秘密保持契約書(NDA)で失敗しないための7つのポイント|秘密情報の範囲・契約期間・損害賠償を行政書士が解説

秘密保持契約書(NDA)で失敗しないための7つのポイント|秘密情報の範囲・契約期間・損害賠償を行政書士が解説

記事
法律・税務・士業全般
新規取引の商談、業務委託、システム開発、共同事業の検討など、企業間の取引では、相手方に重要な情報を開示する機会があります。

こうした場面で利用されるのが「秘密保持契約書(NDA)」です。

NDAとは、Non-Disclosure Agreementの略称で、取引の過程で知り得た秘密情報の取扱いについて定める契約書です。

「秘密保持契約書を締結すれば、どんな情報でも守られる?」

「秘密情報は、どこまで含めればいい?」

「契約が終了したら、秘密保持義務もなくなる?」

「秘密情報が漏えいした場合、損害賠償を請求できる?」

このような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

秘密保持契約書は、比較的短い契約書であることも多く、インターネット上のひな形を利用している企業も少なくありません。

しかし、秘密情報の範囲や利用目的、契約終了後の義務などが曖昧なままでは、重要な情報を十分に保護できない可能性があります。

また、情報を受領する側にとっても、秘密保持義務が広すぎると、通常の事業活動に支障が生じたり、過大な責任を負ったりするおそれがあります。

今回は、契約書作成に強い行政書士が、秘密保持契約書(NDA)で失敗しないための7つのポイントについて、情報を開示する側・受領する側の双方の立場から実務目線で解説します。



1.秘密情報の範囲を明確にする


秘密保持契約書で最初に重要になるのが、「何を秘密情報として保護するのか」という点です。

例えば、次のような情報が考えられます。

顧客情報や取引先情報

商品・サービスの開発情報

営業戦略やマーケティング戦略

商品の原価や仕入価格

技術情報や製造ノウハウ

システムの設計資料やソースコード

事業計画や財務情報

新規事業に関する企画資料

これらの情報を、どのような条件で秘密情報として取り扱うのかを定める必要があります。

秘密情報の定義には複数の方法がある

例えば、次のような定め方が考えられます。

① 秘密である旨を表示した情報に限定する方法

「秘密」「Confidential」などの表示が付された情報を秘密情報とする方法です。

保護対象が明確になる一方、秘密表示を忘れた重要情報が対象外になるおそれがあります。

② 開示された情報を原則として秘密情報とする方法

書面、電子メール、口頭など、開示方法を問わず、一定の情報を秘密情報として取り扱う方法です。

開示する側にとっては保護範囲を広く確保しやすい一方、受領する側にとっては、何が秘密情報に該当するのか判断しにくくなる場合があります。

③ 秘密表示と情報の性質を組み合わせる方法

秘密表示がある情報に加え、情報の性質や開示状況から秘密であると合理的に認識できる情報も対象とする方法です。

取引の実態に応じて、こうした方法を組み合わせることも考えられます。

口頭で開示した情報はどうする?

商談や打ち合わせでは、重要な情報が口頭で伝えられることもあります。

そのため、口頭で開示された情報を秘密情報に含めるのか、開示後一定期間内に書面などで内容を特定する必要があるのかも検討する必要があります。

契約書で確認したいこと

秘密情報に含める情報の種類

書面・電子データ・口頭などの開示方法

秘密表示の要否

口頭開示情報の取扱い

契約締結前に開示された情報の取扱い

秘密情報に該当するかどうかの判断基準

秘密情報の範囲は、広ければよいというものではなく、実際の取引で保護すべき情報を適切に対象とすることが重要です。



2.秘密情報の使用目的を明確にする


秘密保持契約書では、情報を第三者に漏らさないことだけでなく、秘密情報を何のために使用できるのかを明確にすることが重要です。

例えば、企業が新商品の共同開発を検討するために、相手方へ技術情報を開示する場合です。

相手方がその情報を外部に漏らさなかったとしても、自社商品の開発に無断で利用してしまえば、情報を開示した企業にとって大きな問題となります。

秘密保持義務と目的外利用の禁止は別の問題

秘密保持義務は、主に秘密情報を第三者へ開示・漏えいしないことを求めるものです。

一方、目的外利用の禁止は、契約で定めた目的以外に秘密情報を使用しないことを求めるものです。

そのため、秘密保持契約書では、両方を定めておくことが重要です。

使用目的はどこまで具体的に定める?

例えば、次のような使用目的が考えられます。

新規取引の実施可能性の検討

共同事業の検討

システム開発の見積り及び仕様検討

業務提携の可能性の検討

商品の製造委託に関する協議

「事業活動のため」といった広すぎる表現では、どのような利用が認められるのか不明確になる可能性があります。

一方、使用目的を限定しすぎると、当初予定していた取引に関連する合理的な検討まで制限される場合があります。

契約書で確認したいこと

秘密情報の使用目的

目的外利用の禁止

目的を変更する場合の承諾手続

秘密情報の複製・加工・分析の可否

自社の営業活動や商品開発への利用制限

特に、技術情報や製造ノウハウを開示する場合には、第三者への漏えいだけでなく、無断利用を防ぐための条項が重要になります。



3.第三者への開示条件を明確にする


秘密保持契約書では、受領した情報を第三者へ開示する場合の条件も重要です。

例えば、企業がシステム開発会社に秘密情報を開示し、その開発会社が外部の協力会社へ業務を再委託する場合です。

再委託先にも情報を共有しなければ、業務を進められないことがあります。

しかし、秘密情報が複数の企業に広がるほど、情報管理上のリスクも高まります。

第三者への開示を全面的に禁止すればよい?

必ずしもそうとは限りません。

実際の取引では、次のような相手に秘密情報を開示する必要が生じることがあります。

業務を担当する役員や従業員

再委託先や外部協力会社

弁護士、公認会計士などの専門家

業務提携の検討に必要な関係会社

そのため、誰に、どのような条件で情報を開示できるのかを整理する必要があります。

開示先にも秘密保持義務を負わせる

例えば、再委託先への開示を認める場合には、受領者が再委託先に対して、契約上の秘密保持義務と同等の義務を負わせる方法が考えられます。

また、再委託先による情報漏えいについて、受領者がどのような責任を負うのかも定めておくことが重要です。

契約書で確認したいこと

第三者への開示の原則禁止

開示を認める相手方の範囲

事前承諾の要否

開示先に負わせる秘密保持義務

開示先の行為についての責任

法令に基づく開示要請への対応

特に、再委託が予定されている取引では、実際の業務体制に合った条項を設ける必要があります。



4.秘密保持義務の例外を定める


秘密保持契約書では、すべての情報について無条件に秘密保持義務を課すことが適切とは限りません。

例えば、すでに一般に公開されている情報まで秘密情報として取り扱うと、受領者に不合理な負担が生じる可能性があります。

そのため、一般的な秘密保持契約書では、一定の情報を秘密保持義務の対象から除外する規定を設けます。

秘密保持義務の例外となる情報

例えば、次のような情報です。

① 開示時点ですでに公知となっていた情報

新聞、Webサイト、公開資料などを通じて、一般に知られていた情報です。

② 受領者の責任によらず公知となった情報

情報を受領した後、受領者の契約違反などによらず公開された情報です。

③ 開示前から受領者が適法に保有していた情報

相手方から開示される以前に、すでに適法に保有していた情報です。

④ 正当な権限を持つ第三者から適法に取得した情報

秘密保持義務に違反することなく、第三者から取得した情報です。

⑤ 秘密情報によらず独自に開発・取得した情報

相手方から開示された秘密情報を使用せず、独自に開発した情報です。

例外に該当することを誰が証明する?

秘密保持契約書では、これらの例外に該当することを受領者が証明する旨を定める場合があります。

情報を開示する側としては、秘密情報が不当に例外扱いされることを防ぎやすくなります。

一方、受領する側としては、開示前から保有していた資料や独自開発の記録などを適切に管理しておくことが重要です。

秘密保持義務の例外は、情報を開示する側と受領する側の利益を調整するために重要な条項です。


5.契約期間と秘密保持義務の存続期間を区別する


秘密保持契約書で見落とされやすいのが、契約期間と秘密保持義務の存続期間の違いです。

例えば、秘密保持契約書の契約期間を1年間と定めた場合です。

このとき、1年が経過して契約が終了すれば、秘密保持義務も当然に終了するのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

契約期間と秘密保持義務の存続期間は別に定める

契約期間とは、原則として、秘密保持契約書に基づく契約関係が継続する期間です。

一方、秘密保持義務の存続期間とは、契約終了後も受領した秘密情報について秘密保持義務を負う期間です。

例えば、次のような設計が考えられます。

契約期間:契約締結日から1年間

秘密保持義務:契約終了後3年間存続

この場合、契約終了後も一定期間は秘密情報を保護することになります。

秘密保持義務は無期限にできる?

契約終了後の秘密保持義務について、期限を設けずに存続させる条項を定めることも考えられます。

ただし、すべての秘密情報について一律に無期限とすることが適切とは限りません。

例えば、短期間で価値が失われる営業情報と、長期間にわたって重要性を持つ製造ノウハウでは、保護する必要性が異なります。

そのため、情報の性質や取引内容を踏まえて存続期間を設定することが重要です。

また、無期限と定めた場合でも、条項の有効性や適用範囲は具体的な事情によって判断されることがあります。

契約書で確認したいこと

契約期間

自動更新の有無

契約終了後の秘密保持義務の存続期間

秘密情報の種類による期間の区別

契約終了後も存続させるその他の条項

契約期間が終了しても、重要な秘密情報が保護されるように設計することが重要です。


6.秘密情報の返還・削除・廃棄について定める


秘密保持契約書では、契約終了後などに秘密情報をどのように取り扱うのかも重要です。

例えば、取引の検討が終了したにもかかわらず、受領者が相手方の重要な資料やデータを保有し続けている場合です。

情報が残っている限り、誤送信や不正アクセスなどによって外部に漏えいするリスクがあります。

そのため、秘密情報の返還・削除・廃棄について定めておくことが重要です。

返還・削除・廃棄の方法

例えば、次のような方法が考えられます。

書面資料や記録媒体を返還する

電子ファイルを削除する

複製物や加工資料を廃棄する

秘密情報を含む社内資料を削除する

返還・削除・廃棄の完了を報告する

すべての情報を直ちに削除できる?

実務上は、必ずしもすべての情報を直ちに削除できるとは限りません。

例えば、法令上の保存義務がある資料や、通常のバックアップシステムに保存されたデータなどです。

そのため、一定の情報については、例外的に保管を認める条項を設けることも考えられます。

ただし、その場合でも、保管を認める目的や範囲を限定し、秘密保持義務を継続させることが重要です。

契約書で確認したいこと

返還・削除・廃棄を行う時期

返還・削除・廃棄の対象

複製物や加工資料の取扱い

法令上の保存義務がある情報の例外

バックアップデータの取扱い

完了報告の要否

秘密保持契約書では、情報を受け取るときだけでなく、情報が不要になったときの取扱いまで定めることが重要です。


7.秘密保持義務違反と損害賠償の範囲を明確にする


最後に重要なのが、秘密保持義務に違反した場合の責任です。

例えば、受領者が秘密情報を第三者に漏えいし、情報を開示した企業に損害が生じた場合です。

この場合、受領者がどのような責任を負うのかが問題になります。

秘密保持契約書を締結すれば、必ず損害賠償を請求できる?

秘密保持契約書を締結しているからといって、情報漏えいが発生した場合に、必ず希望する金額の損害賠償が認められるわけではありません。

一般に、債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には、契約上の義務違反、損害の発生、因果関係、帰責事由などが問題になります。

また、損害額の立証が難しいケースもあります。

そのため、契約書では、損害賠償の範囲や責任制限について整理しておくことが重要です。

損害賠償の上限を設けるべき?

例えば、業務委託契約と併せて秘密保持契約を締結する場合には、損害賠償額の上限を委託料の総額などとする方法が考えられます。

一方、秘密保持契約書のみを締結し、報酬の支払いが発生しない場合には、委託料を基準とした上限設定が適切でないこともあります。

また、秘密情報の漏えいによって重大な損害が生じる可能性がある場合には、秘密保持義務違反を責任制限の対象から除外する方法も考えられます。

情報漏えいを止めるための対応

秘密情報が無断で利用・開示されている場合には、損害賠償だけでなく、利用や開示の停止を求める必要が生じることもあります。

契約書に差止めや是正措置に関する条項を設けることは考えられますが、契約書に記載すれば当然に裁判所による差止めが認められるわけではありません。

具体的な法的手段については、違反の内容や適用法令に応じた検討が必要です。

契約書で確認したいこと

秘密保持義務違反時の責任

損害賠償の対象となる損害

損害賠償額の上限の有無

故意・重過失の場合の取扱い

秘密情報の無断利用・開示に対する是正措置

第三者による漏えいが発生した場合の責任

紛争が発生した場合の管轄裁判所

損害賠償条項は、秘密情報の重要性や漏えい時のリスクを踏まえて設計することが重要です。

秘密保持契約書は片務型と双務型のどちらがよい?

秘密保持契約書には、大きく分けて「片務型」と「双務型」があります。

片務型の秘密保持契約書

一方の当事者のみが秘密情報を開示し、もう一方の当事者が秘密保持義務を負うことを基本とする契約です。

例えば、企業が外部の事業者に業務を委託する前に、自社の技術情報や営業情報を開示する場合などです。

双務型の秘密保持契約書

双方が秘密情報を開示し、互いに秘密保持義務を負う契約です。

例えば、企業同士が共同事業を検討し、それぞれの技術情報や営業情報を交換する場合などです。

どちらを選ぶべき?

片務型と双務型のどちらが適切かは、実際に秘密情報を開示する当事者が誰なのかによって異なります。

一方のみが情報を開示する取引であれば片務型が適している場合があります。

一方、双方が重要な情報を交換する場合には、双務型が適していることがあります。

なお、双務型であっても、双方の義務を必ずしも完全に同一にする必要はありません。

秘密保持契約書は、実際の情報の流れに合わせて作成することが重要です。

情報を開示する側・受領する側で重視したいポイント

秘密保持契約書を作成する際には、情報を開示する側と受領する側で重視するポイントが異なります。

情報を開示する側が重視したいこと

情報を開示する側としては、自社の重要な情報を適切に保護することが重要です。

特に、次のような事項を確認しておく必要があります。

保護対象となる秘密情報の範囲

目的外利用の禁止

第三者への開示条件

契約終了後の秘密保持義務

秘密情報の返還・削除・廃棄

義務違反時の責任

情報を受領する側が重視したいこと

一方、情報を受領する側としては、秘密保持義務が過度に広くならないようにすることが重要です。

特に、次のような事項を確認しておく必要があります。

秘密情報の範囲が明確か

公知情報や既保有情報が除外されているか

業務上必要な第三者への開示が認められているか

秘密保持義務の存続期間が適切か

返還・削除義務が実行可能な内容か

損害賠償責任が過大になっていないか

秘密保持契約書は、情報を開示する側の保護だけでなく、受領する側が実際に遵守できる内容とすることも重要です。


まとめ|秘密保持契約書は情報の内容と取引目的に合わせて作成する


今回は、秘密保持契約書(NDA)で失敗しないための7つのポイントについて解説しました。

特に確認しておきたいのは、次の7つです。

秘密情報の範囲:何を秘密情報として保護するか

使用目的:秘密情報を何のために利用できるか

第三者への開示:誰に、どのような条件で開示できるか

秘密保持義務の例外:公知情報や既保有情報などの取扱い

契約期間・存続期間:契約終了後も秘密保持義務を負うか

返還・削除・廃棄:情報が不要になった場合の取扱い

損害賠償・責任制限:義務違反時の責任をどう定めるか

秘密保持契約書は、比較的短い契約書であっても、重要な法的意味を持つ書類です。

例えば、システム開発のためにソースコードを開示する場合と、新規取引の商談で営業情報を開示する場合とでは、保護すべき情報や必要な義務が異なります。

また、秘密情報を開示する側と受領する側でも、重視する条件は異なります。

そのため、インターネット上のひな形をそのまま利用すると、実際の取引に合わない内容になってしまう可能性があります。

契約書は、ひな形に取引を合わせるのではなく、取引に合わせて作成することが重要です。

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