高橋先生に、どう伝えようか――。カフェオーナーの佐藤は、数日間、言葉を選びあぐねていた。直接電話するのは気まずい。悩んだ末、メールで伝えることに決めた。
『高橋先生。先日はご相談に乗っていただき、ありがとうございました。大変恐縮なのですが、今後の税務につきましては、別の先生にお願いすることにいたしました。先生の豊富なご経験に基づくアドバイスには感謝しておりますが、コミュニケーションの面で、より自分に合うと感じる先生が見つかりましたため、このような決断となりました。短い間でしたが、ありがとうございました。』
何度も読み返し、失礼がないか確認する。送信ボタンを押す指が、わずかに震えた。これで、後戻りはできない。
返信は、翌日の昼過ぎに届いた。驚くほど簡潔な文面だった。『佐藤様。承知いたしました。これまで作成した資料等はお送りします。今後のご健闘をお祈りいたします。』
引き止められることも、理由を詳しく聞かれることもなかった。佐藤は、少し拍子抜けしたような、それでいて、やはり自分の判断は間違っていなかったのだと確信するような、複雑な気持ちになった。
さて、新しいパートナーはどちらにお願いしようか。オンラインの手軽さと共感力のある鈴木先生か、経験豊富で何でも聞けそうな山田先生か。佐藤は、カフェのカウンターでコーヒーを淹れながら考えた。決め手になったのは、「どんな小さなことでも、分からないことは遠慮なく聞いてくださいね」という山田先生の言葉だった。あの安心感が、今の自分には何より必要だと感じた。
佐藤は山田先生に正式に依頼の連絡を入れた。後日、事務所で契約を交わし、今後のスケジュールや具体的な進め方について、改めて分かりやすく説明を受けた。「これでやっと、安心してカフェの経営に集中できます」佐藤が言うと、山田先生は「もちろんです。そのための私たちですから」と穏やかに微笑んだ。
カフェの窓から、春の柔らかな日差しが差し込んでいる(※現在の日付を反映)。新しい帳簿を開きながら、佐藤は清々しい気持ちでいた。隣には、信頼できる羅針盤となってくれる税理士がいる。もう、心の中で「あなた税理士でしょう?」と不満をぶつける必要はない。専門家である前に、一人の人間として、信頼し合える関係。それこそが、前に進むための大切な力になるのだと、佐藤は実感していた。
(このシリーズでは、税理士とのコミュニケーションで生じる問題と、より良い関係構築のヒントを探ってきました。ご愛読ありがとうございました。)