“また明日”って言える今日が、 もしかしたら最後かもしれない―― そんな気がしたんだ。

“また明日”って言える今日が、 もしかしたら最後かもしれない―― そんな気がしたんだ。

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コラム
ほんの数秒だったと思う。
でも、永遠みたいに長く感じた。

視線がぶつかって、時間が止まる。
校舎の影も、吹き抜ける風の音も、
ぜんぶ遠くへ引いていった。

残ったのは、
彼女の瞳に映る、僕だけの世界。

「……なに?」
彼女が小さく笑う。

その声が風に溶けて、心臓の奥を撫でた。

「いや……なんでもない」

言葉にすると壊れてしまいそうで、
ただ首を横に振ることしかできなかった。

でもきっと、彼女はもう分かっていた。
僕の中で、何かが始まってしまったことを。

夕陽がゆっくり沈んでいく。

空の色が金から橙、そして薄紅へと変わるたび、
彼女の表情も少しずつやわらいでいった。

「……ねぇ」
「ん?」

「この時間、終わらなければいいのにね」

その言葉が、
あの日の風よりもまっすぐに、胸を貫いた。

言葉を交わさなくても、
もう“好き”ってことだけは、ちゃんと伝わっていた。

彼女が笑って、僕も笑った。

たったそれだけのことなのに、
胸の奥が、なぜかひどく痛かった。

目の前の彼女は、いつもと同じように笑っていた。
でも――その笑顔の奥に、
ほんの少しだけ“寂しさの色”が混ざっていた。

風が吹くたび、
髪が揺れて、光がその瞳をかすめていく。

そのたびに僕は、
笑い返すことすらためらうほど、
心が波のように揺れた。

こんなに近くにいるのに、
もう、触れられない気がした。

「……どうしたの?」
彼女が首をかしげて聞いた。

その声がやさしすぎて、
答えようとした言葉が、すぐ喉の奥で消えた。

「いや……なんでもない」
そう言った自分の声が、少し震えていた。

本当は、わかっていた。
“なんでもない” なんて嘘だった。

あの笑顔の奥に、
もう帰れない時間の匂いがした。

“また明日”って言える今日が、
もしかしたら最後かもしれない――
そんな気がしたんだ。

彼女は、ふと空を見上げた。

空は、もう夕焼けから夜の色に変わりかけていて、
残りの光だけが二人を包んでいた。

「……ねぇ、ありがとう」
その一言が、風に溶けるように消えた。

僕は笑った。

でも、笑いながら、
心のどこかで「さよなら」を受け止めていた。

笑顔の中にあった“さよなら”は、
涙より静かで、痛みより優しかった。

次の風が吹いたとき、
二人の髪が、ほんの一瞬だけ触れた。

それだけで、世界が止まった気がした。
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