契約書の損害賠償に上限は必要?「委託料を上限とする」場合の考え方

契約書の損害賠償に上限は必要?「委託料を上限とする」場合の考え方

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法律・税務・士業全般
業務委託契約書を作成するとき、特に注意したいのが**「損害賠償条項」**です。

例えば、契約書に次のような条項が記載されていたとします。

「乙は、本契約に違反して甲に損害を与えた場合、甲に生じた一切の損害を賠償するものとする。」

このような条項を見て、

「一般的な内容だから問題ないだろう」

と考えていませんか?

しかし、受注者の立場であれば、業務の対価として受け取る報酬額を大きく超える損害賠償責任を負う可能性があります。

反対に、発注者の立場では、損害賠償額に低い上限が設定されていると、契約違反によって大きな損害が発生しても、十分な賠償を受けられない可能性があります。

そこで今回は、事業者間の業務委託契約を中心に、損害賠償額の上限を設ける必要性や、上限額をどのように決めればよいのかについて、行政書士が実務目線で解説します。


1.そもそも損害賠償条項は何のためにある?


損害賠償条項は、契約当事者の一方が契約上の義務に違反し、相手方に損害が発生した場合の責任について定めるものです。

例えば、次のようなケースが考えられます。

システム開発の不具合によって業務に支障が生じた

Web制作業務で納期が遅れた

広告運用で契約上の予算管理義務に違反した

秘密情報を漏えいした

契約で定められた業務を適切に履行しなかった

こうした場合に、どのような条件で損害賠償責任を負い、どの範囲の損害を賠償するのかが問題になります。

民法第415条では、債務不履行による損害賠償について規定されています。

もっとも、契約違反があれば必ず損害賠償責任が発生するわけではありません。

債務不履行について帰責事由が認められない場合などには、損害賠償責任を負わないことがあります。

また、実際に賠償が認められるかどうかは、損害の発生や因果関係などによっても左右されます。

契約書では、こうした民法上のルールを踏まえながら、当事者間の責任分担を明確にすることが重要です。


2.「一切の損害を賠償する」という条項は危険?


業務委託契約書では、次のような条項が設けられることがあります。

「甲又は乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合、当該損害を賠償するものとする。」

さらに、

「相手方に生じた一切の損害を賠償する」

と規定されている場合もあります。

受注者側からすると、注意が必要な条項です。

例えば、委託料50万円のシステム開発業務を受注したとします。

その業務に関連する契約違反によって発注者に500万円の損害が発生した場合、受注者は委託料を大きく上回る損害賠償を請求される可能性があります。

もちろん、請求された金額がそのまま認められるわけではありません。

実際の損害賠償責任の有無や範囲は、契約内容、損害の発生、因果関係、民法上の損害賠償の範囲などによって判断されます。

また、「一切の損害」と記載されているからといって、あらゆる損害について無条件に賠償責任が認められるわけでもありません。

しかし、損害賠償額に上限がない場合、受注者が想定していた以上の賠償リスクを負う可能性があることは確かです。

そのため、契約書を作成する際には、損害賠償責任の範囲と上限を検討することが重要になります。


3.通常損害・特別損害・逸失利益の違い


損害賠償条項を検討するうえで知っておきたいのが、損害の範囲です。

民法第416条では、債務不履行による損害賠償の範囲について規定されています。

通常損害

通常損害とは、債務不履行によって通常生ずべき損害をいいます。

例えば、納品された成果物に不具合があり、その修補のために通常必要となる費用などが考えられます。

特別損害

特別損害とは、特別な事情によって生じた損害をいいます。

民法第416条第2項では、当事者がその事情を予見すべきであったときは、特別の事情によって生じた損害についても賠償請求できるとされています。

したがって、特別損害だからといって、必ず賠償対象から除外されるわけではありません。

逸失利益

逸失利益とは、債務不履行がなければ得られたはずの利益をいいます。

例えば、システム障害によって営業活動ができず、本来得られたはずの利益を失った場合などです。

ただし、逸失利益は通常損害・特別損害と完全に別の分類ではありません。

具体的な事情によって、通常損害に当たる場合も、特別損害に当たる場合もあります。

契約書では、

「通常かつ直接の損害に限る」

「特別損害及び逸失利益を除く」

といった規定を設けることがあります。

ただし、これらの文言を組み合わせる場合には、それぞれの意味や適用範囲を整理する必要があります。


4.損害賠償額に上限を設けるメリット


受注者の立場では、損害賠償額に上限を設けることで、契約に伴うリスクを一定の範囲に抑えやすくなります。

例えば、次のような条項です。

「乙が本契約に関して甲に対して負担する損害賠償責任の総額は、本契約に基づく委託料の総額を上限とする。」

このように定めることで、原則として委託料総額を超える損害賠償責任を負わないという責任分担を設計できます。

ただし、上限条項の有効性や適用範囲は、具体的な契約内容や事情によって判断されます。

損害賠償額に上限を設ける主なメリットは、次のとおりです。

受注者が負担する賠償リスクを予測しやすくなる

委託料と賠償リスクのバランスを取りやすくなる

契約締結時に当事者間の責任分担を明確にできる

損害賠償の範囲をめぐる紛争を予防しやすくなる

特に中小企業や個人事業主の場合、委託料を大きく上回る損害賠償責任が経営に影響を及ぼす可能性もあります。

そのため、受注者側では損害賠償額の上限を設けることが重要な検討事項になります。


5.損害賠償の上限は「委託料総額」でよい?


では、損害賠償額の上限を設ける場合、どのような金額にすればよいのでしょうか。

よく検討されるのが、委託料を基準とする方法です。

例えば、次のような設定が考えられます。

① 委託料の総額を上限とする

契約に基づく委託料総額を上限とする方法です。

例えば、委託料が100万円であれば、損害賠償額の上限も100万円とする設計です。

契約金額が確定している単発の制作業務やシステム開発業務などでは、比較的分かりやすい方法です。

② 過去一定期間の委託料を上限とする

継続的な業務委託では、

「損害発生前12か月間に支払われた委託料の総額」

などを上限とする方法も考えられます。

例えば、月額20万円の業務委託契約であれば、12か月分の240万円を上限とする設計です。

ただし、契約開始直後に損害が発生した場合には、上限額が極端に低くなる可能性があります。

そのため、契約開始から一定期間が経過していない場合の取扱いなども検討する必要があります。

③ 個別契約の委託料を上限とする

基本契約と個別契約を組み合わせている場合には、

「損害の原因となった個別契約の委託料総額」

を上限とする方法もあります。

複数の案件を継続的に受注する場合などに検討される設計です。

ただし、基本契約に基づく秘密保持義務違反など、特定の個別契約に結びつけにくい損害については、別途取扱いを定める必要がある場合があります。

重要なのは、委託料総額・一定期間の委託料・個別契約の委託料のどれを基準にするかによって、責任の範囲が大きく変わることです。


6.発注者側では損害賠償の上限に注意


ここまで受注者側のメリットを説明しましたが、発注者側では反対の視点が必要です。

例えば、月額10万円の業務委託契約について、

「損害賠償額は直近1か月分の委託料を上限とする」

と定めた場合を考えてみましょう。

受注者の契約違反によって発注者に100万円の損害が発生したとしても、上限条項が適用されれば、賠償額が10万円に制限される可能性があります。

発注者側からすると、これでは十分な損害回復ができない場合があります。

特に、

顧客情報を取り扱う業務

重要なシステムを管理する業務

売上に直接影響する業務

高額な商品や設備を取り扱う業務

事業の継続に不可欠な業務

などでは、契約違反による影響が委託料を大きく上回る可能性があります。

したがって、発注者側では、損害賠償額の上限が低すぎないか、想定される損害に対して十分な責任を求められる内容になっているかを検討する必要があります。


7.故意・重過失の場合も上限を適用する?


損害賠償条項を設計する際には、故意・重過失による損害についても検討する必要があります。

例えば、

「ただし、乙の故意又は重過失により生じた損害については、この限りでない。」

という規定を設けることがあります。

これは、通常の過失による損害については賠償上限を適用する一方、故意又は重過失による損害については上限を適用しないという設計です。

発注者側としては、重大な責任がある場合まで賠償額が制限されることを避けたいと考えるでしょう。

一方、受注者側では、どのような場合に上限が適用されなくなるのかを明確にしておく必要があります。

なお、故意・重過失による責任を制限する条項については、その内容や具体的な事情によって効力が問題となることがあります。

したがって、「故意・重過失を上限の対象外にするかどうか」は、損害賠償条項を作成する際の重要な検討事項です。

8.秘密保持違反や知的財産権侵害は別に考える?


業務委託契約では、すべての契約違反について同じ賠償上限を適用するとは限りません。

例えば、

秘密保持義務違反

個人情報の漏えい

知的財産権侵害

第三者への権利侵害

故意・重過失による契約違反

などについて、通常の損害賠償とは別の取扱いを定める場合があります。

特に秘密情報や個人情報を扱う業務では、漏えいによる損害が委託料を大きく超える可能性があります。

発注者側では、これらを賠償上限の対象外とすることが考えられます。

一方、受注者側では、対象外となる事由を広く設定しすぎると、損害賠償額に上限を設けた意味が薄れてしまうことがあります。

そのため、

「すべての契約違反に同じ上限を適用するのか」「特定の義務違反については例外を設けるのか」

という点も検討する必要があります。


9.損害賠償条項を作るときのチェックポイント


実際に業務委託契約書を作成する際には、次の事項を確認してみましょう。

① どのような場合に損害賠償責任が発生するのか

② 賠償対象となる損害の範囲はどこまでか

③ 特別損害や逸失利益を含めるのか

④ 損害賠償額に上限を設けるのか

⑤ 上限を設ける場合、何を基準にするのか

⑥ 委託料総額とするのか、一定期間の委託料とするのか

⑦ 故意・重過失の場合はどうするのか

⑧ 秘密保持義務違反や知的財産権侵害について例外を設けるのか

⑨ 発注者・受注者の双方に同じ条件を適用するのか

⑩ 契約終了後に発生した損害についても適用されるのか

これらを検討することで、実際の取引内容に合わせた損害賠償条項を作成しやすくなります。

なお、賠償上限を設ける場合には、1件の事故ごとの上限なのか、契約期間を通じた賠償責任の総額の上限なのかも明確にしておくことが重要です。


10.ネットのひな形にある損害賠償条項をそのまま使って大丈夫?


ネット上の契約書のひな形には、さまざまな損害賠償条項があります。

例えば、

「相手方に生じた一切の損害を賠償する」

というものもあれば、

「損害賠償額は委託料の総額を上限とする」

というものもあります。

しかし、どちらが適切かは、取引内容によって異なります。

例えば、同じ業務委託契約でも、

月額5万円のSNS運用業務

と、

数千万円規模の基幹システム開発業務

では、想定される損害や責任の大きさが異なります。

また、発注者と受注者のどちらの立場で契約するのかによっても、望ましい内容は変わります。

そのため、

「ひな形に書いてあるから」「一般的な条項だから」という理由だけで採用するのではなく、自社の取引に適した内容かを確認することが重要です。

まとめ|損害賠償の上限は取引内容に合わせて決める

業務委託契約書の損害賠償条項では、単に、

「損害が発生した場合は賠償する」

と定めるだけでは十分とは限りません。

特に重要なのは、次の点です。

損害賠償責任の発生条件

賠償対象となる損害の範囲

損害賠償額の上限

上限額の算定基準

故意・重過失の場合の取扱い

秘密保持違反などの例外

受注者側では、委託料を大きく上回る賠償リスクを負わないようにすることが重要です。

一方、発注者側では、損害賠償額の上限が低すぎることによって、十分な損害回復ができなくなるリスクに注意する必要があります。

つまり、発注者にとって望ましい損害賠償条項と、受注者にとって望ましい損害賠償条項は必ずしも同じではありません。

ネットのひな形や生成AIを使えば、損害賠償条項の文章自体を作ることは難しくありません。

しかし、本当に重要なのは、

「この取引では、どこまでの損害賠償責任を負うべきなのか」

を考えることです。

当事務所では、業務内容、契約金額、想定されるリスク、発注者・受注者どちらの立場なのかなどをヒアリングしたうえで、個別の取引に合わせた業務委託契約書を作成しています。

「損害賠償額の上限をどのように決めればよいか分からない」

「契約書の損害賠償条項が自社に不利ではないか不安」

「新しく業務委託を始めるので契約書を整えたい」

「ネットのひな形ではなく、自社の取引条件に合った契約書を作成したい」

このような場合には、契約締結前に契約条件を整理しておくことをおすすめします。

契約書は、トラブルが起きたときの責任を明確にするだけでなく、取引開始前にリスクを適切に分担するためのものです。

損害賠償条項についても、一般的なひな形をそのまま使用するのではなく、実際の取引内容に合わせて検討することが重要です。
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