好きでいるだけで、こんなに苦しいんだ

好きでいるだけで、こんなに苦しいんだ

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コラム
校舎を出ると、
空はもうほとんど夜に近づいていた。

街灯の明かりが、
まだ頼りなく足元を照らしている。

凪と悠真は、並んで歩いていた。
けれど、どこか昨日より距離がある。

「……寒くなってきたね」

悠真が、前を向いたまま言う。

「うん」

凪は短く答えた。

それ以上、言葉が続かない。

(昨日より、話してないかも)

そう気づいた瞬間、
胸の奥がきゅっと縮む。

沈黙が長くなるほど、
何か言わなきゃいけない気がして、
でも何を言えばいいのかわからない。

信号待ちで立ち止まったとき、
悠真がポケットに手を入れた。

スマホが震える。

凪は、見てはいけないと思いながらも、
視線を逸らせなかった。

悠真は画面をちらっと見て、
すぐに伏せる。

(……誰からだろう)

その一瞬が、
凪の心を大きく揺らす。

「……ごめん」

悠真が、少し気まずそうに言った。

「急ぎじゃないから」

凪は反射的に首を振る。

「ううん。大丈夫」

本当は、全然大丈夫じゃない。

でも、
“聞かない”ことを選んでしまう。

信号が青に変わり、
二人は再び歩き出す。

(私が聞いたら、重いよね)

そんな考えが、
凪の中で何度も回る。

別れ道が近づくにつれて、
胸の奥がざわざわしてくる。

(このまま、何も言わずに終わるのかな)

そう思ったとき、
悠真が足を止めた。

「……凪」

名前を呼ばれて、
心臓が跳ねる。

「最近さ」

悠真は少し言いよどむ。

「ちゃんと話せてない気がして」

その言葉に、
凪の胸が熱くなる。

気づいてたんだ。

「……私も」

凪は小さく答えた。

でも、その先が続かない。

“どうして”も
“なにが”も
言葉にできない。

悠真は、何か言おうとして、
結局、言葉を飲み込んだ。

「……また、話そう」

その約束が、
希望なのか、
先延ばしなのか。

凪には、まだ判断できなかった。

「うん」

そう返すのが、精一杯だった。

悠真が去っていく背中を見送りながら、
凪はその場に立ち尽くす。

(好きでいるだけで、こんなに苦しいんだ)

空から、
小さな雪が、また一粒、落ちてきた。

それはすぐに溶けて、
形を残さない。

それでも、
凪の胸の奥には、
確かに冷たさだけが残っていた。
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