“あんな奴”より、俺がおまえを守る
記事
コラム
翌朝、教室の空気はいつもと違っていた。
ざわついている。
明らかに“誰かの話”をしている気配。
凪が教室に足を踏み入れた瞬間、
クラス中の視線が一斉に集まった。
(……え?)
ざわ…ざわ……
「ねぇ、あれ、ほんと?」
「凪ってさ、昨日、告白されたんだって」
「相手、あの人気の三條くんらしいよ」
「しかも凪が泣いてたの、
アイツのせいじゃなくて、
嬉し泣きだったとか?」
(……ちが……)
全部、違う。
でも否定する言葉が、
喉に詰まって出てこない。
そこへ、当の本人――
学校一の人気者
三條 輝(しょうじょう ひかる) が
凪の前に現れる。
「凪、昨日の話……ちゃんと返事、
聞かせてほしいんだ」
クラス中が固まった。
(昨日の話……? え、返事?)
全員の視線が凪に突き刺さる。
凪は混乱したまま、
か細い声で言った。
「ちょ、ちょっと待って……
何の話……?」
三條は一歩近づき、
声を落とす。
「人前じゃ言いにくいか。……
でも俺は本気だよ。
“あんな奴”より、俺がおまえを守る。
泣かせたりしない」
その言葉に――
教室の空気が一瞬で凍った。
(あんな……奴……?)
その瞬間、誰よりも先に動いたのは――
悠真だった。
「……三條」
声は低く、冷たく、
教室全体を静かに震わせた。
全員が一斉に振り返る。
悠真の表情は、
いつもの柔らかさは欠片もなく、
ただ一つの感情がにじみ出ていた。
怒り。
そして、凪を守ろうとする意志。
三條は挑発するように笑った。
「お前が泣かせたんだろ?
少なくとも、周りはそう思ってる」
「勝手に決めつけるな」
悠真の声が教室中に響く。
凪は、胸がぎゅっと締めつけられた。
(違う……悠真は悪くない……
私が何も言えなかっただけ……)
でも声が出ない。
クラスの女子たちの視線が集まる。
「なんで凪なの?」
「三條くんに告られるなんてムカつく」
「絶対嘘でしょ」
「あの子、調子に乗ってる」
小さく囁く声の刃が、
凪を切り裂いていく。
凪の視界が滲む。
そこへ、
悠真が凪の前に一歩進み出た。
凪とクラス全体の間に立って、
彼女を覆うように。
「……凪を悪者みたいに言うなよ」
教室が静まり返る。
悠真は、一度だけ凪の方を見た。
その瞳には――
悔しさと、
守りたい気持ちがあふれていた。
(三條くんの話も、噂も……
ぜんぶ、私のせいで……)
凪の胸が揺れる。
(私は……
どうすればよかったの……?
どうすれば……悠真を、
守れたの……?)
三條は悠真を睨み返す。
「凪が泣いてたのは事実だろ?」
「泣かせたのは俺じゃない。
……泣かせたのは、噂だよ」
その瞬間――
何人かの生徒が息を飲んだ。
三條が言葉を失う。
凪も、心が揺れる。
悠真は、凪の方へだけ向き直り、
そっと言った。
「……凪、大丈夫。俺がいるから」
その言葉は、
教室中の視線を浴びてもなお、
凪の心にだけ静かに届いた。
そして凪はようやく、
震える声を絞り出した。
「……ごめん……私、みんなの前で、
なんにも言えなくて……」
悠真は首を振った。
「謝らなくていい。
凪は悪くない。……本当に」
凪の胸の奥で、
何かがほどける音がした。
でも同時に――
凪の心に恐怖が芽生える。
(私……居場所、
なくなるかもしれない)
そして凪は気づく。
「このままじゃ、
悠真まで巻き込んでしまう」
凪は、どうするのか?
三條は、なぜ凪に急に告白したのか?
クラスの女子は、今後どう動くのか?
そして――
悠真は、凪をどこまで守る覚悟なのか。
物語は、さらに深く揺れ始める。