刑事事件のニュースを見ていると、
「自分では手を下していないのに逮捕された」
というケースがあります。
その際によく登場する言葉が、
「共謀共同正犯(きょうぼうきょうどうせいはん)」です。
少し難しい言葉ですが、刑法上は非常に重要な考え方です。
今回は、この「共謀共同正犯」について、できるだけ分かりやすく解説します。
共同で犯罪を行うという考え方
まず刑法では、複数人で犯罪を行った場合、全員が責任を負うことがあります。
たとえば、
Aが被害者を押さえつける
Bが財布を奪う
この場合、財布を直接取ったのはBですが、Aも強盗罪の責任を負います。
これが「共同正犯」です。
刑法60条は、
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする
と定めています。
つまり、
「一緒に犯罪をやろう」と意思を合わせ、役割分担して犯罪を実行した場合には、全員が“実行した者”として扱われるのです。
問題は「実行行為をしていない人」
では、こんな場合はどうでしょうか。
例
Aが「金を奪おう」と計画
Bが実際に暴行して金を奪う
Aは現場にはいない
この場合、Aは被害者に触れてすらいません。
ではAは無罪なのでしょうか。
ここで登場するのが、
共謀共同正犯という考え方です。
共謀共同正犯とは?
簡単に言えば、
「犯罪を一緒にやろうと合意し、その計画を支配していた者は、実際に手を下していなくても共同正犯になる」
という考え方です。
つまり、
指示した
計画した
主導した
実行役と意思を通じていた
という場合には、
自分が直接実行していなくても、犯罪全体を共同で行ったと評価されることがあります。
なぜそんな考え方が必要なのか
もし、
「実際に殴った人だけが犯人」
というルールだと、裏で指示する“黒幕”が逃げてしまいます。
たとえば暴力団事件や特殊詐欺などでは、
指示役
連絡役
実行役
が分かれていることが多いです。
しかし実際には、組織的に犯罪を動かしているのは“指示役”であることも少なくありません。
そこで裁判所は、
実行行為そのものをしていなくても、犯罪を共同で支配していたなら責任を負う
という考え方を採用してきました。
「共謀」だけで処罰されるの?
ここで誤解されやすいのですが、
単に話し合っただけで直ちに共同正犯になるわけではありません。
重要なのは、
本当に犯罪の意思が一致していたか
実行との結びつきがあるか
犯罪を現実に支配していたか
です。
つまり、
「冗談で言った」
「雑談だった」
「止めようとしていた」
という場合まで当然に共同正犯になるわけではありません。
刑事裁判では、
LINEのやり取り
通話履歴
指示内容
金の流れ
現場との関係
などから、共謀の有無が慎重に判断されます。
教唆犯との違い
ここは非常に重要です。
教唆犯
他人をそそのかして犯罪をやらせる人
共謀共同正犯
自分も“共同実行者”として犯罪に加わっている人
似ていますが、刑法上は位置づけが異なります。
たとえば、
「やれ」と一方的に唆しただけ
→ 教唆犯
一緒に計画し、役割分担していた
→ 共謀共同正犯
となる可能性があります。
実務上かなり重要な論点
共謀共同正犯は、実務では非常によく問題になります。
特に、
特殊詐欺
暴力団事件
組織犯罪
薬物事件
SNSを通じた犯罪
などでは、
「誰がどこまで関与していたか」が重要になります。
一方で、
“共謀”という見えにくいものをどう認定するのか
という難しさもあり、冤罪との関係でも慎重な判断が求められる分野です。
最後に
共謀共同正犯という考え方は、
「実際に手を下した人だけが責任を負うわけではない」
という刑法の現実的な発想を示しています。
現代の犯罪は組織化・分業化が進んでいます。
だからこそ刑法は、
誰が実行したか
だけでなく、
誰が犯罪を動かしていたか
にも注目するのです。
刑事事件では、
「現場にいなかったから無関係」と単純には言えないことがあります。
その背景には、この「共謀共同正犯」という考え方があるのです。
南本町行政書士事務所 代表 特定行政書士 西本