【本田教之】 あなたの悩みを、あえて解決せずに愛でるという提案
市場には解決策が溢れています。検索窓に不安を打ち込めば、秒速で答えが返ってくる時代です。システム開発の世界に二十年身を置く私も、かつてはバグを撲滅し、最短距離で正解へ辿り着くことこそが正義だと信じて疑いませんでした。しかし、最近はふと思うのです。私たちが対価を払ってまで手に入れたいのは、本当にただの正解なのでしょうか。整いすぎた答えは、時に人の心を置き去りにします。あえて解決せずに、その悩みをごろんと机の上に置いて眺めてみる。そこからしか見えない景色が、実は人生を豊かにする最高のスパイスだったりします。かつて旅先で出会った老齢の陶芸家は、自作の器にある小さな歪みを指して、ここが一番のお気に入りだと言いました。水が漏れるわけでもなく、使う分には何の問題もない、けれど確かに存在するわずかな傾き。彼はその歪みがあるからこそ、この器は呼吸をしているのだと笑いました。私たちの人生やキャリアにおける悩みも、同じではないでしょうか。何かが足りない、上手くいかない、そんな不完全な状態こそが、あなたという人間が今まさに動いている、生きた証拠なのです。私は相談を受ける際、すぐに解決策を提示することを自分に禁じることがあります。代わりに、その悩みがあなたの人生にどんな色彩を与えているかを一緒に考えます。効率よく不安を消し去ることは技術的に可能ですが、それは同時に、あなたがその葛藤を通じて手に入れるはずだった深い洞察や、誰かへの優しさまでも削ぎ落としてしまうことになりかねません。デジタルな解決よりも、アナログな納得。数値化できる成果よりも、手触りのある感情。それらを大切にすることこそが、今この場所で求
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