親の介護と仕事の両立を考えるとき、多くの人はまず「辞めない方法」を考えます。それはもちろん大切です。
でも、これからの時代は、それだけでは少し足りないかもしれません。
なぜなら、親の介護が始まると、退職までいかなくても、
残業が減る、
責任の重い仕事を受けにくくなる、
役職を辞する、
評価につながる動きがしにくくなる、
という形で、本業の収入や働き方が静かに揺れやすいからです。
経済産業省は、2030年には仕事をしながら家族介護を担う人が約318万人に上り、経済損失は約9.1兆円になると試算しています。
そこで出てくるのが、複業準備という発想です。
ここで言う複業準備とは、いきなり大きく稼ぐことではありません。
本業以外にも、小さな収入源、経験源、人とのつながりを少しずつ育てておくこと。
それが、介護時代の人生防衛になるのか。
私は、やり方を間違えなければ、十分なり得ると思っています。
いま複業(副業)・兼業は、珍しい働き方ではなくなってきている
総務省の令和4年就業構造基本調査では、非農林業従事者のうち副業がある人は304.9万人で、5年前より59.8万人増えました。
副業者比率は4.8%で、5年前より0.9ポイント上昇しています。
つまり、本業以外にもう一つ仕事を持つこと自体は、すでに一部の特殊な人だけのものではなくなってきています。
厚生労働省も、副業・兼業について、令和4年改定のガイドラインの中で、多様なキャリア形成を促進する観点から位置づけています。つまり制度の側でも、「一つの会社だけにキャリアを閉じない」という考え方は、以前より現実的なものになっています。
介護時代に複業準備が意味を持つのは、「辞める前」に揺れが来るから
ここが一番大事です。
親の介護で本当に多いのは、いきなり退職ではありません。
むしろ先に起きやすいのは、
残業ができない、
急な出張を断る、
役職や案件を調整する、
有休が親対応で消える、
という形の、小さな働き方の変化です。
そして、その小さな変化が続くと、月収、賞与、昇進、評価、将来の収入見通しにじわじわ効いてきます。
だからこそ、本業一本だけに家計も自尊心も寄せすぎていると、親のことで揺れた時にダメージが大きくなりやすいのです。
複業準備の意味は、ここにあります。
本業以外に、たとえ小さくても、
収入の入口がある、
人との接点がある、
自分の価値を出せる場がある。
この状態は、介護で本業が揺れた時の心理的・経済的なクッションになりやすいのです。
ただし、複業は「収入アップ策」ではなく「選択肢づくり」として考えた方がいい
ここは誤解されやすいところです。
複業準備というと、すぐに「副収入で月何万円」といった話になりがちです。
でも、介護時代に本当に意味があるのは、短期の金額競争より、選択肢づくりです。
たとえば、
自分の経験を活かして小さな相談を受ける。
文章や資料作成の力を別の場で試しておく。
教える、伝える、まとめる仕事を少しやってみる。
地域やオンラインで、ゆるく仕事につながる関係を持っておく。
こうしたことは、今すぐ大きなお金にならなくても、親のことで本業の比重を少し下げたいとき、役職を降りたあとに自分の軸を失わないため、再雇用後の収入減を埋める準備、
としてじわじわ効いてきます。
つまり複業準備は、「今の会社を辞めるため」ではなく、今の会社だけに人生を預けすぎないための準備として考えた方が現実的です。
会社のルール確認と健康管理を無視した複業は、逆に危ない
一方で、複業準備には注意点もあります。
厚生労働省のガイドラインでは、副業・兼業を始める前に、就業規則や労働契約の内容を確認すること、必要に応じて会社へ届け出ることが必要だとされています。
さらに、副業・兼業には「所得が増加する」などのメリットがある一方で、就業時間が長くなる可能性があり、健康管理が必要であること、場合によっては雇用保険等の適用がないことがあるとも示されています。
また同じガイドラインでは、副業・兼業を進める上で、過重労働を防止し、健康確保を図ることが重要だとも明記されています。
つまり、介護時代の人生防衛になるからといって、
睡眠を削ってまでやる、
本業に支障が出るほど抱える、
親のことが始まってから慌てて詰め込む、
というやり方は逆効果です。
複業準備は、無理して増やすことではなく、小さく育てておくことが大切です。
向いている複業準備と、向きにくい複業準備がある
介護時代の複業準備で向いているのは、
時間や場所の融通が利きやすいもの、
自分の経験を活かしやすいもの、
少し止まっても再開しやすいもの、
です。
逆に向きにくいのは、
固定の拘束時間が重いもの、
本業と同じくらい強い責任を抱えるもの、
親のことで一時停止したときに信頼を一気に失いやすいもの、
です。
たとえば、介護が始まると、急な通院付き添いや家族連絡が入ることがあります。
そのとき、複業側まで『絶対に外せない予定』で埋めてしまうと、本業と介護の板挟みにさらに複業まで加わってしまいます。
そうなると、防衛どころか、三重苦になります。
だから、複業準備は「何をやるか」より前に、どんな条件なら続けやすいかを先に考えた方がいいのです。
たとえば、こんな複業準備なら人生防衛になりやすい
たとえば50歳の会社員の方がいるとします。
親は75歳前後。まだ大きな介護は始まっていないけれど、今後は分からない。
本業は続けたいが、将来、残業や役職を手放す場面が来るかもしれない。
この方が今からできる複業準備は、いきなり大きく稼ぐことではありません。
むしろ、まずは
自分の経験の棚卸しをする、
人に提供できることを言葉にする、
月1回でも小さく試してみる、
会社外のゆるいつながりを持つ、
くらいで十分です。
この状態があるだけで、「本業が揺れたら終わり」ではなく、「少し調整しても別の柱を育てられるかもしれない」という見え方に変わります。
人生防衛として大きいのは、実はこの『見え方の変化』です。
だから、複業準備は「介護が始まってから」ではなく、その前にやる意味がある
ここでも、親の介護準備と考え方は同じです。
介護が始まってから副収入をつくろうとしても、多くの人は時間も気力も足りません。仕事を守るだけで精一杯になりやすいからです。
だから、複業準備が人生防衛になるのは、介護が始まる前に、まだ少し余白がある時期にやるからです。
親70歳・子45歳前後。
親75歳・子50歳へ向かう前。
この時期に、
親の情報整理を始めるのと同じように、自分の働き方の第二軸も少しずつつくっておく。それが、あとから効いてくる準備になります。
今やっておきたいことは3つ
1.複業を「稼ぐ話」だけでなく「選択肢を増やす話」として考える
月いくらより先に、何を持っていると安心かを考えることが大切です。
2.会社のルールと自分の健康を先に確認する
副業・兼業は、就業規則や労働契約の確認、健康管理が前提です。無理な増やし方は防衛になりません。
3.親の介護準備とセットで考える
親のことで本業が揺れた時に備えるのが、複業準備の本当の意味です。ワーキングケアラーは今後さらに増える見込みです。
まとめ
複業準備は、介護時代の人生防衛になり得ます。
ただし、それは「本業の代わりに一気に稼ぐ方法」としてではありません。
本業が親のことで揺れたときに、収入、経験、人とのつながり、自尊心を、
一つの会社だけに預けすぎないための準備として意味があります。
だからこそ、複業準備は、無理して増やすことではなく、
小さく育てること。
介護が始まってからではなく、その前に始めること。
この2つが大切です。
第19話では、
「介護が始まると転職活動はどう難しくなるのか」
というテーマで、親のことで時間と判断力が削られる中、転職や再就職がなぜ厳しくなりやすいのかを掘り下げていきます。
まずは、親に何を・どの順番で・どう話せばよいかを一緒に整理してみませんか?
ご相談お待ちしております!!