「役立たずめ!」
円卓に怒声が飛び交った。
「人間どもの“優しさ”ごときに押され、力を失っただと?」
「笑わせるな! 悪魔の恥さらしめ!」
悪徳裁判官はうつむいたまま、唇を噛みしめる。
その姿を、最上位の悪魔の冷たい視線が射抜いていた。
「……しかし、まだ方法は……」
声を振り絞る裁判官の言葉は、別の悪魔に遮られた。
「黙れ!」
不安の番人が机を叩く。
「もっと“恐怖”を流せばよかったのだ! 数字を並べ、見出しを暗く塗れば、人間どもは勝手に震え上がる!」
期待する観客が鼻で笑った。
「甘いな。不安などすぐに慣れる。だが“他人の視線”は永遠に逃げられぬ。
SNSに縛りつけ、比べさせ、心を削り取るのだ!」
「ふん、比べる余裕があるうちはまだ甘い!」
不安の番人が反撃する。
「未来を真っ黒に塗りつぶして、歩みを止めさせる方が早い!」
「未来など曖昧だ!」
観客が嘲笑う。
「だが“今すぐの比較”は容赦がない。“なぜお前だけできない”──
これほど人間を追い詰める言葉はない!」
円卓は怒鳴り声で揺れ、罵声と嘲笑が入り乱れる。
そのとき、沈黙の証人がただ冷ややかに見つめていた。
言葉を発さず、視線だけで場を凍りつかせる。
耐えきれなくなった裁判官が叫んだ。
「そうだ、人間は沈黙に弱い!
会議で誰も発言しないときの、あの気まずさ!
家庭の食卓で、食器の音だけが響く夜の重さ!
そして学校の授業だ! 先生の問いかけに誰も手を挙げず、ただ時間だけが過ぎていくあの沈黙!
あれこそ、人間の心を確実に削る最高の毒だ!」
「ハハハ!」
不安の番人が腹を抱えて笑う。
「わかるわかる! その空気にいるだけで“責められている”と勝手に震えるのだからな!」
期待する観客もニヤリと続ける。
「全員が同じ不安を抱えているのに、誰も言い出せない──人間はほんと滑稽だ!」
広間に嘲笑が渦巻いた。恐ろしいはずなのに、どこか奇妙に“可笑しみ”すら混じっている。
その笑いを、最上位の悪魔の声が切り裂いた。
「……黙れ」
場は一瞬にして静まり返る。
「お前たちの策はどれも有効だ。だがまずは“不安”から始めよ。
不安の番人を人間界へ送り込むのだ」
地の底に、再び低い笑い声がこだました。