「あいつのせいだ」で人は動くけれど。気づいたら誰もいなくなっていた

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何かが違う、と思い始めた


カウンセリングルームに入ってきたカズヤさんは、疲れた表情をしていた。42歳。製造業で管理職として働いている。部下は15人ほど。業績は悪くない。しかし、最近、何かがおかしいと感じているという。

カズヤ「最近、部下が次々と辞めていくんです。この3年で、15人中6人が辞めました」

ダイキ「6人...それは、カズヤさんにとっても大きな出来事だったんですね」

カズヤ「ええ。最初は、まあ、仕方ないかなと思っていたんです。給料が安いとか、他にやりたいことがあるとか、そういう理由だろうと。でも、最近、自分のやり方に問題があるんじゃないかと思い始めて...」

カズヤさんは、少し間を置いてから、ゆっくりと話し始めた。

カズヤ「私は、チームをまとめるために、いつも『共通の敵』を作ってきたんです。競合他社だったり、経営陣だったり、時には他部署だったり。『あいつらに負けるな』『あいつらより良い結果を出そう』って、そうやってチームを鼓舞してきました」

ダイキ「共通の敵...ですか」

カズヤ「ええ。最初は、それでうまくいってたんです。チームは一致団結して、目標を達成して。でも、最近、なんだか疲れてきたみたいで...」

「敵」がいないと動けない組織


ダイキ「カズヤさんは、どんなときに『共通の敵』を作ってきたんですか?」

カズヤ「例えば、去年の春に、競合他社が新製品を出したんです。その時、私は部下に『あいつらに負けるな。絶対に追い越してやろう』って言って、チーム全体で頑張りました。結果、納期を1ヶ月前倒しして、新製品を出すことができたんです」

ダイキ「それは、すごい成果ですね」

カズヤ「ええ、でも...その後、何人かが体調を崩して休職しました。それに、プロジェクトが終わったら、また次の『敵』を作らないと、チームが動かなくなってしまって」

カズヤさんは、疲れた様子で続けた。

カズヤ「最近は、『敵』を作っても、以前ほど盛り上がらないんです。むしろ、『また始まった』みたいな顔をされることもあって...」

ダイキ「『また始まった』...その言葉を聞いたとき、カズヤさんはどう感じましたか?」

カズヤ「......正直、ショックでした。自分はチームのために頑張ってきたつもりだったのに、なんだか、自分だけが空回りしているような気がして」

カズヤさんの声が少し震えた。

離職面談で聞いた言葉


ダイキ「最近、辞めた方との離職面談では、何か印象的なことはありましたか?」

カズヤ「ありました。2ヶ月前に辞めた若手社員が、こう言ったんです。『カズヤさんのチームは、いつも誰かと戦っていて疲れます』って」

カズヤさんは、その言葉を思い出すように、ゆっくりと話した。

カズヤ「その子は、入社3年目で、すごく優秀だったんです。でも、『もっと協力して何かを作りたい。敵を倒すことだけが目的じゃないはずです』って言われて...」

ダイキ「その言葉を聞いて、カズヤさんはどう思いましたか?」

カズヤさんは、少し考えてから答えた。

カズヤ「最初は、『甘いな』って思ったんです。ビジネスは戦いだ、競争に勝たなきゃ生き残れない、って。でも、その後、ずっとその言葉が頭に残っていて...」

カズヤ「それで、他の辞めた人たちのことも思い出したんです。みんな、『疲れた』『ギスギスしていて居心地が悪い』って言って辞めていったんです」

なぜ「共通の敵」を作っていたのか


ダイキ「カズヤさんは、なぜ『共通の敵』を作ってきたんでしょう?」

カズヤ「それは...チームをまとめるためです。バラバラだったチームが、共通の敵がいると一致団結するじゃないですか」

ダイキ「確かに、一致団結する。それは、カズヤさんにとってどんな意味があったんでしょう?」

カズヤさんは、少し戸惑った様子で答えた。

カズヤ「どんな意味...ですか? うーん、それは...」

カズヤさんは、しばらく黙り込んだ。部屋には静かな時間が流れた。

カズヤ「......もしかしたら、自分が認められたかったのかもしれません」

ダイキ「認められたかった?」

カズヤ「ええ。私は、管理職になったばかりの頃、部下から信頼されていなかったんです。年下の部下もいて、『こんな人が上司か』みたいな目で見られていて。それで、何か成果を出さなきゃと思って、競合に勝つことを目標にしたんです」

カズヤさんは、続けた。

カズヤ「そうしたら、チームが一つにまとまって、結果も出て、上からも評価されて。それが嬉しかったんです。だから、ずっとそのやり方を続けてきた」

ダイキ「成果を出して、認められた。それは、カズヤさんにとって、とても大切な経験だったんですね」

カズヤ「ええ...でも、今は、そのやり方が限界に来ているような気がするんです」

「敵」ではなく「素材」を持ち寄る


ダイキ「カズヤさん、もし、『共通の敵』ではなく、『共通の目標』や『共通の素材』でチームをまとめるとしたら、どんなイメージが浮かびますか?」

カズヤ「共通の素材...?」

ダイキ「はい。例えば、キルトを作るとき、いろんな布の切れ端を縫い合わせていきますよね。それぞれの布は、色も形も違うけれど、縫い合わせることで一つの美しいキルトになる」

カズヤ「キルト...ですか」

ダイキ「はい。チームも同じかもしれません。それぞれのメンバーが持っている強みや経験、アイデアを持ち寄って、新しいものを作る。敵を倒すことが目的ではなく、一緒に何かを作ることが目的になる」

カズヤさんは、少し考え込んだ。

カズヤ「確かに...うちのチームにも、いろんな人がいます。営業経験のある人、技術に詳しい人、若くてアイデアが豊富な人。でも、私は、その人たちを『戦力』としてしか見ていなかったかもしれません」

ダイキ「戦力...ではなく?」

カズヤ「ええ。『この人は使える』『この人はまだ使えない』って、そういう見方をしていました。でも、本当は、それぞれの人が持っている『素材』を活かすことができれば、もっと良いものが作れるのかもしれませんね」

過去の成功体験が足かせになっていた


ダイキ「カズヤさんが『共通の敵』を作ってきたのは、過去にそれでうまくいった経験があったからですよね」

カズヤ「ええ、そうです」

ダイキ「その成功体験が、今のカズヤさんにとって、どんな影響を与えていると思いますか?」

カズヤさんは、しばらく考えてから答えた。

カズヤ「......足かせになっているのかもしれません。『あの時はこれでうまくいった』『だから今回もこれでいける』って、同じやり方を繰り返してきました。でも、状況は変わっているのに、やり方は変えていなかった」

ダイキ「状況が変わっているというのは?」

カズヤ「チームのメンバーも変わりました。若い世代は、競争よりも協力を重視する人が多い気がします。それに、働き方も変わってきて、無理して頑張るよりも、持続可能な働き方を求める人が増えています」

カズヤ「でも、私は、昔ながらのやり方に固執していたんです。『敵を倒せ』『負けるな』って、そればっかり言っていました」

ダイキ「今、カズヤさんは、そのことに気づいたんですね」

カズヤ「ええ...遅すぎたかもしれませんが」

小さな一歩:部下の「素材」を聞いてみる


ダイキ「カズヤさん、もし、これから『共通の素材を縫い合わせる』やり方を試してみるとしたら、まず何から始めますか?」

カズヤ「何から...うーん、正直、どうすればいいのか分からないです」

ダイキ「それでは、まず、部下の方々が、どんな『素材』を持っているのか、聞いてみるのはどうでしょう?」

カズヤ「素材...というと?」

ダイキ「例えば、『あなたが得意なことは何ですか?』『これまでの経験で、誇りに思っていることは何ですか?』『これから、どんなことに挑戦してみたいですか?』といったことを、一人ひとりに聞いてみる」

カズヤ「......そんなこと、今まで聞いたことがありませんでした」

ダイキ「そうなんですね。では、もし聞いてみたら、どんなことが分かると思いますか?」

カズヤ「どんなこと...か。うーん、その人が本当にやりたいことが分かるかもしれません。それに、自分が気づいていなかった強みが見つかるかもしれませんね」

ダイキ「そうですね。そして、その『素材』を持ち寄って、チーム全体で何かを作るとしたら、どんなものが作れそうですか?」

カズヤさんは、少し明るい表情になった。

カズヤ「例えば...うちのチームには、デザインが得意な若手がいます。彼女は、いつも資料を見やすくまとめてくれるんです。それから、営業経験のあるベテランもいて、顧客の声をよく聞いてくる。技術に詳しい人もいるし...」

カズヤ「もしかしたら、その人たちが持ち寄った『素材』を組み合わせれば、今までにない製品やサービスが作れるかもしれません」

ダイキ「そうですね。それぞれの『素材』を活かし合うことで、新しいものが生まれる。それが、『共通のパッチを縫い合わせる』ということかもしれませんね」

「敵」がいなくても、人は動ける


カズヤ「でも...『敵』がいないと、人は動かないんじゃないでしょうか? 目標が曖昧になってしまうような気がして」

ダイキ「なるほど。カズヤさんは、『敵』がいないと、目標が曖昧になると感じているんですね」

カズヤ「ええ。『競合に勝つ』とか『あいつらを超える』っていう目標は、すごく分かりやすいじゃないですか。でも、『みんなの素材を活かして何かを作る』って、ふわっとしていて、どう動けばいいのか分からない」

ダイキ「確かに、『敵に勝つ』という目標は分かりやすいですよね。でも、カズヤさん、もし、『敵に勝つ』ことが目的ではなく、『自分たちが本当に作りたいもの』が目的だったら、どうでしょう?」

カズヤ「自分たちが本当に作りたいもの...」

ダイキ「はい。例えば、『この製品で、お客さんの生活がもっと便利になる』とか、『このサービスで、誰かの悩みが解決できる』とか。そういう、自分たちが本当に実現したいことを目標にする」

カズヤさんは、少し考えてから答えた。

カズヤ「......実は、そういうことを考えたことがなかったかもしれません。いつも、『競合に勝つ』とか『売上を伸ばす』とか、そういう外向きの目標ばかり考えていて」

ダイキ「そうだったんですね。では、もし、チームのみんなで『自分たちが本当に作りたいもの』を話し合ったら、どんなことが起きると思いますか?」

カズヤ「どんなこと...うーん、最初は戸惑うかもしれません。でも、もしかしたら、今まで言えなかったアイデアが出てくるかもしれませんね」

カズヤ「それに、『敵を倒す』ことが目的じゃなくて、『自分たちが作りたいもの』が目的だったら、もっと楽しく働けるような気がします」

関係性が変わると、チームが変わる


ダイキ「カズヤさん、今日の対話を通して、何か気づいたことはありますか?」

カズヤさんは、深く息を吐いてから答えた。

カズヤ「......自分が、チームを『戦わせる』ことばかり考えていたことに気づきました。でも、本当は、チームのメンバーと『一緒に何かを作る』ことができれば、もっと良い結果が出るし、みんなも楽しく働けるんじゃないかと」

ダイキ「そうですね。『共通の敵』を作ることで、一時的には団結できるかもしれません。でも、それは、疲弊を生むこともある」

カズヤ「ええ。それに、『敵』がいなくなったら、チームはバラバラになってしまう。でも、『共通の素材を縫い合わせる』やり方なら、関係性そのものが変わっていく気がします」

ダイキ「関係性が変わる...というと?」

カズヤ「『一緒に戦う仲間』ではなく、『一緒に何かを作る仲間』になる。そうすれば、お互いの強みを認め合って、尊重し合えるようになるんじゃないかと思います」

カズヤさんの表情が、少し明るくなった。

カズヤ「まだ、具体的にどうすればいいのか分からないことも多いですが、まずは、部下一人ひとりと話をしてみようと思います。その人が持っている『素材』を聞いて、それをどう活かせるか、一緒に考えてみます」

ダイキ「それは、とても良い一歩だと思います」

一ヶ月後の再訪


一ヶ月後、カズヤさんが再びカウンセリングルームを訪れた。

カズヤ「ダイキさん、あれから、部下全員と個別に話をしました」

ダイキ「そうなんですね。どうでしたか?」

カズヤ「正直、驚きました。みんな、いろんなことを考えていたんです。『こういうことがやってみたい』『こういう強みがある』って、今まで言わなかっただけで、実はたくさんアイデアを持っていたんです」

カズヤ「それから、チーム全体で話し合う機会を作りました。『うちのチームで、本当に作りたいものは何か』って」

ダイキ「どんな話が出ましたか?」

カズヤ「最初は戸惑っていましたが、徐々に意見が出てきて。『お客さんの声をもっと反映した製品を作りたい』『他部署とも協力して、より良いサービスを提供したい』って、いろんなアイデアが出ました」

カズヤ「それで、今、そのアイデアを実現するために、チーム全体で動き始めているんです」

ダイキ「それは、素晴らしいですね」

カズヤ「ええ。まだ、すぐに結果が出るわけじゃないですが、チームの雰囲気が変わりました。以前は、『また戦いか』みたいな空気だったのが、今は、『一緒に何か面白いことをやろう』みたいな空気になっています」

カズヤさんは、少し照れくさそうに笑った。

カズヤ「それに、最近、若手社員から、『カズヤさん、変わりましたね』って言われたんです。嬉しかったです」

ダイキ「カズヤさん自身も、変わったんですね」

カズヤ「ええ。『共通の敵』を作ることで、自分が認められたいと思っていました。でも、本当に大切なのは、チームのメンバーと一緒に何かを作ることだったんです」

カズヤ「まだ、完璧にはできていませんが、少しずつ、『共通のパッチを縫い合わせる』やり方を学んでいます」

エピローグ:縫い合わせることで生まれるもの


カウンセリングを終えたカズヤさんは、軽やかな足取りでカウンセリングルームを後にした。

「共通の敵」を作ることで、一時的には団結できる。しかし、それは、疲弊や対立を生むこともある。

一方、「共通のパッチを縫い合わせる」やり方は、時間がかかるかもしれない。しかし、お互いの強みを認め合い、尊重し合う関係性が生まれる。

カズヤさんは、まだ道半ばだ。しかし、彼は、新しいやり方を学び始めている。

チームのメンバーが持っている「素材」を持ち寄り、一緒に何かを作る。その過程で、関係性が深まり、新しいものが生まれる。

「共通の敵」ではなく、「共通のパッチ」を縫い合わせることで、カズヤさんのチームは、少しずつ変わっていくだろう。


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