熱帯夜でエアコン無いの

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コラム
漫画家の赤塚不二夫さんは、駆け出しの頃はお金が無いし、その頃、昭和30年代はエアコンなどと言う洒落た家電は一般家庭には無かった。
でも、真夏の暑さは現代とあまり変わらないし夜は熱帯夜になって寝苦しい。
そこで思いついたアイディアは大きな石を拾って来てそれを細い紐で吊るす。
石は凄く重い、紐は細い。
今にもちぎれそうだ。
それを天井からぶら下げてその下に赤塚さんは座る。
いつ、細い紐が切れて自分の頭に直撃するか分からない。
非常な緊張と恐怖で暑さどころではない。
これが熱帯夜を涼しくする方法だと紹介していた。
命を懸けての涼をとる方法だが万人向けでは無いようだ。

人間は恐怖を感じると体が冷える事を利用して怪談の話がある。

越中の国、江戸時代の或る夜、薬草栽培を生業にしている文蔵と言う男が山の中腹にある小高い丘に建つ山の神社に奉納品を携えて向かった。
嫁が産気づいて明日の早朝に生まれると産婆さんが言うので安産の祈願の為に文蔵は丑三つ時の真夜中に山の神社に向かった。
村の郷道は何時も歩き慣れた道だが、登るにつれて段々と道が険しくなる。
草の伐採も十分では無いのでの文蔵の膝くらい迄あるカヤ、ススキなどの雑草をかき分けて蝋燭の光の行灯提灯の光で突兀とした石の階段を登って行った。
神社まであと一登りと言うことろ迄来た時に何かの気配を感じた。
気配と言うよりも、周りが何だか霧に包まれたように見えた。
文蔵は立ち止まって鬱蒼と茂る雑草の土手と雑木林の向こうを見渡した。
真っ暗な、その木立の向こうに何やら薄い光が見えた。
文蔵は提灯の光をかざして見ようとしたが良く見えない。
その光は段々と光を増して来た。
霧のような茫漠とした塊がだんだんと輪郭を鮮明にしてきた。
そこに現れたのは旅姿の手甲脚絆と編み笠を被った若い女が髪を振り乱している姿だった。
膝から下は雑草で良く見えないが脚絆は見えた。
文蔵はギョッとした。
出たー!と文蔵は叫び声を上げたが恐怖の為にかすれ声がやっと出ただけだった。
文蔵は腰を抜かしてその場に座りこんだ。
やがて女が喋り出した。
私は100年位前に甲斐の国から旅の途中、此の地で山賊から襲われ逃げる時に後ろから刀で切られて息絶えたのです。
と言って背中を向けた。
首から腰に掛けて生々しい刀傷が見えた。
息絶えた私を発見した村人達が不憫に思って。
お地蔵を立てて弔って呉れたのです。
やがて祠を建てて貰い、今この神社に収まり村の守護神として鎮座しておりますと言った。
でも、もう一度私はこの大地の上で呼吸をし、生きたいと言う強い願いがあるのです。

私の国、甲斐の国に薬草を売りに来た旅商人の九次郎と言う男の人と私は恋仲になったのです。
暫くの期間甲斐の国で商売をしておりましたが、その間ずっと私は一緒に居て幸せでした。
結ばれたいと強く思って居ました。
薬草商売人の九次郎さんも国に帰る時は一緒に帰って嫁にすると言っていたのです。
しかし、商いの期間が過ぎると九次郎さんは私を残して消えたのです。
私は悲しみの、どん底で毎日泣いて暮らしておりましたが、九次郎さんは自分は越中の国の者だと言っていたのを思い出し、越中の国に行けば会えるかもしれないと思い、居ても立っても居られなくなって甲斐の国を旅立ったのです。
しかしこの地で山賊に命を奪われたのです。
と女は言ってそのまま消えた。
神社の屋根の一番上にとまっていた、ふくろうが暗闇の中でホーッホーッと鳴いた。
後にはザワザワと草を鳴らす風が吹いているだけだった。
文蔵は神社に奉納品を納める事も忘れて転げるように逃げるようにして家に帰って来た。
その、翌朝、玉のような可愛い赤ちゃん女の子が誕生した。
安産だった。
産湯を使い産着を着せて母親に抱かれている姿を文蔵は初めて我が子と対面した。
それまでは、生まれたての赤ちゃんの世話で産婆さんやお世話の人達が忙しく
動き回り男が立ち入る事は憚られた。
だから今こうして初めて対面したのだ。
嫁がポツリと言った。
この子の首から背中に掛けて何か刀か何かで切られたような傷があるのよ。
傷の痕であって生傷では無いから騒ぐ必要はないけども。
赤ちゃんの背中を見ると、あの山の神社の所で女の幽霊が背中の刀傷を見せたその傷と全く同じだった。
その時、文蔵の頭の中にあの女の幽霊の声が聞こえて来た。
しかし、その声は今、生まれたばかりの赤ちゃんから発されているようだった。
私は、100年目にして、とうとう貴方を見つけました。
まさか、私が祀られている神社の寒村に貴方が居たなんて。
私は二度と離れませんと声が聞こえた
今世では貴方の子供として私を愛して下さい。
私を慈しんで下さいと言った。
あの時の薬草旅商人の九次郎さんは貴方です。
この時をどんなに待ち焦がれていたか。
女の凄まじい情念が炎と化し嗚咽の声が吹き付けて来た。
あの時、神社の所で貴方を見た時は未だ、貴方があの時に九次郎さんとは分かりませんでしたが、フクロウの神様が教えてくれたのです。
だから、神様に頼んで貴方の子供として生まれて来たのです。
さきに赤ちゃんに宿っていた魂に事情を話すと快く席を譲ってもらったのです。
それは、生まれたての赤ちゃんの存在から来た念だった。
文蔵の生業は薬草の栽培だ。
文蔵の前世は薬草の商売人だった。
だから文蔵は今世でも薬草に知識や興味の憧憬が強かったのだ。
女の執念は文蔵の子供になって前世の思いを遂げたのだ。






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