第14話 お姉さんにご報告?
あの日の朝、碧斗《あおと》くんは、困らない時間に私を起してくれて、手際よく作ってくれた朝ごはんに、洗い物、さらには車で会社まで送ってくれるという手厚い待遇を受けての出社。
会社の前まで送ってくれたから、同僚たちにちょうどよく見られてしまい、あのイケメンはなんだと軽い騒ぎに。
説明できる関係でもないから、親友の弟ってことで、話しは通したけれど、彼女はいるのか、出会いを探している感じはないかと、質問攻めにされるはめに…。
いつも以上に疲れた足を引きずって、さあ、帰ろうというタイミングで、碧斗《あおと》くんから電話があり、ちょうど帰宅時間が一緒だということで、碧斗《あおと》くんの運転で帰って。
先にお風呂を入らせてもらい、その間に夕ご飯の支度を終えてくれていて、一緒に並んで食べて、碧斗《あおと》くんがお風呂に入っているうちに、また寝落ちしちゃって…、ベッドまで運んでもらう、という生活を。
なんと、2週間も過ごしてしまったのです…!
至りつくせりで、わたし、なにもしてない‼という雄たけびをあげたくなった金曜日の就業終わり。
ちょうどよく鳴った着信は、碧斗《あおと》くんではなく、朱音《あかね》だった。
「茉由《まゆ》、仕事終わった?飲み行こ!今日は碧斗《あおと》いないでしょ?琉生《るい》に捕まってるから」
「え?あ、そうなの?」
「茉由《まゆ》のこと独占して邪魔だったから、琉生《るい》に頼んだの!ゆっくりお話ししよ!あとで迎えに来てもらえばいいし、いつものところでいいかな?」
「オッケー!すぐに向かうね!」
「私もちょうど今から出るところから、お店の前で落ち合そう」
「了解!楽しみにしてるね」
朱音《あかね》との電話を切ると、碧斗《あおと》くんから連絡が入ってた。
”必ず迎えにいくから、待っててね”
碧斗《あおと》くんは、ほんとにまめです。
お店の前に行くと、朱音《あかね》もすぐ来たばかりみたい。
「電話で予約とったからそのまま入れると思う」
「ありがとう!」
碧斗《あおと》くんのまめなところは、朱音《あかね》譲りだね。
スムーズに個室席まで通してもらい、いつもと同じ最初のドリンクを頼んだら、やっと一息。
上着を脱いで、肩の力も抜くことできた。
「お疲れ様ー!どう?碧斗《あおと》との生活は」
「もう、いたりつくせりで申し訳なくなってくるよ」
「手は出されてないの?」
「朱音《あかね》に見られた未遂以外は、ありません…」
「へえー…珍しい」
「って、碧斗《あおと》くんのことなんだと思ってるの?女除けのための同居じゃないっけ?」
「あの子、彼女はいらない、面倒ってだけで、遊びの女はいたはずなのよ。性欲はそれなりにあるから」
「…姉にそんな事情を知られている弟って…」
「ちゃんと管理しないと危ない物件じゃない。問題起こしたら困るから、管理人やってるのよ」
「なんとも例えが…」
確かに、碧斗《あおと》くん自身が気をつけていても、女性の方が厄介とかで、一緒にマンションに入っていく姿を睨んでみている女性が、日によって違ったりあったけども…。
私の方には実害出てないし、碧斗《あおと》くんも、気にした様子がなかったから、慣れているのかな。
「女性の連れ込みや遭遇はなかったの?」
「え?うん、全くなかったよ。私の方が寝落ちしちゃうから、夜のことはわかっていないけど、起きるほどの物音は聴いてないから」
「そかそか。安心して寝られてる?」
「やばいぐらいだよ。ここ2週間、寝落ち繰り返しちゃってて。そこまで疲れてたのかなって自覚なかった…」
「…今だから言えるけど、あのときの茉由《まゆ》のくま、相当やばかったからね。茉由《まゆ》は自分に鈍感なところあるし、我慢強いし。でも、無茶に慣れているわけじゃないから。碧斗《あおと》を上手く使えてよかった」
「そうだったんだ…」
自分だと、全然気づかなかった。
朱音《あかね》に報告した後は、おつまみとお酒をいただきながら、会社の愚痴や先輩たちのアラサー女性の生き方講座を受けた話や、琉生《るい》くんとののろけ(結婚したいアピールがすごいみたい。既成事実なんて言い出しているらしく)や、碧斗《あおと》くんの過去の女性をちょろっと。
それが原因で、もう彼女とかめんどうくせーとかなったらしいんだけど、詳しい詳細は聴けず…。
ずきずきと音を立てる胸を無視して飲んだ結果、私の記憶は遠のきました。
「姉ちゃん…、飲ませすぎないでよ。なに考えてんの」
珍しく私に怒った顔を向ける碧斗《あおと》に、悪気はなかったと合図する。
「茉由《まゆ》の回りが、今日は早かったの。注意しながら見てたんだけど、茉由《まゆ》、顔に出さないところがあるから…」
碧斗《あおと》の元カノ話の当たりで、お酒のペースがちょっと乱れた気がしたけど、ここまで影響するとは…。
茉由《まゆ》は自覚しているのか、まだそっとしておくべきか…。
「碧斗《あおと》と住んで、だいぶ顔色良くなったね。あんたも手を出さずに待っててえらい」
「だって。まだ引っ越し完了してないから。逃げられたら困るじゃん」
「……」
(策略家め)
「茉由《まゆ》さんの体調も落ちいてきたから、そろそろ本格的に引っ越しについて話をしたんだけど…」
「慎重に様子を見ているってところね」
「まあね。無理させたくないし、あそこに一度は行かないといけないって、嫌な気持ちは嫌だと思うから。焦らず行きたいけども…」
茉由《まゆ》の寝顔を他の人が見ないように、優しく自分の方に向けて、包み込むように抱き上げている、その優しい目は、真剣に恋をしている目。
姉として、弟にいい出会いをもたらした自分を感謝したい。
そして、散々遊んでいた碧斗《あおと》でも、本命は大事にするとわかっているから、今、ちゃんとしてくれているなら、それでいい。信じてるからね。
「姉ちゃんの方も、頑張ってね。そろそろ覚悟決めないと、琉生《るい》さん本気だから」
「うん、うん…わかってる、ありがとう」
碧斗《あおと》の後ろで、じっと大人しくしている大型犬のあの、ギラギラした雄の目を、私が見ていないわけないでしょう。
「じゃ、また茉由《まゆ》さんのことで連絡するから」
「うん、ありがとう、気を付けて帰ってね」
琉生《るい》と碧斗《あおと》は、私たちの迎えがあるから、今日はジムで鍛えデーだった。
しかも、ジムで絞ってきた後の琉生《るい》の性欲は、なんの刺激を受けるのか元気びんびんで…。
碧斗《あおと》が去った後の琉生《るい》は、満面の笑みで私の前に立ちふさがる。
「朱音《あかね》、ご褒美」
「…はい」
茉由《まゆ》、お互いに愛される恋愛は幸せだよね…。