朝の陽ざしがじわりと強まってきた、ある夏の日。
奈央さんは、少し早起きして近所を歩いていました。
「朝の空気がいちばん気持ちいいから、ね」
そう言って笑いながら、
木陰のある道を選んで、日差しを避けながらのんびりと歩きます。
時おり吹く風が、肌をすっとなでていき、少しだけホッとできる時間。
そんなとき、
とあるアパートの前で、ふと足が止まりました。
車の下に、猫が2匹。
涼しい日陰を見つけて、気持ちよさそうにくつろいでいる様子。
きょうだいなのか、体を寄せて、毛づくろいをしあっていました。
「……かわいいなぁ」
奈央さんはしゃがみこんで、そっと眺めます。
猫たちは一瞬こちらを見ましたが、
すぐにまたお互いの毛をなめることに集中しはじめました。
「何も求めず、ただそばにいるだけで、癒されるってこういうことなんだよね…」
そうつぶやきながら歩き出したそのとき、
向かいから歩いてきた男性に、目が留まりました。
彼の肩には、なんと――フクロウが2羽。
まるで映画のワンシーンのように、静かに、堂々と、そこにいるのです。
「……え?」
思わず声が出た奈央さんに、その男性はにっこりと笑って、
「親子なんです」と一言だけ、やさしく伝えてくれました。
くりくりとした目で、
フクロウたちは静かに世界を見ていました。
その姿を見て、奈央さんはふと、
自分の中にあった「つっかえ」が、少しほどけたように感じたのです。
最近、ちょっと落ち込むことがあって、
つい誰かのせいにしたくなったり、
完璧じゃない自分にがっかりしたりしていたけれど――
「それでも、今日の私はここにいて、
こんなにも素敵な光景に出会えてるんだもんね」
そう思ったとき、
自分に、やさしいまなざしを向けられた気がしました。
「完璧じゃない私を連れて、小さな旅に出よう。」
「今のわたしも、悪くないかも」
そう思えた瞬間から、
奈央さんの心に、小さな旅心が芽生えました。
自然のある場所へ、
何かを頑張らなくていい空間へ、
ただ風にふかれて、自分をゆるめに行く旅。
完璧じゃないままでも、
ちょっと疲れていても、
旅に出ていいんだ。
そして、
そんな旅こそが、
「今のわたしにぴったりのご褒美」になるのかもしれません。