第一話 丘乃手相鑑定所
阿佐ヶ谷のアーケード街から一歩入った裏通りにひっそりと佇む店があった。以前はパーマ屋だったらしく薄っすらと『ヘアサロン…』の文字がガラス扉に残っていた。その扉には申し訳程度の「丘乃手相鑑定所」の木製看板が掛かっていた。 扉が開くと棒状のベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた男性の声が響いた。声の主は黒いローブを纏い、中は柔らかな照明と香木の香りが漂い、訪れる者を別世界へと誘うようだった。
「あのぉ、今日予約していた神倉茉優です。丘乃先生ですか」
20代後半の女性らしい神倉は恐る恐る確かめていた。
「私が丘乃啓一です」
丘乃の深い眼差しは、まるで相手の心の奥底まで見透かすかのような鋭さを持っていた。
「まあ、こちらにお掛けになって、気楽にしてください」丘乃は静かに言った。茉優は少し緊張した面持ちで頷き、座ると手に握りしめていた予約カードを差し出した。 紫色の羅紗の布が掛けられたテーブルに手を差し出す神倉。
丘乃は彼女の掌をじっくりと見つめた。
「まずは、あなたの過去を見てみましょう」
丘乃の指が神倉の掌の線をなぞるように動く。
「あなたは…幼少期に大きな転機を迎えましたね。それは、家族に関わる出来事でした」
丘乃の言葉に神倉の目が見開かれた。
「どうしてそんなことがわかるんですか」
「手相は、あなたの人生の地図のようなものです。ここに刻まれた線は、過去、現在、そして未来の道筋を示しています。」丘乃はさらに詳しく掌の線を読み取っていく。
「あなたは最近、大きな決断を迫られる出来事がありませんでしたか。そして、それが今後の人生に大きな影響を及ぼすことになるでしょう」神倉
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