SNS見るたび焦る。「私だけ取り残されてる」という不安

SNS見るたび焦る。「私だけ取り残されてる」という不安

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コラム




開けてしまうSNS


カウンセリングルームに入ってきたアヤコは、少し疲れた表情で椅子に座った。

「今日は、どんなことでお話ししましょうか」

ダイキはいつものように、ゆっくりと問いかけた。

「あの...最近、SNSを見るのが辛くて。でも、見ちゃうんです」

アヤコは少し恥ずかしそうに言った。

「SNSを見るのが辛い、でも見てしまう。そこには何か理由がありそうですね」

「友達の投稿なんですけど...結婚しました、とか、彼氏とディズニー行きました、とか。そういうの見ると、なんか...」

言葉を探すように、アヤコは視線を落とした。

「どんな気持ちになりますか?」

「悔しいっていうか...置いていかれてるっていうか。私は何やってるんだろうって思っちゃって」

アヤコの声は、少し震えていた。

「それで、見た後はどうなりますか?」

「落ち込みます。で、『もう見ない』って思うんですけど...また次の日には開いちゃってて」

そう言って、アヤコは小さく笑った。自嘲的な笑いだった。

いつから始まったのか


「アヤコさんがSNSで友達の投稿を見て辛くなるようになったのは、いつ頃からですか?」

ダイキは、ゆっくりと質問した。

「はっきりとは覚えてないんですけど...去年の秋くらいからかな。友達が3人立て続けに結婚して」

「3人も」

「はい。みんな大学時代の友達で。一緒に『結婚できないね〜』って笑ってたのに」

アヤコはそう言って、また視線を落とした。

「一緒に笑っていた友達が、次々と結婚していった」

「そうなんです。最初の子が結婚したときは、『おめでとう!』って素直に思えたんですけど...2人目、3人目ってなってくると、なんか...」

「なんか?」

「『私は?』って思っちゃって」

その言葉を口にした瞬間、アヤコの目に涙が浮かんだ。

「私、性格悪いですよね。友達の幸せを喜べないなんて」

「性格が悪いかどうか、という話ではないと思いますよ」

ダイキは静かに言った。

「でも...」

「アヤコさんは、友達の幸せを喜びたいと思っているんですよね?」

「もちろんです! 本当は喜びたいんです。でも、素直に喜べない自分がいて...」

アヤコは、ハンカチで目元を押さえた。

比べずにはいられない


少し間を置いてから、ダイキは続けた。

「アヤコさんは、友達の投稿を見たとき、どんなことを考えますか?」

「うーん...『いいな』って思います。幸せそうだなって」

「それだけですか?」

「それだけ...じゃないかもしれません」

アヤコは少し考えてから答えた。

「どんなことも?」

「『なんで私は彼氏もいないんだろう』とか、『この子より私の方が頑張ってるのに』とか...そういうこと考えちゃいます」

そう言って、アヤコは恥ずかしそうに笑った。

「『この子より私の方が頑張ってる』というのは、どういうことですか?」

「仕事、とか。私、けっこう夜遅くまで働いてるんです。でも友達は定時で帰って、彼氏と会ったりしてて。私の方が頑張ってるのに、なんで私には彼氏がいないんだろうって」

「頑張っている自分と、彼氏がいない自分。その2つが、アヤコさんの中でつながらないんですね」

「そうなんです。頑張ってるのに、報われてない感じがして」

アヤコはそう言って、また視線を落とした。

本当に求めているもの


「アヤコさん、質問してもいいですか」

「はい」

「アヤコさんが本当に欲しいのは、何ですか?」

その質問に、アヤコは少し驚いた表情を見せた。

「...彼氏、ですかね」

「本当に?」

「え...?」

アヤコは戸惑った様子で、ダイキを見た。

「もし明日、彼氏ができたとして。アヤコさんの中のモヤモヤは、全部なくなりますか?」

「......」

アヤコは、しばらく黙って考えていた。

「わからないです」

小さな声で、アヤコは答えた。

「わからない、というのは?」

「彼氏ができても...たぶん、また別のことで比べちゃう気がします。友達は結婚してるのに私はまだとか、友達の旦那さんはイケメンなのにとか」

そう言って、アヤコは自分でも驚いたような表情をした。

「今、気づいたことがありますか?」

「私...彼氏が欲しいんじゃなくて...」

「何が欲しいんでしょうか」

アヤコは、しばらく沈黙した。その沈黙は、何かを考えている沈黙だった。

「安心したいんだと思います」

「安心」

「はい。私も大丈夫なんだって、取り残されてないんだって、そう思いたいんだと思います」

その言葉を口にした瞬間、アヤコの目から涙がこぼれた。

取り残される恐怖


「取り残される、というのは、アヤコさんにとってどんな感じですか?」

ダイキは、ゆっくりと聞いた。

「怖いです」

アヤコは、すぐに答えた。

「どんなふうに怖いですか?」

「みんなが先に進んでいって、私だけその場に残されてる感じ。声をかけても届かなくて、どんどん遠くなっていって...」

アヤコは、その光景を思い浮かべているような表情だった。

「それは、とても怖い感じですね」

「はい...。で、SNS見ると、本当にそうなってる気がして」

「SNSが、その怖さを確認する場所になっているんですね」

「そうかもしれないです」

アヤコは、ハンカチで涙を拭いた。

「アヤコさん、SNSを見る前と見た後で、何か変わりますか?」

「見る前は...なんとなく不安です。で、見た後は...もっと不安になります」

「不安が大きくなる」

「はい。でも、見ないと余計に不安で」

「見ないと、何が不安ですか?」

その質問に、アヤコは少し考えた。

「みんながどうしてるか、わからないのが怖いんだと思います。知らないうちに、もっと差が開いちゃうんじゃないかって」

「なるほど。見ても不安、見なくても不安」

「そうなんです。どっちにしても不安で」

アヤコは、困ったように笑った。

比較の正体


「アヤコさん、人はどうして他人と比べてしまうと思いますか?」

ダイキは、少し視点を変えて聞いた。

「え...わからないです。でも、みんなやってますよね?」

「そうですね。人は誰でも、多かれ少なかれ他人と比較します」

「じゃあ、普通のことなんですか?」

「ある意味では。人は、自分の状態を知るために、他人と比較するんです」

「自分の状態を知るため...?」

アヤコは、不思議そうに聞き返した。

「例えば、自分が速く走れるかどうか。それは、誰かと比べないとわかりませんよね」

「たしかに...」

「同じように、自分が幸せかどうかも、実は他人と比べないとわかりにくいんです」

「そうなんですか?」

「はい。問題は、何と比べるかなんです」

ダイキはそう言って、少し間を置いた。

「アヤコさんは、SNSで友達の『良い部分』と、自分の『全部』を比べていませんか?」

「...!!」

アヤコは、はっとした表情を見せた。

「友達の投稿って、楽しいことや嬉しいことが多いですよね」

「そうですね...辛いことは、あんまり投稿しないかも」

「そうすると、友達はいつも幸せで、自分だけが辛い。そんなふうに見えてしまう」

「そうかもしれないです...」

アヤコは、何かを考えているような表情だった。

「でも実際は、その友達にも辛いことはあるかもしれない」

「たしかに...」

「SNSは、その人の一部しか見せていない。それと自分の全部を比べると、どうなると思いますか?」

「...負ける」

アヤコは、小さく答えた。

「最初から、比べられない勝負なんです」

その言葉に、アヤコはゆっくりと頷いた。

過去の自分との出会い


「アヤコさん、少し違う質問をしてもいいですか」

「はい」

「アヤコさんが、他人と比べるようになったのは、最近のことですか?」

その質問に、アヤコは少し考えた。

「...昔からかもしれないです」

「昔から?」

「学生の頃から、成績とか、部活の結果とか、いつも誰かと比べてた気がします」

「そうだったんですね」

「母親が...よく『〇〇ちゃんはできてるのに』って言う人で」

アヤコは、少し苦しそうに言った。

「お母さんが、誰かと比較していた」

「はい。テストの点数とか、習い事とか、いつも誰かと比べられてました」

「それは、どんな気持ちでしたか?」

「苦しかったです。どんなに頑張っても、『〇〇ちゃんはもっとできてる』って言われて」

アヤコの声は、少し震えていた。

「その経験が、今のアヤコさんにも影響してるかもしれませんね」

「...そうかもしれないです」

「当時のアヤコさんは、お母さんから何を求められていたと思いますか?」

「認めてほしかった、んだと思います。私を見てほしかった」

そう言って、アヤコは涙をこぼした。

「でも、いつも誰かと比べられて。私じゃダメなんだって思ってました」

認められたい心


「アヤコさん、今の話を聞いて思ったんですが」

ダイキは、ゆっくりと言った。

「今、SNSで友達と比べているのは、もしかしたら...」

「...お母さんに比べられていた時と、同じ感じなのかもしれないです」

アヤコは、自分で気づいたように言った。

「どんなところが似ていますか?」

「誰かと比べて、自分はダメだって思うところ。それと...」

「それと?」

「認めてほしいんだと思います。私も大丈夫なんだって」

アヤコは、ゆっくりと言った。

「認めてほしいのは、誰に、ですか?」

その質問に、アヤコは少し考えた。

「...自分、かもしれないです」

小さな声で、アヤコは答えた。

「自分に、認めてほしい」

「はい。私も大丈夫なんだって、自分に言ってほしいんだと思います」

「でも、SNSを見ると?」

「ダメだって思っちゃいます。私だけ取り残されてるって」

「そうすると、SNSは...」

「自分がダメだって確認する場所になってるのかもしれないです」

アヤコは、そう言って深くため息をついた。

小さな一歩


しばらく沈黙が続いた。それは、重い沈黙ではなく、何かを消化しているような沈黙だった。

「アヤコさん、これからどうしたいですか?」

ダイキは、ゆっくりと聞いた。

「SNS、やめた方がいいですよね」

「やめた方がいい、と思いますか?」

「でも...友達とのつながりがなくなっちゃうのも怖くて」

「なるほど。じゃあ、全部やめるんじゃなくて、少し距離を取るというのはどうでしょう」

「距離を取る...?」

「例えば、見る時間を決めるとか。朝と夜の2回だけ、とか」

「あ...それならできるかもしれないです」

アヤコは、少し前向きな表情を見せた。

「それと、もう一つ提案があります」

「何ですか?」

「友達の投稿を見たとき、『この人も頑張ってるんだな』って思ってみるのはどうでしょう」

「この人も頑張ってる...?」

「はい。幸せそうに見える投稿も、その裏には努力があるかもしれない。それを想像してみる」

「...そうですね。幸せって、勝手に降ってくるものじゃないですもんね」

「そうです。そして、アヤコさんも頑張ってる」

「私も...?」

「仕事、頑張ってますよね」

「はい...」

「それは、素晴らしいことです」

その言葉に、アヤコは少し驚いた表情を見せた。

「誰と比べるでもなく、アヤコさんは頑張ってる。それは事実です」

「...ありがとうございます」

アヤコは、小さく笑った。今度は、自嘲的な笑いではなかった。

これから


「今日の話で、何か気づいたことはありますか?」

「私...他人と比べることで、自分の価値を測ろうとしてたんだなって」

「そうですね」

「でも、それって終わりがないですよね。誰かより上でも、また別の誰かが出てきて」

「その通りです」

「じゃあ、どうしたらいいんでしょう」

アヤコは、真剣な表情で聞いた。

「アヤコさん自身が、アヤコさんを認めてあげることです」

「自分を、認める...」

「はい。他人がどうであれ、アヤコさんはアヤコさん。その存在自体に価値があります」

「...難しいです」

「そうですよね。でも、少しずつでいいんです」

ダイキは、優しく言った。

「例えば、毎日寝る前に、今日頑張ったことを一つだけ思い出してみる。それだけでも、変わってくると思います」

「今日頑張ったこと...」

「はい。誰かと比べるんじゃなくて、昨日の自分と比べる。それができるようになると、SNSも違って見えてくるかもしれません」

アヤコは、ゆっくりと頷いた。

「やってみます」

「無理しなくていいですからね。できる範囲で」

「はい」

アヤコは、初めて心から笑った。その笑顔は、カウンセリングルームに入ってきたときとは全く違っていた。

最後に


カウンセリングが終わり、アヤコが帰る準備をしているとき、ふと立ち止まった。

「あの、ダイキさん」

「はい」

「今日、来てよかったです」

「そう言っていただけて、うれしいです」

「これから...少しずつ変わっていけそうな気がします」

アヤコは、そう言って深く頭を下げた。

その後ろ姿を見送りながら、ダイキは思った。誰もが、自分の価値を誰かに認めてもらいたいと願っている。でも本当に必要なのは、自分で自分を認めることなのかもしれない。

対話を終えて


このカウンセリングで、アヤコは大きな気づきを得た。

SNSで他人の恋愛が気になるのは、単に「彼氏が欲しい」からではなかった。その奥には、「自分も大丈夫だと安心したい」という願いがあった。そして、その願いの根っこには、幼い頃から「誰かと比べられ続けた」経験があった。

社会的比較は、人間に備わった自然な機能だ。自分の位置を知るために、私たちは他者を見る。でも、SNSという環境は、その比較を歪めてしまう。他人の「良い部分」だけを切り取った情報と、自分の「すべて」を比べてしまうからだ。

アヤコに必要だったのは、SNSをやめることでも、彼氏を作ることでもなかった。「比較の仕方」を変えること。そして、自分自身を認めることだった。

対話の中で、アヤコは何度も涙を流した。それは、心の奥底にあった感情が、言葉になって溢れ出した瞬間だった。

カウンセリングは、答えを教える場所ではない。その人が自分の中にすでに持っている答えに、自分で気づく場所だ。

アヤコは、これからも時々SNSを見て落ち込むかもしれない。でも、その度に今日の気づきを思い出せば、少しずつ楽になっていくだろう。

「自分と向き合う」というのは、簡単なことではない。でも、そこから逃げずに一歩ずつ進んでいけば、必ず景色は変わっていく。

アヤコの一歩は、まだ始まったばかりだ。

あとがき


人が他者と自分を比較するのは、心理学では「社会的比較」と呼ばれる自然な機能だ。でも、SNSはこの比較を歪めてしまう。他人の「良い部分」だけと、自分の「すべて」を比べてしまうからだ。

アヤコに必要だったのは、SNSをやめることでも、彼氏を作ることでもなかった。「比較の仕方」を変えること。そして、自分自身を認めることだった。

もしあなたも同じように、SNSで他人と比べて苦しんでいるなら、こう問いかけてみてほしい。

「私が本当に欲しいのは、何だろう?」 「私は、誰に認めてもらいたいのだろう?」 「そして、私は自分を認めているだろうか?」

答えは、あなたの中にある。



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