「仕事、大変ですか?」
そう聞かれたら、どんな返事をするでしょうか
何か言葉が浮かびましたか?
今思いついた言葉は、たまたま、でしょうか。
それとも常に出る言葉、でしょうか
*偶然居合わせた、営業さん*
数年前の話です。たまたま居合わせて
男性と世間話をするような機会がありました。
雰囲気としては待合でのちょっとした会話という感じで、お互いその場を離れれば、二度と会うこともないような状態です。
男性が営業のお仕事をされていると知った私は
「営業ですか、大変ですよね」と何の気なしに言いました。
「そうですねぇ」とか「どんな仕事も大変ですけどね」とかそんな返事で場が流れていくかと思ったのですが、その人は違いました。
その男性は笑って
「大変なこともありますけど、
僕はこの仕事好きですね」と言った後
「お仕事、大変なんですか?」と聞き返してきたんです。
そんな返しがくると思っていなかった私は一瞬固まりました。まさか逆に聞き返されるとは。
でも実は、その時私が疲れてたんですね。
営業ではありませんでしたが、納期に追われる仕事がしんどくて。
ドキリとしたけど、説明するのも面倒くさい。
咄嗟に「そうですねぇ」と苦笑いした私に、
男性は あれこれ聞くこともなく頷いて
「仕事でテンションが下がった時に、
僕がしていることなんですけどね」
と会話を続けてこられました。
「仕事関係で使う道具を、ちょっといい物にするんです。自分が気に入った、少し高価なものがお勧めです。」
男性は、最初にちょっといい万年筆を買ったそう。それで仕事がうまくいけば、ご褒美に少し高価な物を買う。
そうやって、道具に釣り合う自分になっていったそう。(最近買ったちょっと良いものは、腕時計だと言われていました)
そんな話をしているうちに時間がきて、
その男性との立ち話も終わったんですが
妙に心に残って、時々、この営業さんを思い出します。
*利益はないのに、してくれた提案*
男性は多分20代半ばくらいで、何十年も仕事をしているベテランという訳ではなさそうでした
きっと営業の経験自体は浅い。
それでも、会話の流れはとても自然に、彼が掴んでいました。今思えばですが、彼は常に
仕事とは関係ないオフの時間でも、初対面の人と会話をする練習をしていたんじゃないかと思うんです。相手の出方や心の動きを読み、自然に何かを提案する練習。
私が「仕事に疲れてるけど、詳しくは言いたくない状態」と気づき、詳しく聞かない。その代わりとてもライトに、状態を良くする提案をしてみる。
何より押しつけがましさや、
知識の披露の様な偉ぶった感じがなく、
「なるほどなぁ」と素直に耳を傾けられるような自然な提案の仕方だったんですね。
その男性と話をした後、私は自分のデスク周りを片付けました。とりあえず、手軽に環境を変えてみようと思ったんです。
そしたら、本当に仕事への憂鬱な気分が減ったように感じました。
ちょっと仕事を頑張って、頑張れたなと思ったら前からいいなと思っていた、ちょっと高価なサンキャッチャーを買いました。
疲れた時にふと見ると、太陽の光を反射して
キラキラ光を飛ばしているんですね。とても綺麗。仕事の合間に、本当に癒されました。
お気に入りの癒しとなったサンキャッチャーですが、その営業さんとの会話がなければ、きっと買わなかったと思います。(当然ですが、営業さんの仕事とは全然関係ないです。どんな仕事の営業さんかも知らない…)
たまたま居合わせただけの方なので
「良いこと教えて頂けて、仕事の意欲があがりました」と報告することもできませんが。
その営業さんのトークは、本人だけでなく、
会話した相手もぐいっと引き上げてくれるような純度の高いトークだったなと思います。
あれから数年。彼はどんな風に
仕事をこなしているんでしょうか。
なんとなく今も
「大変なこともあるけど、僕は好きですね」
と言いながら、お仕事されているような気がしています。