――元コンサルが語る、理想と現実の間にある静かな摩耗
「経営を変える側に回りたい」
そう思ってコンサルティング業界に入る若手は多い。
かつての私もその一人だった。
経営課題を分析し、戦略を立て、企業を変える――そう信じていた。
だが、実際の現場で目にしたのは、経営を“動かす”よりも、
“動かすための資料を作り続ける”日々だった。
■Aさん(戦略コンサル・2年目)
「経営層と議論するどころか、深夜2時にExcelとにらめっこ」
Aさんは旧帝大出身。大手戦略コンサルに新卒で入社した。
「経営者と直接議論できる仕事」に憧れていたが、実際は違った。
1日の大半は、リサーチと資料作成。
市場データの収集、グラフの作成、ロジックの修正。
「1枚のスライドに3時間。しかも朝出したものが夜には全部差し替えです。」
openworkでは「残業45時間」と書かれていたが、実態はその倍近い。
深夜でもTeamsの通知が鳴り、休日は「軽く修正しておいて」と指示が来る。
だが、誰も「忙しい」とは言わない。
静かにモニターの光だけが灯るオフィス――それが現場のリアルだ。
■Bさん(ITコンサル・3年目)
「経営に助言するより、“現場を回す泥臭さ”がほとんど」
BさんはITコンサルとして、メーカーの業務改革プロジェクトに参画している。
クライアントは経営企画部だが、実際に相手をするのは現場の担当者たち。
「朝7時に現場入りして、夜は22時に帰る。
ベンダーとの調整、課題表の更新、報告資料の作成…。
経営層と話すのは、月に一度の定例会議くらいです。」
つまり、“経営を動かす”というより、“経営が動けるように整える”仕事だ。
華やかに見えて、実際は地道なオペレーションとコミュニケーションの積み重ね。
そこに求められるのは、知的な閃きよりも、体力と粘り強さだ。
■「経営の先生」ではなく「経営の通訳者」
学生が抱く「経営層に助言するコンサル」というイメージは、現場ではほとんど見られない。
現実のコンサルは、経営層が判断できるように情報を整理し、提示する“通訳者”だ。
経営者に「こうすべきです」と進言する立場ではなく、
「判断のための材料を整える」立場に近い。
つまり、意思決定の主役ではない。
それでもクライアントから求められるのは、完璧な論理とミスのないアウトプット。
そこに妥協は一切許されない。
■筆者の実感:「この努力、自分のために使えたら」
筆者である私も、かつて同じように夜遅くまで資料を作り続けていた。
経営課題の構造化、提案資料の設計、上司の赤入れ対応。
確かに思考力は磨かれたし、論理の精度も上がった。
しかし、ふとした瞬間に思うのだ。
「これ、結局お客様自身でできるのでは?」
「この努力を自分の事業に使ったらどうなるだろう?」
他社のために全力を尽くすことが尊い時期もある。
だが、深夜残業や土日稼働が常態化する中で、
「自分の意思で動かしたい」という感情が少しずつ強くなっていった。
結果として私は、ベンチャー・スタートアップの側へと移った。
自分の手でプロダクトを作り、数字で成果を見届ける。
そこでは、PowerPointではなく“実際の事業”が動く。
あの頃感じていた閉塞感の理由が、ようやくわかった気がした。
■「卒業」ではなく「次のフェーズ」へ
一定期間を経て、コンサルから事業会社や起業へ進む人が多いのは自然なことだ。
誰もが「自分で考え、動かしたい」という欲求を持っている。
コンサルという仕事は、その“準備運動”なのかもしれない。
深夜の資料づくり、上司の赤入れ、経営層への報告。
そうした経験を通じて、思考の筋肉が鍛えられる。
だが、その筋肉を“誰のために使うか”を考えたとき、
多くの人が次の舞台を選ぶのだ。
■まとめ
学生が思う「経営を動かすコンサル」は、現実には「経営を動かすための情報を整える職人」だ。
openworkの数字では見えない“静かな激務”を支えているのは、使命感と忍耐力。
そして、その中で育ったコンサルたちは、ある瞬間に気づく。
**「他社の戦略を考えるより、自分の戦略を生きたい」**と。
深夜のPowerPointを経て、自分の意思で事業を動かす側へ――。
それが、元コンサルたちが選ぶもうひとつのキャリアのかたちだ。