Webサイト制作、ロゴデザイン、動画制作、システム開発など、外部の事業者に制作業務を委託するケースは少なくありません。
こうした取引で注意したいのが、制作物の著作権を誰が保有するのかという問題です。
「制作費を支払ったのだから、著作権も当然に自社のものになる」
「自分が制作したものだから、納品後も自由に利用できる」
このように考えている方もいるかもしれません。
しかし、制作費の支払いや制作物の納品だけで、著作権が当然に発注者へ移転するわけではありません。
著作権の取扱いを曖昧にしたまま契約を締結すると、納品後の改修、二次利用、第三者への制作依頼などをめぐってトラブルになる可能性があります。
今回は、契約書作成を専門とする行政書士が、業務委託契約書で定めておきたい著作権に関する7つのポイントを実務目線で解説します。
1.制作費を支払っても、著作権が当然に移転するわけではない
まず押さえておきたいのは、制作物の納品と著作権の移転は別の問題だということです。
著作権法では、原則として、著作物を創作した者が著作者となり、著作権を取得します。
例えば、企業がフリーランスのデザイナーにロゴ制作を依頼した場合、原則として、そのロゴの著作者は実際に創作したデザイナーです。
発注者が制作費を支払ったとしても、それだけで著作権が発注者に移転するわけではありません。
もっとも、制作物が著作物として保護されるには創作性が必要です。また、職務著作の要件を満たす場合など、著作者の判断が異なるケースもあります。
そのため、業務委託契約書では、制作物の性質や制作体制を踏まえ、著作権の帰属を明確にしておくことが重要です。
契約書で確認したいこと
制作物の著作権を発注者と受注者のどちらに帰属させるのか
著作権を譲渡するのか、利用を許諾するのか
複数の制作者が関与する場合、必要な権利処理ができているか
2.著作権を譲渡するのか、利用を許諾するのかを決める
制作物の著作権の取扱いには、大きく分けて「著作権の譲渡」と「著作物の利用許諾」という方法があります。
① 著作権を譲渡する場合
著作権を受注者から発注者へ移転させる方法です。
発注者は、譲り受けた権利の範囲内で、制作物を利用したり、第三者に利用を許諾したりできます。
例えば、企業のブランドロゴや自社専用の広告素材など、発注者が継続的に利用・管理したい制作物では、著作権の譲渡が検討されます。
ただし、著作権を譲渡する場合でも、譲渡対象となる権利の範囲を明確にする必要があります。
② 著作物の利用を許諾する場合
著作権は受注者に残し、発注者に一定の範囲で制作物の利用を認める方法です。
例えば、受注者が保有するプログラムやデザイン素材などを複数の顧客に提供する場合、著作権を譲渡せず、利用許諾とすることがあります。
この場合には、利用できる範囲を具体的に定めることが重要です。
契約書で確認したいこと
利用目的や利用方法
利用期間や利用地域
改変や二次利用の可否
第三者への再許諾の可否
独占的な利用を認めるかどうか
著作権を譲渡することが、すべての取引で最適とは限りません。
発注者が必要とする利用範囲と、受注者が保持したい権利を整理したうえで、適切な方法を選ぶことが重要です。
3.著作権法第27条・第28条の権利を明記する
著作権を譲渡する場合に、特に注意したいのが著作権法第27条及び第28条の取扱いです。
著作権法第27条は、翻訳、編曲、変形、翻案などに関する権利を定めています。
また、第28条は、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利を定めています。
著作権法第61条第2項では、著作権を譲渡する契約において第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡人に留保されたものと推定されます。
そのため、契約書に単に「著作権は発注者に帰属する」と記載するだけでは、権利の範囲について問題が生じる可能性があります。
例えば、納品されたWebサイトのデザインを大幅に変更したり、制作物を別の用途に展開したりすることが想定される場合には、これらの権利の取扱いが重要になります。
契約書で確認したいこと
第27条及び第28条の権利を譲渡対象に含めるか
将来的な改変や二次利用を想定しているか
譲渡対象となる制作物を明確に特定しているか
著作権譲渡条項を作成する際には、権利の帰属だけでなく、譲渡する権利の範囲まで具体的に検討する必要があります。
4.著作者人格権の取扱いを定める
著作権の譲渡とあわせて確認しておきたいのが、著作者人格権です。
著作者人格権には、主に次の3つがあります。
公表権:著作物を公表するかどうかなどを決める権利
氏名表示権:著作者名を表示するかどうかなどを決める権利
同一性保持権:著作物やその題号を、著作者の意に反して改変されない権利
著作者人格権は、著作権とは異なり、譲渡することができません。
そのため、著作権を発注者に譲渡した場合でも、著作者人格権の問題が残ります。
例えば、発注者が納品されたデザインを変更したり、著作者名を表示せずに利用したりすることが予定されている場合には、その取扱いを整理しておく必要があります。
実務では、著作者人格権を行使しない旨の条項を設けることがあります。
ただし、不行使条項を設ければ、どのような利用や改変でも無条件に問題がなくなるというわけではありません。
契約書で確認したいこと
著作者人格権の不行使を定めるか
不行使の対象となる相手方や利用範囲
著作者名の表示方法
制作物の改変をどこまで認めるか
発注者が必要とする利用方法を踏まえて、適切な内容にすることが重要です。
5.既存の著作物や第三者の素材をどう扱うか
制作業務では、すべての制作物をゼロから作るとは限りません。
例えば、次のような素材が使用されることがあります。
受注者が以前から保有しているプログラム
汎用的なデザインテンプレート
写真やイラストなどの素材
外部ライブラリやオープンソースソフトウェア
第三者が制作した文章や動画
これらについて、制作物全体の著作権を発注者に譲渡すると定めただけでは、必要な権利をすべて取得できるとは限りません。
特に、第三者が著作権を保有する素材については、受注者が自由に譲渡できるわけではありません。
また、受注者が以前から保有しているプログラムやノウハウなどは、受注者にとって重要な事業資産である場合があります。
そのため、制作物に含まれる権利を整理し、譲渡対象から除外するものや、利用許諾によって使用するものを明確にする必要があります。
契約書で確認したいこと
既存の著作物を譲渡対象から除外するか
発注者に必要な利用権限を確保できるか
第三者素材の使用条件を確認しているか
素材のライセンス条件に違反しないか
特にシステム開発契約では、個別に開発したプログラムと、受注者が従前から保有する汎用プログラム等を区別することが重要です。
6.著作権が移転するタイミングを明確にする
著作権を譲渡する場合には、いつ権利が移転するのかについても定めておく必要があります。
例えば、次のようなタイミングが考えられます。
① 制作物の完成時
② 制作物の納品時
③ 発注者による検収完了時
④ 委託料の全額支払完了時
どのタイミングが適切かは、取引内容や当事者の立場によって異なります。
発注者側の視点
発注者としては、納品後に制作物を利用できない事態を避けるため、著作権を確実に取得できる条件を定めておきたいところです。
受注者側の視点
一方、受注者としては、委託料が支払われる前に著作権が移転すると、代金回収の面で不利になる可能性があります。
そのため、委託料の全額支払完了時に著作権を移転させる方法も考えられます。
契約書で確認したいこと
著作権の移転時期
委託料の支払との関係
検収前の制作物の利用可否
契約が途中で終了した場合の著作権の取扱い
例えば、制作途中で契約が終了した場合、完成前の成果物や制作途中のデータを誰が利用できるのかも問題になります。
著作権条項は、報酬・検収・中途解約に関する条項と整合性を持たせることが重要です。
7.納品後の改変・再利用・実績公開について決める
制作物の著作権の帰属を定めても、実際の利用方法について認識が異なれば、トラブルになる可能性があります。
例えば、次のようなケースです。
ケース①:Webサイトの改修
発注者が、納品されたWebサイトを別の制作会社に依頼して改修したいと考えた場合。
必要な改変や第三者による利用が認められているかが問題になります。
ケース②:デザインの再利用
受注者が、過去に制作したデザインの一部を別の顧客の案件でも使用したいと考えた場合。
著作権の帰属や契約上の利用制限によっては、問題が生じる可能性があります。
ケース③:制作実績としての公開
受注者が、納品したロゴやWebサイトを自社のホームページやSNSで制作実績として紹介したいと考えた場合。
著作権だけでなく、秘密保持義務や商標、顧客情報などにも注意が必要です。
こうしたトラブルを防ぐためには、著作権の帰属だけでなく、具体的な利用条件を定めておくことが重要です。
契約書で確認したいこと
発注者による改変の可否
第三者への改修依頼の可否
受注者による制作物の再利用の可否
制作実績としての公開の可否
公開する場合の事前承諾の要否
特に、受注者が制作実績を営業活動に利用したい場合には、あらかじめ契約書で取扱いを明確にしておくことをおすすめします。
著作権条項は発注者・受注者のどちらに有利にするべき?
ここまで7つのポイントを解説してきましたが、著作権条項には、すべての取引に共通する正解があるわけではありません。
例えば、発注者が自社ブランドのために独自のロゴを制作してもらう場合と、受注者が保有する既存プログラムを活用してシステムを開発する場合とでは、適切な権利の取扱いが異なります。
また、同じWeb制作契約であっても、発注者が自由に改修できることを重視するのか、受注者が汎用的な制作資産を再利用できることを重視するのかによって、必要な条項は変わります。
重要なのは、当事者の立場だけでなく、制作物の内容、利用目的、委託料、将来の利用予定などを踏まえて、権利関係を設計することです。
まとめ|制作物の著作権は契約書で明確にしておくことが重要
制作物の著作権について、業務委託契約書で確認しておきたい7つのポイントをまとめます。
制作費の支払いだけで著作権が移転するわけではない
著作権の譲渡と利用許諾のどちらにするか決める
著作権法第27条・第28条の権利の取扱いを明確にする
著作者人格権の取扱いを定める
既存著作物や第三者素材の権利を整理する
著作権の移転時期を明確にする
納品後の改変・再利用・実績公開について決める
著作権に関する条項は、契約書の中でも専門的な検討が必要となる部分の一つです。
インターネット上のひな形をそのまま使用すると、実際の制作業務や利用方法に合わない内容になってしまう可能性があります。
特に、Web制作・デザイン制作・動画制作・システム開発などでは、制作物の種類によって必要な権利処理が異なります。
契約書は、ひな形に取引を合わせるのではなく、取引に合わせて作成することが重要です。
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