久しいね 友よ
あれから数十年 君と過ごした日々は
今も昨日のことのように色褪せない
あの頃のように 野山に河海にと
共に駈けることは叶わぬやもしれぬが
その優しい笑顔に再会し 語らう幸せに
心からの感謝を贈りたいんだ
友よ ありがとう
私の生まれ育った所は、野山に河海と
豊かな自然の恩恵に満ちた、実に穏やかな村であった。
小学に入学するまでは、父は出稼ぎで不在
母とは幼少期に別離していたため、祖父母と暮した。
お嬢様育ちの祖母は、家事などがあまり得意ではない。
事故の後遺症から足腰が少々不自由であったから
家事や家業の手伝いと祖母の介助は私の日課であった。
今でいう、ヤングケアラーと云えるだろう
日々の生活に、辛いとの思いはなかったが
周囲の心無い言葉に傷つき、ふっと寂しさを覚えることがあった。
そんな私にも、寂しさなどを忘れて思いっきり楽しい時を共に過ごす
大切な友人が一人いた。
彼の案内で一緒に野山や河海を駈け巡り
海を一望できる、とびっきり眺めの良い場所
山菜に果実、美味しい実のなる所、薬にもなる植物
雲丹や鮑に蟹、豊富な魚介類が獲れる穴場
冷たくておいしい湧水に温泉の湧く河など
様々な事を教わったり、何でも語り合い、いつも一緒に居てくれる。
彼と過ごす時間は、私にとって毎日の楽しみであった。
この彼との日々は、私が高校進学の為
一時、実家を離れることになるその日まで続いた。
あれから数十年経った今も、彼と過ごした日々の記憶は
色褪せることなどなく、昨日のことのように鮮明だ。
彼は、スラリと背が高く、意志の強そうな切れ長の眼に
土地の海が時折見せるような、藍灰色の瞳という
端正な顔立ちの青年で、肌は陶器のように透き通るように白かった。
この大切な友人の事を知るのは私だけだ。
誰も彼の姿を見ることが出来なかったから...