こんにちは!読書コンサルタントの岬季です。
今、どの書店にも並んでいる『イン・ザ・メガチャーチ』という作品。
読まれた方も多いのではないでしょうか?こちらは2026年の本屋大賞作品となります。
圧倒的に!!面白かった!!読み終えたあと、最後の見返しまでずっと面白い。
確信犯で、策士で、エンターテイナーな朝井リョウさんを存分に楽しませていただきました。バケツいっぱいの冷や水を楽しくぶち撒けながらも、構造や共同体を鋭く見つめる眼差しがヒシヒシと伝わってくる『イン・ザ・メガチャーチ』。時代を反映する本屋大賞にふさわしい作品です。
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ですので、少し時間が経ちましたが、今年の本屋大賞への考察とそれぞれの感想をここに書き留めます。
発表までのライブ感の中で全作読み切った一員として、言語化しないわけにはいかないと思いました。
よければぜひお読みください。
ネタバレちょっとだけありますのでご注意を!
◼️今年の目玉は『ミステリ』?
本屋大賞には、まず一次投票でノミネート作品10作が選ばれます。この10作は、どの書店でも大きくプッシュされることになります。
そのラインナップを見てびっくりした人も多いはず。
それぞれの特徴を話すと,,
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【イン・ザ・メガチャーチ/朝井リョウ】←社会派エンタメ
【熟柿/佐藤正午】←半生を綴る随筆
【PRIZE/村山由佳】←作家メタなエンタメドラマ
【エピクロスの処方箋/夏川草介】←医療ドラマ
【暁星/湊かなえ】←ミステリ(実は純愛小説)
【殺し屋の営業術/野宮有】←ノワール小説、ミステリ
【ありか/瀬尾まいこ】←子育て日記小説
【探偵小石は恋しない/森バジル】←探偵もの、本格ミステリ
【失われた貌/桜田智也】←警察・本格ミステリ
【さよならジャバウォック/伊坂幸太郎】←ミステリ(と言えなくもない)
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と、ミステリの作品がその半分を占めています。例年なら10作のうち1、2作ほどにミステリは留まっていたはず。(去年のノミネートも、ミステリと言えるのは『禁忌の子』のみでした)
「なんか凄い!ミステリの何かが流行ってるのか!?!?」と思い読んでみると、この5作品の特徴はびっくりするくらいバラバラでした。
まず、『失われた貌』は硬派でド直球な警察小説。そして『探偵小石は恋しない』は巧妙な叙述トリックとライトなキャラクターが楽しい探偵もので、どちらも「本格ミステリ」の枠で捉えて差し支えないでしょう。
『殺し屋の営業術』は、ミステリというよりもノワール小説ですが「どう稼ぐか」を通底した謎としているし、何よりもミステリ作家の登竜門・江戸川乱歩賞を受賞しています。
『暁星』は、イヤミスの女王・湊かなえの圧巻の構成術。最後まで読み切るとミステリというよりは情緒あふれる恋愛小説の側面も。また『さよならジャバウォック』は長編ミステリを謳いながらも、事件が全て解決したとか謎が解けたというわけではなく、伊坂らしい物語のオチとメッセージのある怪作でした(伊坂読まない人が読んだらビビる)。
◼️「ミステリブーム!!」というわけではない。
この令和の時代、新たにホラーブームがおとずれているとエンタメ業界の人は口をそろえます。
たしかに書籍でも「変な家」や「近畿地方のある場所について」の流行が目にとまりますし、視野をひろげるとテレ東の「TXQフィクション」、他にも「行方不明展」「8番出口」なども目新しい。直接的な恐怖というより「不気味さ」「不安」といった雰囲気的な恐怖を楽しむカルチャーが、加速度的に広がっているように思います。また、ホラーと近い体験型という点で、リアル脱出(謎解き)の流行なんかも、同じ潮流での広がりを感じます。
「ホラー」「謎解き」といったジャンルがより一般的に触れられるようになった昨今、それらと強い結びつきのある「ミステリ」ジャンルも、より一般的に読まれるようになったのではないでしょうか。
少し前になりますが、昨年文庫化した「方舟/夕木春央」もまた、ミステリが多くの人に行き渡るきっかけとなった絶大な威力ある1冊でした。
しかし。だからといってこのムーブメントが今回のノミネートに影響したかと言われると、また違うように思います。相関しているけど、これらは直接的には関連していない。なぜなら、この5作には共通して令和のJホラーの特徴である「ホラー」「不気味」の要素が欠けているからです。(強いていえば「失われた貌」はやや「不気味」で押されていた気もしますが)
であれば、これらの作品は、なぜ一挙にノミネートしたのでしょうか。
それは本屋大賞の属性から察するに、シンプルに「面白かったから」と考えるのが自然です。
◼️「性格の良さ」への飽き- 「優しさ」から「楽しさ」へ-
いったん翻って、大賞の『イン・ザ・メガチャーチ」』を考えてみましょう。例年の本屋大賞作品と比較して、この受賞に率直に思ったことがあります。
それは「久しぶりに性格が良くない本が獲った!!」という驚きです。非常にくだけた言い回しで申し訳ない。そして朝井リョウさんが性格が悪いと思ったことはないです。(ほんとか?)ですが、そう感じた方も多いのではないでしょうか。「なんか例年と全然雰囲気違くないか!?性格悪いよこの本」と。
ここ数年の本屋大賞受賞作と比べてみましょう。
例えば『かがみの孤城』『52ヘルツのクジラたち』は傷をケアし再生する物語ですし、『汝、星のごとく』『カフネ』は経済格差やマイノリティの受ける抑圧を連帯で支え合う物語でした。『同志少女よ敵を撃て』『成瀬は天下をとりにいく』は、前向きに活躍する女性に、励ましを感じる物語です。
いずれにおいても凄まじく「優しい」。つまり「性格が良い」印象の作品たちです。このおかげか、ここ数年の本屋大賞を追っている人にとって本賞は、社会の隅に目を向ける賞、悩んでいる者や苦しんでいる者を励ます前向きな賞のような、前向きなメッセージ性のニュアンスを感じていた人も多いのではないでしょうか。
だが『イン・ザ・メガチャーチ』、これは違う。読後の方はわかるかと思いますが、本作はこの例から大いに漏れています。
◼️この転換はなぜ起きたのか
社会に目を向けてみると、ここ数年にそんな「優しい」小説たちが求められたのは、コロナ禍の影響があったように思います。
人が抱えている苦しさに親身に寄り添う。お互いの不幸を比較したり笑い合っている場合でなく、「共感」して共に涙を流すこと。マジョリティの楽しみのためにマイノリティを消費しないこと。
これらは本屋大賞が純粋な文学の賞というよりも「本屋さんとして何を世の中に売りたいのか」がテーマであるが故に、そんなメッセージ性を帯びていったのだと考えられます。
そんな空気感がこの数年の本屋大賞で醸成したのは、「令和」という新しい時代に価値観が広まっていっただけでなく、未曾有の大災害の中で立ち直ろうとする力学があったからだと考えられます。
しかし、今はどうでしょう。時代は大きく変わりつつある。
コロナ禍の不安を「何もしてはいけない」という消極的不安とするのであれば、昨今のロシア-ウクライナ戦争やイスラエル-イラン紛争を前に、「何かをしなければならない」という、積極的な焦燥を人々が取り巻いています。
あの時、煉獄杏寿郎の死に人々は涙を流していました。しかし今となっては五条悟の死に、むしろ人々は興奮を覚えていたように思います。(これは関係ないかもですね)
まあ少なくとも、『イン・ザ・メガチャーチ』は竈門炭治郎には読ませられません。
困難や苦しみを優しさにケアするのでなく、それをどうにか楽しさに昇華できないかと、そんな欲求が以前よりも表に出しても良くなったのではないでしょうか。先に取り上げたホラーブームも同様、消極的な不安が減ったからこそ、不気味さを楽しもうというアクティブなモチベーションから生まれているように思います。
この社会の空気感は、少しばかりは書店員たちの投票基準や動機に影響を及ぼしているのではないでしょうか。「優しさ」よりも「楽しさ」へ。物語にケアでなく興奮を期待するようになったことを踏まえれば、ミステリが多くノミネートされていることにも納得です。
◼️改めて問い直す「家族」の再生
今回、『イン・ザ・メガチャーチ』と並ぶ僅差で2位になった佐藤正午の『熟柿』。この2作品、共通しているテーマとして、「家族の『破壊』と『再生』」があります。
まず『イン・ザ・メガチャーチ』の主人公・久保田は、離婚をして九州から東京に単身赴任。月に1度許された娘とのビデオ通話も冷え切っている冒頭。しかしそこからメイクをきっかけに家族とコミュニケーションが取れるようになっていきます。
そして『熟柿』の主人公・かおりは、轢き逃げによる獄中出産ののち、離れ離れになった家族に贖罪をするための十数年を過ごします。そして最後に、息子と再会を果たします。
※「メガチャーチ」では、最後に最悪の形で家族の絆が壊れますが、しかしこの物語の後を考えるに、そこには再び「再生」していくしかない未来があるとも言えます。
両作共に、家族の間には大きなすれ違いと、距離、時間が横たわっています。そして、埋めることのできない罪と後悔も。しかしそれでも「血の繋がった家族はその人以外にはいない」という事実を通して、再生が始まるまでの永き過程をどちらともが描いています。
また、昨年の本屋大賞『カフネ』や2021年大賞『52ヘルツのクジラたち』が、血の繋がらない新しい家族の形を模索しているのに対し、今回の2作品はどちらも血縁に頼った、原初からある家族の繋がりを問い直しているようにも思います。
◼️総評:新しさより、前からずっとあるものの良さを問い直す
改めて血縁の形の家族を問い直すのは『メガチャーチ』『熟柿』だけではありません。瀬尾まいこの『ありか』も、特殊な家族のあり方を描く瀬尾まいこ作品にしては珍しい、ストレートな子育て日記です。
古き良きという点では、真っ直ぐな警察小説だった『失われた貌』も伝統的なスタイル。また『エピクロスの処方箋』は、働き方改革の負荷に耐えられない医療現場で、むしろ属人的な仕事がかけがえのない価値を生み出すことを描いています。
それらの面を踏まえると、新しく発展する文化や価値観に疎かにされないように、昔からあるものの価値をまた少し肯定してあげる。
そんな雰囲気が今回の本屋大賞全体から見て取れるように自分は感じました。