか?」ということです。
さらに、
介護拒否がある場合。
夜間に落ち着かない場合。
食事を拒む場合。
入浴を嫌がる場合。
他の入居者とのトラブルが起きた場合。
こうした具体的なケースを聞いてみると、その施設の考え方が見えやすくなります。
大切なのは、「認知症を受け入れているかではなく、認知症の人にどう向き合っているか?」です。
4.月額料金ではなく「最終的に毎月いくらになるか?」を聞く
四つ目は費用です。
施設を比較するとき、多くの家族が月額利用料を見ます。
たとえば、
月額15万円。
月額20万円。
月額25万円。
この数字だけで比較してしまいがちです。
しかし、第31話でもお伝えしたように、介護のお金は「表示されている基本料金」だけではありません。
施設によっては、
介護保険の自己負担。
医療費。
薬代。
おむつなどの介護用品。
理美容費。
通院費。
通院付き添い費。
洗濯代。
日用品。
レクリエーション費。
追加の介護サービス。
などが別にかかることがあります。
そのため施設見学では、「月額はいくらですか?」だけではなく、「この状態の親が入居した場合、毎月の総額はだいたいいくらになりますか?」と聞いた方が現実的です。
さらに、
要介護度が上がったらどうなるか?
おむつが常時必要になったらどうなるか?
医療対応が増えたらどうなるか?
も確認しておきます。
入居時の費用だけではなく、「3年後、5年後にも払えるか?」という視点が大切です。
5.家族がどこまで対応しなければならないかを見る
五つ目は、意外に見落とされやすい「家族の負担」です。
施設に入れば、「これで家族の介護はすべて終わる。」と思うかもしれません。
しかし、施設によって家族に求められる役割は違います。
たとえば、
通院時の付き添い。
衣類や日用品の補充。
入退院時の対応。
病院とのやり取り。
薬の受取り。
季節ごとの衣類交換。
理美容。
重要な判断が必要な時の連絡。
こうしたことを、どこまで施設が対応し、どこから家族が行うのかは確認しておいた方がよいでしょう。
特に遠距離介護の場合、「通院時には必ず家族が来てください。」という施設では、入居後も仕事との両立が難しくなる可能性があります。
施設へ入居したからといって、家族の役割がゼロになるわけではありません。
だからこそ、「入居後、家族がしなければならないことを教えてください。」
と聞いておくことをおすすめします。
ワーキングケアラーにとっては、施設費用だけでなく、「入居後も仕事を続けられる施設か?」という視点がとても重要です。
6.「最期まで暮らせるか?」を確認する
六つ目は、看取りや終末期への対応です。
施設を探している段階では、「まだそこまで考えたくない。」という気持ちがあるかもしれません。
でも、高齢者の住まいを考える以上、避けて通れない問題です。
親が弱ってきた時。
食事が取れなくなった時。
寝たきりになった時。
頻繁に医療が必要になった時。
人生の最終段階を迎えた時。
その施設ではどのような対応になるのでしょうか?
施設内で看取りを行うのか?
病院への入院が基本になるのか?
本人や家族の希望をどのように確認するのか?
医師や訪問看護との連携はどうなっているのか?
こうしたことを事前に確認しておきます。
「看取り対応あり」という言葉だけでなく、「実際にはどのような流れで最期を支えているのか?」を聞くことが大切です。
最期まで暮らせると思って入居したのに、状態が変わった段階で別の場所を探さなければならなくなれば、本人にも家族にも大きな負担になります。
7.入居条件より「退去条件」を必ず確認する
七つ目は、今回特にお伝えしたいポイントです。
施設を探す家族は、「どうすれば入れるのか?」ばかり確認します。
しかし、本当に重要なのは、「どのような状態になると、ここでは暮らせなくなるのか?」です。
たとえば、
医療行為が増えた場合。
長期入院した場合。
認知症が進んだ場合。
他の入居者への影響が大きくなった場合。
施設側で対応できない医療処置が必要になった場合。
費用の支払いが難しくなった場合。
どのような時に退去や住み替えを検討することになるのか、契約前に確認します。
「原則として終身利用できます。」と説明されても、すべての状態に対応できるとは限りません。
だから、
「この施設から退去しなければならなくなるのは、どんな時ですか?」
と聞いてみてください。
少し聞きにくい質問ですが、とても大切です。
そして、口頭説明だけではなく、契約書や重要事項説明書でも確認しておくことが重要です。
見学では設備より「暮らしている人」を見る
施設見学へ行くと、
広いロビー。
きれいな居室。
豪華な食堂。
大浴場。
庭。
最新設備。
などに目が向きます。
もちろん、設備も大切です。
しかし私は、それ以上に見てほしいところがあります。
それは、「そこで暮らしている入居者と、働いている職員の様子」です。
入居者の表情はどうか?
職員は入居者にどのような声をかけているか?
職員同士に余裕がありそうか?
入居者を名前で呼んでいるか。
質問した時に、具体的に答えてくれるか?
廊下や共有スペースが落ち着いているか?
こうした部分には、パンフレットでは分からない施設の日常が表れます。
建物は見学のためにきれいにできます。
でも、「人と人との関わり方は、その施設の日常が出やすいところ」です。
「親本人を連れて見学する」意味は大きい
可能であれば、親本人にも施設を見てもらうことをおすすめします。
子どもが、「ここなら安心」と思う施設と、親が、「ここなら暮らしてもいい」と思う施設は同じとは限りません。
親が気にするのは、
部屋の日当たりかもしれません。
食事かもしれません。
職員との相性かもしれません。
自由に外出できることかもしれません。
お風呂かもしれません。
他の入居者の雰囲気かもしれません。
施設は、子どもにとっては「介護してもらう場所」ですが、
親にとっては、「これから毎日暮らす家」です。
だからこそ、本人が判断できるうちに見てもらうことには大きな意味があります。
施設は「一番良いところ」ではなく「親に合うところ」を探す
施設探しを始めると、
「評判が一番いいところ」
「口コミ評価が高いところ」
「高級なところ」
を探したくなることがあります。
でも、施設選びに絶対的な一位はありません。
医療対応を重視する人。
認知症ケアを重視する人。
自由な生活を重視する人。
食事を重視する人。
家族からの距離を重視する人。
費用を重視する人。
必要なものは家庭によって違います。
だから施設選びでは、最初に、「親にとって譲れない条件は何か?」
を3つくらい決めておくと比較しやすくなります。
すべての条件を満たす施設を探すより、「ここだけは譲れない。」という基準を持つことが大切です。
施設見学で聞きたい7つの質問
今回の7つのポイントを、実際の質問に変えてみましょう。
施設見学へ行ったら、次のように聞いてみてください。
1.夜間はどのような職員体制になっていますか?
2.親の医療ニーズが増えた場合、どこまで対応できますか?
3.認知症が進み、介護拒否や夜間の不安が強くなった場合はどう対応しますか?
4.基本料金以外も含めると、毎月どのくらいかかりますか?
5.入居後、家族が対応しなければならないことは何ですか?
6.看取りや終末期はどのように対応していますか?
7.どのような状態になった場合、退去や住み替えが必要になりますか?
この7つを聞くだけでも、パンフレットだけでは分からない施設の特徴がかなり見えてきます。
今やっておきたいことは3つ
一つ目は、施設を探す前に「親に必要な条件」を整理することです。
医療。
認知症対応。
費用。
家族からの距離。
生活の自由度。
その中から、特に重要な条件を決めます。
二つ目は、できれば複数の施設を比較することです。
一つだけ見ると、その施設が普通なのか特徴的なのか分かりません。
複数を見ることで、「ここは夜間体制が手厚い」「こちらは家族対応が少なくて済む」など違いが見えてきます。
三つ目は、契約前に「将来」と「退去」を確認することです。
入居できるかだけではなく、
親の介護度や医療ニーズが高くなった時にも暮らせるのか?
どんな状態になると住み替えが必要なのか?
ここまで確認しておきます。
施設選びで本当に大切なのは「入った後」を想像すること
施設選びで見落としやすい7つの比較ポイント。
それは、
夜間体制。
医療対応。
認知症対応。
実際にかかる総額。
家族の負担。
看取りへの対応。
退去条件。
です。
施設を探している時は、どうしても、
「早く入れるところ」
「家から近いところ」
「予算内のところ」
へ目が向きます。
特に退院期限が迫っている時には、家族に比較する余裕がないこともあります。
だからこそ、第39話でお伝えしたように、
「施設探しは、入居が必要になってから始めるのではなく、親がまだ元気なうちから情報を集めておく」ことに意味があります。
そして施設を選ぶ時には、「今の親を受け入れてくれるか?」だけでなく、「3年後、5年後に状態が変わった親も、ここで安心して暮らせそうか?」
という視点を持ってみてください。
施設は、単に介護サービスを受ける場所ではありません。
親にとっては、新しい生活の場所です。
だからこそ、
建物の豪華さではなく、暮らしを見る。
表示された料金だけではなく、総額を見る。
入居条件だけではなく、退去条件を見る。
今だけではなく、将来を見る。
この視点が、親にも家族にも納得できる施設選びにつながります。
第41話では、「親に終活の話を切り出せない人へ。最初の一言はこれ」
というテーマで、親を不快にさせにくく、「死の準備」ではなく「これからの安心」の話として終活を始めるための具体的な会話方法を整理していきます。
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