「言えない」「言い過ぎた」の繰り返しをなくす——職場のコミュニケーションを変えるアサーション入門

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ビジネス・マーケティング
「ミーティングで意見を言おうとしたら、なぜかいつも言い出せずに終わってしまう」
「指摘したつもりが、気づけば相手を追い詰めていた」
「部下が本音を言ってくれない。何を考えているのか、全然わからない」

管理職や人事担当者の方から、こういった声をよく耳にします。

こうした悩みの多くは、コミュニケーションの"スキル不足"ではなく、コミュニケーションの"スタイルの問題"から来ていることが多い。その核心にあるのが、**アサーション(自己主張)**という概念です。

臨床心理士として、リワーク施設・企業研修・メンタルヘルス支援の現場で10年以上、職場のコミュニケーション課題と向き合ってきました。今日は、研修でお伝えしている内容をもとに、アサーションの本質と実践のポイントをご紹介します。

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**この記事はこんな方におすすめです**
- 管理職・チームリーダーとして、部下との対話に悩んでいる方
- 「言いにくいことが言えない」「言い過ぎてしまう」を繰り返している方
- 職場の心理的安全性を高めたい人事・産業保健担当者の方
- ハラスメント予防やコミュニケーション研修の導入を検討している方

**この記事で得られること**
1. 「攻撃的」「非主張的」「アサーティブ」の3タイプを理解し、自分のパターンに気づける
2. アサーションがなぜ職場の生産性とメンタルヘルスに直結するかがわかる
3. 今日から使える「アサーティブな伝え方」の実践ポイントを持ち帰れる

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## コミュニケーションの悩みは、職場で最も多いストレス源のひとつ

コミュニケーションに関する悩みは、職場において継続的かつ深刻な課題です。

2021年に実施されたWEBアンケート(対象:20代〜50代の男女690人)でも、「対人関係に関するストレス」が職場の悩みの上位に挙げられています。「自分の意見を遠慮して言えない」「人の誘いや依頼を断れない」「自分から物事を頼むのが気が引ける」——こうした声が、多くの職場で共通して見られます。

興味深いのは、こうした悩みは「コミュニケーションが苦手な人」だけに起きるわけではないということです。むしろ、**責任感の強い管理職ほど、言いたいことが言えずに溜め込んでいる**ケースを、研修の現場でよく見かけます。

「部下に嫌われたくない」「怒ったと思われたくない」「場の空気を壊したくない」——そういった配慮が、いつの間にか「言わなかったこと」として積み重なっていく。

逆に、プレッシャーがかかった瞬間に「言い過ぎてしまった」と後悔するケースもあります。この二つの経験を行き来している方は、少なくないのではないでしょうか。

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## 3つのコミュニケーションタイプ——どれが「自分のクセ」ですか

アサーションを理解するうえで、まず「3つのコミュニケーションタイプ」を知っておくことが大切です。

### ① 攻撃的タイプ(Aggressive)

**「自分のことが最優先」のスタイルです。**

自分の意見や意図を、相手の気持ちや状況を考慮せずに押し通しやすい。「これが正しい」「普通こうするものだ」という思い込みが強く、相手が萎縮したり関係が壊れたりすることがあります。

本人に悪意があるケースは少ないのですが、「強い人」「怖い人」として認識されやすく、部下が本音を言えない環境を作りやすい。ハラスメントの問題が起きやすいのも、このタイプが無自覚に相手を追い詰めているケースです。

### ② 非主張的タイプ(Non-assertive)

**「相手のことを優先する」スタイルです。**

自分の意見や感情を後回しにし、「迷惑をかけたくない」「断ることは失礼だ」と感じやすい。気が利いて優しい印象を持たれることが多いのですが、蓄積されたフラストレーションが突然爆発したり、心身の疲弊につながったりすることがあります。

研修の現場でよく見るのですが、「職場でのストレスが限界に来た」という方の話を聞くと、このタイプの方が多い印象があります。自分の感情を押し込むことに慣れすぎて、「今、しんどい」という自分のサインに気づきにくくなっているのです。

### ③ アサーティブタイプ(Assertive)

**「自分も相手もどちらも大切にする」スタイルです。**

自分の気持ちや意見をきちんと表現しながらも、相手の気持ちや権利を尊重します。「言いたいことを言える人」というより、「どう伝えれば相手に届くかを考えられる人」という方が正確かもしれません。

アサーションとは、「押しつける」でもなく「黙って従う」でもなく、**対話を通じてお互いが納得できる着地点を探す姿勢**のことです。

研修のチェックシートで自分のタイプを確認すると、「あ、自分は思っていたより非主張的だ」「攻撃的になりやすいな」と気づく方が多くいます。どのタイプが良い・悪いではなく、まず「自分のクセ」を知ることが出発点です。

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## アサーションがなぜ職場に必要なのか——生産性とメンタルヘルスの両面から

アサーションは単なる「コミュニケーションのマナー」ではありません。職場の生産性とメンタルヘルスに、直接かかわるスキルです。

**伝え方が変わると、時間と質が変わります。**

たとえば、会議で誰も反対意見を言えない空気があると、後から問題が発覚して何度も修正が発生します。上司への報告をためらう文化があると、トラブルの発見が遅れます。「みんな黙っていたから大丈夫だと思った」——そういった事態が、職場では繰り返し起きています。

一方、メンバーが安心して意見を言える環境では、課題の早期発見・議論の質の向上・意思決定のスピードアップが起きます。Googleが「Project Aristotle」研究で明らかにした「心理的安全性が高いチーム」の特徴と重なります(出典:Google re:Work、2016年)。

アサーティブなコミュニケーションが根づいた職場では、上司と部下の間の「見えないストレス」が減ります。「言いたいことが言えない」「どう思われるか不安」という精神的な消耗が減ることで、メンタルヘルス不調のリスクも下がる。

臨床の現場でも、「職場で言いたいことが言えないまま溜め込んできた」という背景を持つ方と出会うことは珍しくありません。アサーションの欠如は、個人の問題ではなく、**組織が整えるべき環境の問題**でもあるのです。

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## 管理職がアサーションを学ぶと、チームが変わる

「自分はそこまで主張が強くないつもり……」という管理職の方ほど、一度立ち止まって考えてみてください。

部下にとって、上司は「評価をする人」です。どれだけ穏やかな管理職であっても、部下は無意識に「何を言っても大丈夫か」を測っています。

アサーションを学ぶ意義は、**自分が変わること**と同時に、**部下が「言える」と感じられる場を作ること**にあります。

研修でいつもお伝えしている実践ポイントは3つです。

**① 自分のタイプに気づく**
攻撃的・非主張的・アサーティブのどのパターンが多いかを知るだけで、対話のクセが見えてきます。「自分はどちらかというと非主張的かも」と気づくだけでも、最初の一歩になります。

**② 「I(アイ)メッセージ」を使う**
「なぜそんな言い方をするんだ(Youメッセージ)」ではなく、「私はそういう表現が少し気になりました(Iメッセージ)」というように、主語を自分にして伝える。これだけで、相手が防御的にならずに受け取りやすくなります。

**③ 「聴けているか」を定期的に確認する**
アサーションは「言う技術」だけではありません。よく言われることですが、「話が上手な人は聴くのが上手」。相手が話してくれる環境を作ることが、アサーティブなコミュニケーションの基盤です。質問できているか、相槌は打てているか、相手の意図を汲み取れているか——これを定期的に振り返るだけで変化が生まれます。

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## よくある質問(FAQ)

**Q. アサーション研修は、どのくらいの時間で効果が出ますか?**

A. 「知識」としては1〜2時間の研修で得られますが、「スキル」として定着させるには練習と振り返りが必要です。研修でよくお伝えするのですが、「スキルは3倍、思考(考え方)の変化は50倍の効果がある」といわれます。定期的なロールプレイや1on1での振り返りを組み合わせることで、現場での行動変容につながります。

**Q. ハラスメント防止研修とアサーション研修はどう違いますか?**

A. ハラスメント防止研修は「やってはいけないこと」を理解するものですが、アサーション研修は「どう伝えるか」の実践スキルを育てるものです。両者は補完的で、「禁止事項を知っている」だけでは、実際の対話の場面で応用しにくいことがあります。アサーションの習得が、ハラスメントリスクの低減にも直結します。

**Q. 部下に「意見を言っていい」と伝えても、なかなか変わりません。**

A. 「言葉だけで安全を保証しても、環境が変わらなければ部下は動かない」というのが現場の実感です。上司自身がアサーティブな言動を見せること(ロールモデルになること)が、最も効果的なアプローチです。「自分も失敗することがある」「提案は歓迎する」という実際の行動が、言葉以上のメッセージになります。

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## まとめ——「自分も相手も大切にする」が、職場文化を変える

アサーションとは、「強く主張する」ことでも「相手に合わせる」ことでもありません。

**自分の気持ちや意見を、相手の権利を侵害せずに誠実に伝える。そのうえで、対話を通じてお互いが納得できる形を探す。**

これは特別な才能ではなく、日々の意識と練習で少しずつ身についていくものです。「全部すぐに変えよう」とする必要はありません。まずは「自分はどのタイプが多いか」に気づくことから始めてみてください。

管理職の方が変わると、チームが変わります。チームが変わると、部下の「言えなかったこと」が出てくるようになります。それが、職場のメンタルヘルスと生産性の両方を支える土台になります。


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