ドイツ語翻訳裏話⑤~なぜかヘレン・ケラー降臨~

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コラム
前回、ドラえもんが翻訳コンニャクを出してくれなかったので、ウソをついて時間稼ぎをするという姑息な手段に出たbo!
ドイツ語風スイス方言によるラジオ番組の聞き取り翻訳のお仕事は完了するのだろうか?!

このお仕事で最大の山場は、やはり、タイタニックの船内で避難が始まってからの部分でした。
傘のエピソードで、あらかたの発言とその内容が分かってきており、パターンや癖などが見えてきたため、その後の作業はずっと楽になりました。
二日の間、集中的して、気持ち的にも余裕をもって取り組んでみたら、案外思っていたほどではなかったので安心しました。

だがそこへ、私は不可思議な一文と出会うのです。
この一文は、今だ解決していない謎のまま。
依頼者Y様にはその旨、お伝えしました。

船室で休んでいたところ、客室乗務員がやってきた。そして、貴重品を持って避難してください、と言われた。
エマさんとマダムは同じ部屋、Bの35というお部屋に泊まっていました。
二人で急いで着替えて、とりあえず、マダムの愛人とその秘書が泊っている部屋、Bの84の部屋へ向かった・・・・。

(男二人が着替えている間)、haben wir Zimmer-Flucht von Mr.Astor (アークルアケ→謎)と聞こえるんです。
動画でちょうど5分くらいのところです。

これは、ひっかけ問題だと言っていい。
私も危うく引っかかるところだった。
英語字幕を付けた人も、ばっちり引っかかっている。

だけど、これ、私がこのひっかけ問題にギリギリ引っかからなかったのは・・・依頼者さんの情報が事前に手元にあったから、ですね。
どうもありがとう。

こういうことなんです。

Flucht・・・Die Flucht ohne Ende
ドイツ系作家のヨーゼフ・ロートの「果てしなき逃走」。タイトルは知ってるけど、読んだことない。
基本的に戦争モノ嫌い。。。だけど、ドイツ文学としては結構有名な作品です。
このタイトルからも分かるように、Fluchtは、逃走、逃亡という意味があります。

このタイタニックの状況です。普通に聞けば、そりゃ、Fluchtの意味は疑問の余地なく「逃げる」、「避難する」と解釈したくなる。
実際、英語字幕でもescapeと訳されている。

それで、私も途中までは疑問なく、Fluchtは逃走、逃げるという解釈で翻訳を進めていた。

だが、なんかあれ?と気にかかったのは、依頼者さんの事前情報にあったこと。
タイタニックで避難する際に、富豪の男性の中には、紳士的な行動をして、最後まで船に残った人たちがいる、という話。
実際、エマさんの雇い主の大富豪、グッゲンハイム氏は、紳士として最後まで船に残り、一緒に沈んでしまったらしいです。

この文に出てくるアスター氏とは、アストリアホテルで有名な富豪。
そして、彼もこの沈没事故で犠牲になっている。

英語の字幕では、「アスター氏が部屋から逃げていくところを私たちは見ました」となっているが・・・

逃げてないんじゃね?という疑問が、無意識の中でくすぶっていたんです。
実際、アスターさんは、避難ボートに乗れてなかったんです。
妊娠中の奥さんを避難ボートに乗せた。「妻の体調が気になるので同行したい」と申し出たが「女性が先だから」と断られてしまったんですね。

なんか違う・・・ここは違う。
そういう違和感。

船から避難しなかった人に対して、この言葉を使うか?
「アスター氏が部屋からでて来くるところでした」という表現なら、理解できるんですけど。

この部分、何度も繰り返し、繰り返し繰り返し繰り返し・・・・
1日暇をみてはずっと聞いてた。

そして、ある時、スコンと何かが外れるんです。ガコンっと何かが崩れるんです。カチっと何かが切り替わるんです。

うぉ・・・うぉーたー!!(ヘレン・ケラー)
という脳内革命、破壊、瞬時に再構築される瞬間です!!

Zimmer Flucht(部屋から逃走)と二語じゃなくて、もしかして。。。
Zimmerfluchtって単語一語なんじゃ?と気づいたんです。
そもそもで、Fluchtが「逃走・避難」という意味だとしたら、文法的にもおかしい。

どんなに繰り返し聞いても、Zimmer Flucht von Mr.Astorと聞こえる。
もし、部屋から逃げるという意味だったら、Flucht von Mr.Astors Zimmer(アスター氏の部屋から逃走)となるか、
Zimmer(部屋)の前にaus(英語で言ったらfromとか)など「~から外へ」といった前置詞が必要なるはず。

話し言葉で文法通りじゃないにしても、前置詞使わないなんて考えにくい。

大慌てで、Zimmerfluchtをネットで検索。

そして、、、えぇ~!!と驚いたんです。
顔ニヤニヤしながら「マジっすか!」ってつぶやくんです。
いや~、あの瞬間は思い返しても、スカッとする、気持ちの良さでしたねぇ。
こんな瞬間味わわせてくれてありがとう!

ふふ。
一緒にスカッとしてほしいところだけど、つ・づ・く!

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