合理的経済人はリスクがお好き?

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伝統的経済理論においては、「合理的経済人」を前提とした理論展開がなされています。合理的経済人とは、いつも合理的で全く無駄をしない人、常に最大効率を追及する人、などと定義されているようです。 

近年進展を見せている行動ファイナンス理論では、この合理的経済人を前提とした理論体系に見直しを迫っています。

私たちが合理的経済人ではあり得ないことを示すために、同等の内容の2つの質問を行ってその回答の偏りを調べるといった、実証的なアプローチを続けています。もちろん、これは研究の一例に過ぎません。

さて、上記の代表的な質問として、よく次のようなものが引き合いに出されます。
 A:「必ず50万円を貰える」
 B:「50%の確率で100万円を貰えるが、50%の確率で何も貰えない」
この場合は、Aを選択する人が多く、利得に関しては人はリスク回避的であると結論付けられています。

また、同時に次のような質問もなされるようです。
 C:「必ず50万円を支払う」
 D:「50%の確率で100万円を支払うが、50%の確率で何も支払わないで済む」
この場合は、Dを選択する人が多く、損失に関しては人はリスク追求的であると結論付けられています。

さて、AとB、CとDは、実は期待値が等しいことは容易に分かります。それにも拘らず、選択結果は明らかに偏っています。これはプロスペクト理論として知られているものです。

ここで、AとB、CとDの選択者の割合が等しくなる場合を考えてみることにします。
それが仮に、B:「50%の確率で110万円を貰える・・・」、D:「50%の確率で110万円を支払う・・・」であったとします。そうすると、AとB、CとDの期待値は明らかに異なることになります。
ちなみに、Bの期待値は55万円の利益、Dの期待値は55万円の損失です。

もしも、この選択をする人が合理的経済人ならば、間違いなくBとCを選ぶことになるでしょう。しかし、私たち一般人は、この段階でようやくAとB、CとDとが、半々に分かれることになるわけです。

これは、私たちが合理的な判断を行なえないからなのでしょうか。私は、けしてそんなことはないと考えます。

話を分かりやすくするために、上述の質問を、1回当たりのトレードに置き換えて考えてみます。
すなわち、
 A':「1回当たり必ず50万円の利益」
 B':「1回当たり50%の確率で110万円の利益があるが、50%の確率で利益はない」
 C':「1回当たり必ず50万円の損失」
 D':「1回当たり50%の確率で110万円の損失があるが、50%の確率で損失はない」
となります。

今、A'とB'の場合について考えると、これらのトレードの期待収益は、明らかにB'の方が高くなります。
B'はA'よりも1割高の期待収益です。合理的経済人ならB'を選択することになるでしょう。

しかし、賢明なトレーダーならどうでしょうか。私は賢明なトレーダーではありませんが、もし私だったら間違いなくA'を選択するでしょう。
理由は明白です。A'はリスク0であり、B'はそれと比べればリスクを有するトレードであるからです。 

これは、資産カーブを思い描いていただければ分かりやすいでしょう。
A'の資産カーブは右肩上がりの完全な直線であり、標準誤差は0、従ってEERは無限大です。一方のB'の資産カーブは階段状に上昇し、0でない標準誤差と有限のEERを持つことになります。

トレードにおいてのリスクは、標準誤差と同義です。トレーダーはリスクの極小化を図るべきであり、期待効率とのトレードオフを考慮して、選考を行なうはずなのです。
合理的経済人は、資産カーブの回帰直線しか見ませんが、賢明なトレーダーは、合わせて-2δラインを見ているのです。

なお、B'の場合は損失を被ることがないから、A'との単純な比較は難しいかもしれません。そこで、B'を「1回当たり50%の確率で150万円の利益があるが、50%の確率で40万円の損失がある」と置き換えると、リスクに対する反応はより明確になるでしょう。
ちなみに、この場合の期待値も55万円となります。

標準誤差はさらに大きくなり、EERは低下します。また、この場合は1回当たりの期待値こそ55万円の利益ですが、大きなドローダウンが生じる可能性をはらんでいます。
いきなり連敗から始まれば、期待利益に達する前に破綻することだってあり得ます。期待値だけを見ていては、正しい投資判断は行なえないのです。

さて、ではC'とD'の場合はどうでしょうか。合理的経済人はC'を選ぶでしょう。はたして賢明なトレーダーはどちらを選ぶでしょうか。
答えは、「どちらも選ばない」です。しかし、それではインチキであり、回答になっていません。ここでは、無理やりどちらかを選ばなければならないものとします。

私の場合、もしもトレード回数が無限であるならば、C'を選ばざるを得ませんが、トレード回数が有限であり、ほどほどで中止できるのであれば、D'を選ぶでしょう。

その場合、私の関心は+2δラインに向けられることになります。このラインが回帰直線から乖離しているほど、損失を低く抑えられる可能性が出てきます。もちろん、-2δライン側にずれる可能性もあるが、その場合は諦めるしかありません。

以上のように、私たちはリスクというものを考えることにより、プロスペクト理論と同様の結論を得ることができるのです。

私たちが利得に対してリスク回避的であるのは、与えられた選択肢を時間軸に展開して考えた時に、利得のバラツキ、すなわちリスクが小さい方が、安定した資産カーブを維持できるのではないか、と推察するためではないでしょうか。

その一方、私たちが損失に対してリスク追求的であるのは、損失にバラツキがあればあるほど、損失量が下振れする可能性があることを知っているからである、とは思えないでしょうか。

そう考えると、これらは合理的経済人よりも合理的な選択であると言えるのではないでしょうか。

それでも、無限回の試行の後には、合理的経済人の判断が勝るということもまた、事実です。
しかし、選択肢の条件を定額の損益で考える代わりに、定率の損益で考えたらどうでしょう。その場合は、複利リターンが重要な判断材料となります。

以前のコラムで考察したように、バラツキが大きいと複利リターンが小さくなることから、期待値だけで判断する合理的経済人は、無限回の試行の後でも「非合理的経済人」に敗れてしまう可能性があるのです。

緻密なポートフォリオでリスクを回避する合理的経済人は、案外とリスクに無頓着なのかもしれません。


※今週は立会日が3日間しかなかったため、「これまでのシステム成績」は休載いたします。

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