第二話 連絡

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●2.連絡
 「いらっしゃいませ」
いつものように丘乃は客を出迎えていた。
「丘乃先生、久しぶりです」
アラフォーと思われる女性がニコニコしながら入ってきた。
「松田さんですか。まぁ、お掛けになってください。その後、旦那さんとの関係は良くなりましたか」
「はい。先生のアドバイス通りにしていたら、段々主人の態度が変わってきて、先日、産婦人科に行ったら妊娠3ヶ月だと言われました」
松田はデカい尻で座席を埋めていた。
「先生も繁盛しているみたいじゃないですか」
「まぁ、ぼちぼちです。最近ではネットの鑑定が多いので、店は閉めようかと思ってまして」
「あら、やめちゃうの。あたしはこのお店の雰囲気が大好きで、落ち着くのよ」
「それで今日は報告に来たのですか」
「それがね。今度主人がブラジルに転勤になるんだけど、先行きどうなるかと思って…、ついて行った方が良いかしら」
松田はそう言うと、掌を差し出した。丘乃は彼女の掌を丹念に見ていった。
「あぁ、旅行線が長く伸びてますね。海外移住をするとことであなたの運も開けるようです」
「移住ですか。それはちょっとハードルが高いですよ」
「無理にとは言いません。でも前回に比べて希望線も濃くなってきています。何か夢や希望が叶う可能性が非常に高いです」
「希望線ですか。学生の頃は海外の手話に関心がありまして、手話で国際交流ができるんじゃないかって思ってましたけど」
「たぶん、海外の手話で活躍が期待できます」
「でも、子供が生まれてからでないと」
「あぁ、運命線で見てみると、40歳以降の運気がどんどん強くなっているので、子供さんの乳児期が過ぎてからでも良さそうです」
「そうですか。それなら、当初は主人が単身赴任で、後からあたしが行くという形でもよいのね」
「はい」
丘乃が言うと松田の瞳に明るさが増してくるような雰囲気があった。
 ちょうどその時、店の古風な黒電話の呼び鈴がなった。
「あら、先生も結構忙しそうね」
「何かのセールスの電話でしょう。私にとっては目の前のお客様が第一ですから。放って置きましょう」
丘乃は電話に出ようとはしなかった。程なく、呼び鈴は鳴り止んだ。
 「先生、今日もまた最高のアドバイスをいただいたようです。ありがとうございます」
「いえいえ。お役に立てて、こちらも嬉しい限りです」
「それじや、子供が生まれたら、また来るわね」
松田は微笑みながら店を出ていく。丘乃は彼女の後姿を満足気な視線で見送っていた。
 また黒電話の呼び鈴が鳴った。
「はい、丘乃手相鑑定所でございます」
渋い顔で受話器を握る丘乃。
「先生、新しい仕事のオファーは取り消しにっていうか。詐欺まがいの会社で、断ったら、あやしい人たちにつけられて自宅も見張られているんです」
「神倉さんですよね。とにかくうちの店に来てください。あぁ。ちょっと待った。新宿駅南口に最近できたシカゴ発のバーガーショップに来てください。その方が安全が確保できます」
「わかりました」
神倉の声は小刻みに震えていた。
 「何くわぬ顔をしてトイレに行き、そこからまた電話してください」
二人向かい合わせのテーブル席にいる丘乃は、カウンター席に座っている神倉にスマホで語りかけていた。神倉はアイスカフェラテを飲み干すと、立ち上がりトイレに向かった。しかし店内の表示がわかり難かったので、店員に聞いていた。すると神倉の動きを目線で追うカウンター席の男が、店員と目が合ったので、すぐにそらしていた。神倉は店員に案内されてトイレに向かった。
 「今、店外のビルの共用トイレですけど」
「そのまま店内に戻らず、非常階段で地下の駐車場に行き、12番に停まっている車の所まで来てください」
丘乃は、そう言うとすぐに立ち上がり、店の正面口から出て行き、エレベーターで地下に向かった。
 車のドアが閉まった。
「あそこのトイレが店外にあることは、あまり知られてないので、これで大丈夫です」
丘乃が静かに言うと、神倉はほっとした表情になった。丘乃はエンジンをかけアクセルをゆっくりと踏み込んでいた。

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