好きだから、 苦しい
凪は、部屋の灯りをつけないまま、スマホを握りしめていた。送った「私も」の文字が、画面の中で小さく光っている。既読は、まだつかない。(……寝ちゃったのかな)そう思った瞬間、胸の奥が、ひゅっと冷える。昨日も、今日も、「また話そう」と言ったのは悠真なのに。期待してしまう自分が、ばかみたいに思えてくる。時計の秒針が、静かに進む。部屋の中は、夕暮れから夜へと、ゆっくり色を変えていく。やがて——ピコン、と小さな通知音。心臓が跳ねる。『ごめん、さっき寝落ちしてた』その一文を見た瞬間、凪の呼吸が止まる。寝落ち。悪気はない。わかっている。でも。(私の「私も」は…… そのまま置いていかれたんだ)指先が、冷たくなる。続けて、もう一通。『最近ちょっと疲れててさ』言い訳ではない。正直な言葉。だからこそ、凪は何も責められない。「大丈夫だよ」そう打ちかけて、消す。本当は、「少しだけ寂しかった」そう言いたい。でも。重くなりたくない。迷惑になりたくない。凪は、深く息を吸う。『そっか。無理しないでね』それだけ送る。送信ボタンを押したあと、胸の奥に、じわっと熱が広がる。やさしい言葉を選んだのに、なぜか涙がにじむ。好きだから、優しくできる。でも。好きだから、苦しい。スマホを胸に抱き寄せて、凪は目を閉じる。暗い部屋の中、赤いリボンが、かすかに揺れた。この恋は、まだ終わっていない。けれど、凪の中で、何かが少しだけ、傷ついた夜だった。
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