「70点でいい」が言えるまで

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この記事はフィクションですが、カウンセラーは実在し個人カウンセリングを提供しています

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ユキコさん(32歳・女性)。新卒で入社した会社で営業を8年務めた後、企画職に転職。しかし転職先で「完璧にできない自分」に耐えられず適応障害と診断され、現在休職中。真面目で責任感が強く、ミスのたびに「私はダメな人間だ」と自分を責めてきた。最近は自信を完全に失い、転職活動も進められずにいる。
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何をやってもダメな気がして

オンラインカウンセリングの画面に映ったユキコさんは、少し疲れた表情をしていた。
ダイキ: こんにちは。今日はどんなお話をしましょうか?
ユキコ: あの...正直、何から話せばいいのか分からなくて。でも、このままじゃまずいなって思って。
ダイキ: まずいって?
ユキコ: 休職して3ヶ月になるんですけど、何もできてないんです。転職活動もしなきゃいけないのに、求人見るだけで気持ちが重くなっちゃって。
ダイキ: 気持ちが重くなる...
ユキコ: はい。どの求人見ても「私にはできない」って思っちゃうんです。営業は8年やったけど結局うまくいかなかったし、企画職も2年で適応障害になったし。何やってもダメなんだなって。
ユキコさんは自嘲するように笑った。その笑顔が痛々しく見えた。
ダイキ: 何やってもダメ、か。8年と2年、合わせて10年働いてきて、そう感じているんですね。
ユキコ: そうですね...10年って聞くと長いですけど、結果が出せなかった10年なんです。営業の時も目標達成できたのって最初の2年くらいで、あとはずっと下位グループでした。
100点じゃないと、どうなる?
ダイキ: 目標達成できなかった年もあった、と。それでユキコさんは、どう感じていたんですか?
ユキコ: もう...情けなくて。周りはちゃんとできてるのに、私だけできてない。上司からも「もっと頑張れるはずだ」って言われて。でも、私なりに必死だったんですよ。
ユキコさんの声が少し震えた。
ユキコ: 毎日遅くまで残って準備して、休みの日も営業の勉強して。でも結果が出なくて。で、企画職に転職したら、今度は「完璧な資料」を求められて...
ダイキ: 完璧な資料?
ユキコ: はい。誤字脱字があったら大問題だし、数字が一つでも違ったら信用を失うし。チェックしてもチェックしても不安で、何度も何度も見直してたんです。でも、どんなに注意しても、ミスって出ちゃうんですよね。
ダイキ: ミスが出ると、ユキコさんの中で何が起きるんでしょう?
ユキコ: え...?
ダイキ: つまり、ミスをした時に、ユキコさんは何を感じるのかなって。
少し間があった。ユキコさんは視線を落とした。
ユキコ: ......怖いです。
ダイキ: 怖い。
ユキコ: はい。ミスをすると、「やっぱり私はダメなんだ」って思っちゃって。周りからもそう思われてるんじゃないかって。実際、上司から呼び出されて注意されることもあったし。
ダイキ: なるほど。じゃあ、ユキコさんにとって、仕事って100点じゃないとダメなんですか?
ユキコ: そうですね...100点じゃなかったら意味ないって思ってます。
ダイキ: 100点じゃないと、どうなると思います?
ユキコさんは少し考えてから、小さな声で答えた。
ユキコ: ......怒られる、かな。いや、今の上司は優しかったんですけど。でも、昔の上司は厳しくて。
ダイキ: 昔の上司、というのは?
ユキコ: 営業の時の最初の上司です。完璧主義の人で、ちょっとのミスも許さなくて。「なんでこんな簡単なこともできないんだ」って、よく言われました。
その言葉を口にした瞬間、ユキコさんの目に涙が浮かんだ。

母の期待、私の価値

ダイキ: 簡単なこともできない...その言葉、すごく傷ついたんじゃないですか?
ユキコ: はい...でも、それって事実だから。私、本当に仕事ができなかったんです。
ダイキ: 仕事ができない自分は、価値がない?
ユキコ: ......そうですね。役に立たない人間だなって。
ダイキ: ユキコさんが「役に立たない」って感じる基準って、いつから持ってるんでしょうね。
ユキコ: え...?
ダイキ: つまり、100点じゃないとダメ、完璧じゃないと価値がない、っていう考え方。それって、いつ頃から持ってたのかなって。
ユキコさんは少し考え込んだ。
ユキコ: ......昔からかもしれません。小学生の頃から、テストで100点取れないと、母が「どうしてできなかったの?」って聞いてきて。
ダイキ: お母さんが。
ユキコ: はい。母は教育熱心で、私に期待してたんです。「あなたならできるはず」って。だから、90点でも、「あと10点はどうして取れなかったの?」って。
ユキコさんの声が震えた。
ユキコ: 100点取った時だけ、褒めてくれたんです。「すごいわね」って。だから私、いつも100点を目指してました。100点じゃないと、お母さんに認めてもらえないから。
涙がユキコさんの頬を伝った。
ダイキ: 100点じゃないと、認めてもらえない...
ユキコ: はい。でも、大人になってからは、100点なんて取れないじゃないですか。仕事って、正解がないことばかりで。どんなに頑張っても、完璧にはできなくて。そうすると、「やっぱり私はダメなんだ」って。
ダイキ: 100点が取れない自分は、認められない。
ユキコ: そうです...だから、もう疲れちゃって。何をやっても100点にならないなら、やる意味ないんじゃないかって。

失敗じゃなくて、データなんだ

ダイキ: ユキコさん、一つ聞いてもいいですか? 100点じゃなかった時のこと、全部覚えてます?
ユキコ: え...?全部は覚えてないですけど...
ダイキ: じゃあ、営業で目標達成できなかった年のこと。どんな失敗があったか、具体的に覚えてますか?
ユキコ: うーん...正直、あんまり。ただ、「達成できなかった」っていう事実だけが残ってる感じです。
ダイキ: そうなんですね。じゃあ、企画の資料で指摘されたミス。どんなミスだったか、全部覚えてますか?
ユキコ: それも...覚えてるのは、「ミスをした」っていう感覚だけです。何が間違ってたかは、あんまり。
ダイキ: つまり、具体的な内容よりも、「私は失敗した」「私はダメだ」っていう感情だけが強く残ってるんですね。
ユキコ: ......そうかもしれません。
ダイキ: ユキコさん、もし失敗を「ダメ出し」じゃなくて、「データ」として見たらどうでしょう?
ユキコ: データ...?
ダイキ: はい。例えば、目標達成できなかった年があったとして。それを「私はダメだ」って反省するんじゃなくて、「このやり方ではうまくいかなかった」っていう情報、データとして蓄積する。
ユキコ: ...データ。
ダイキ: そうです。仕事って、正解がないことが多いじゃないですか。だから、何が「ちょうどいい」のかって、経験を積んで感覚を掴んでいくしかないんです。
ユキコさんは少し考え込んだ。
ユキコ: でも、それって...失敗を認めるってことですよね?
ダイキ: 失敗を認めるというより、「このやり方は、私には合わなかった」っていう事実を認識する、って感じかな。それが積み重なると、「じゃあ、次はこうしてみよう」って方向が見えてくる。
ユキコ: ......そうなのかな。
ダイキ: ユキコさんは、一度の失敗に対して、すごく深く自分を責めてきたんじゃないですか? 「私はダメだ」「私には価値がない」って。
ユキコ: はい...それが当たり前だと思ってました。
ダイキ: でも、それって、エネルギーをものすごく使うことなんです。毎回毎回、自分を責めて、反省して、落ち込んで。そのサイクルを繰り返してると、疲れちゃいますよね。
ユキコ: ......確かに。疲れました。もう、何も考えたくないくらい。

70点でも、十分なんだ

ダイキ: ユキコさん、もし仕事で70点だったら、どう思いますか?
ユキコ: 70点...?それは、ダメですね。
ダイキ: どうしてダメなんでしょう?
ユキコ: だって、100点じゃないから。まだ30点も足りない。
ダイキ: じゃあ、その30点を埋めるために、ユキコさんはどれくらいのエネルギーを使いますか?
ユキコ: え...?
ダイキ: つまり、70点を100点にするために、どれくらい頑張らないといけないか、ってことです。
ユキコさんは少し考えた。
ユキコ: ......すごく、頑張らないといけないと思います。徹夜したり、休みを削ったり。
ダイキ: そこまでして100点にする必要、本当にありますか?
ユキコ: え...?
ダイキ: 70点で十分な場面って、ありませんか? 100点を目指すことで、ユキコさんが疲れ切ってしまうなら、70点でいい、って自分に許可を出すことも必要なんじゃないかな。
ユキコさんは黙って考え込んだ。長い沈黙が流れた。
ユキコ: ......70点でいい、か。
ダイキ: はい。
ユキコ: でも、それって...甘えじゃないですか?
ダイキ: 甘えだと思います?
ユキコ: だって、100点を目指すのが普通で、70点でいいなんて、手を抜いてるってことじゃ...
ダイキ: ユキコさんは、これまでずっと100点を目指してきて、どうでしたか?
ユキコ: ......疲れました。もう、限界です。
ダイキ: そうですよね。じゃあ、70点を目指すっていうのは、手を抜くことじゃなくて、自分を守ることなんじゃないですか?
ユキコさんの目に、また涙が浮かんだ。
ユキコ: 自分を...守る。
ダイキ: はい。100点を目指し続けることで、ユキコさんは自分を追い込んできた。でも、70点でも十分な場面はたくさんあります。そして、70点でも、ユキコさんには価値がある。
ユキコ: ......70点でも、価値がある。
ダイキ: そうです。お母さんは、100点の時だけ褒めてくれたかもしれない。でも、今のユキコさんは、100点じゃなくても、十分価値がある人なんです。
ユキコさんは声を押し殺して泣いた。
ユキコ: ......そう思えたら、どんなに楽か。
ダイキ: 今は、まだ思えないですか?
ユキコ: はい...でも、少しだけ、分かる気がします。70点でいい、って。

小さな一歩から

ダイキ: 今日、ユキコさんがここに来て、話してくれたこと。それは何点くらいだと思いますか?
ユキコ: え...?
ダイキ: つらい気持ちを抱えながら、カウンセリングを受けに来た。それ自体、すごく勇気がいることだったと思うんです。
ユキコ: ......そうですね。正直、来る前はすごく不安でした。
ダイキ: でも、来てくれた。それだけで、十分じゃないですか?
ユキコさんは少し考えてから、小さく笑った。
ユキコ: 70点...くらいでしょうか。
ダイキ: いいですね。70点でも、十分です。
ユキコ: はい...なんだか、少し楽になった気がします。
ダイキ: これから、ユキコさんはどうしていきたいですか?
ユキコ: ......まずは、70点でいいって自分に言えるように、練習してみたいです。転職活動も、完璧な準備ができなくても、少しずつ始めてみようかなって。
ダイキ: 素敵ですね。焦らず、ユキコさんのペースでやっていきましょう。
ユキコ: はい。ありがとうございます。
画面の向こうで、ユキコさんは少しだけ、柔らかい表情になっていた。


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